第四幕『掠奪と虐殺』

「行けお前等!船長以外の船員は全部殺せ!積み荷は奪え!」

「アタシらも行くよ!死弾の男共に遅れを取るんじゃあないよ!」


 二隻の海賊船から海賊たちが商船に雪崩込み、そこはあっと言う間に地獄絵図と化した。動きを止めた商船にも鉤付きロープを渡し、身軽な特攻部隊が完全な制圧に向かった。程なく抵抗の術を大して持たなかった商船は海賊たちの下に完全に沈黙した。


 戦闘の終了と共に、非戦闘員の仲間が一斉に商船の中を探索に行く。料理人たちは備蓄されている食糧を探り、最終的に船を沈める為に船底に爆薬を仕掛けに行く部隊が船に潜る。この戦闘で多少の怪我をした者を手当する船医たち。そして商船の船長を生け捕りにして縛り上げ、殺した船員たちの遺骸を甲板に積み上げる。情報屋のレヴがようやく自分の出番と死体の山に駆け寄った。


「素晴らしい量ですね。これだけあればまた魂篭の玉も作れましょう」


 小柄な少年の足下がぐにゃりと歪み、その影がヒトガタを形成して立ち上がった。フードを目深に被って顔を隠している青年は、それが生きて活動しているのが不思議に思える程痩せこけ、まるでミイラのような風体をしていた。


「玉の生成は程々にしますから。コール、貴方の食事の余りで作るって言う約束でしょう?」

「分かっておりますレヴ様」


 影から出て来た吸血鬼コールが、その細い腕からは想像も出来ない怪力で男の死体を持ち上げ、おもむろにその首に喰らい付いた。じゅる、と水分を吸う音がして、喉を鳴らしてコールがその血と水分を飲む。手の中にあった男の死体はあっと言う間にミイラになった。


「っぷはー!美味しい!」


 ガゴン、と投げ出されたミイラの上に、次々に血液を吸われたミイラが積み重なる。仕舞にはコールのその長い髪が死体の山を覆い、髪から血を吸い上げ始め、その肌に張り艶が戻る一方で、大量の死体の山はミイラの山へと変貌していた。


 その様の一部始終を目の当たりにした商船の船長はいつの間にか白目を剥いて気絶していた。同じくそれを傍観していた白魚船長オリガも、その顔を残虐な笑みに変えていた。こんなにも非人道的な事を堂々とやってのける海賊が現れた。その惨状を目の当たりに、彼女の殺戮を楽しむ残虐性が騒ぐのを感じていたに違いない。


「ごちそうさまでした」


 両手を合わせてミイラに一礼をしたコールの姿は、すっかり見違えてツヤツヤと張りのある肌をしていた。食事を終えて日差しを避けるようにレヴの影の中へと再び姿を消したコールを見送った頃、粗方の負傷者の治療を終えた医療班がミイラの山の前に陣取る。船を襲った後の後片付けは、迅速に効率良く流れ作業だ。食料を各々の船に運び出す各調理班を横目に、手の空いたヴィカーリオの船員が医療班を筆頭にミイラの解体をしていく。鋭く砥がれたナイフで表面の肉を削ぎ落として骨だけを回収する。削り取ったカラカラの肉はフカの餌だ。組まれた樽は次々に放り込まれる骨で埋まっていく。


「アレはどうするんだい?」

「企業秘密ってヤツなんですよねぇ……こればっかりは白魚の姐さんにも教えられないんですわ」


 えっへっへ、と笑ってやれば、オリガが不敵に笑い返してくる。おぉ、おっかねぇ……。

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