第2話 本番に強い



 返してもらったテストが10点満点だった。


 親父は「やったー、10点だー」と大騒ぎして帰って母親(おれの祖母になる)に答案を見せたら、


祖母「おまえ、これは0点だよ」


 ほら、点数の下に横棒がピッて引かれてるじゃないですか。ゼロの下に横棒引かれてて、それを横に見て10点と勘違いしてヌカ喜びしたってオチなんですね。ま、とにかく、それくらいうちの親父は勉強ができなかった。


 ところが、小学校卒業のときに担任が進路を一応きいたら、


親父「受験します」


 当時は中学にいくってのは大変なことで、少なくとも頭のいいやつのやることだった。


 だもんだから、担任の先生は大笑いしてこう言った。


先生「おまえが中学合格したら、全裸で逆立ちして町内一周してやるよ」


 ところが、うちの親父は、「本番に強かった!」。


 というより本番で通常の三倍の力を発揮するタイプだった。



 中学合格。



 かなり年をとってからも、小学校の同窓会で担任の先生に会うと、「いつ全裸で逆立ちして町内一周してくれるんですか?」とからかっていたらしい。





 ところがこの話、ここで終わらない。うちの親父はその後高校も受験。見事合格。本当、本番に強い。さらに、


 大学受験。合格。その名も「東京農業大学」!


 うちの親父の田舎は福島。実家は農家。そこの息子が、東京の、農業大学に合格! そりゃすごい話だ。帰郷するのは、ちょっとした凱旋! かさねて言うが、中学にいくのも凄い時代だった。それを大学。しかも東京の「農業」大学である。いやまじ、凄い話である。


 で、その後田舎に帰ったときに、家族が、親父に桃の木を剪定させたそうである。


 翌年、その桃の木は、たったのひとつも、実をつけなかったという伝説が、田舎には残っている。

 

 農業大学で、なに勉強してたんだ?


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