024 買い出し




 旅のお供は、またしても例の騎士五人組だった。エラスエルがお出かけする際には騎士を付ける決まりがあるんだって。さすが賢者ソフォス

 何故かダスティも付いてくるらしい。どゆこと。

 たぶん、かみさまが思うにダスティはお目付け役なんだと思う。

 あの騎士五人組はダメダメだもの。


 さて。急遽決まった逃避行。

 かみさまはウキウキで旅の準備を始めた。オジサンが作ってくれたリュックに荷物を入れてみたり。でも、何か足りない。

 うむ。買い出しが必要ということだ!


「シルフィ、ゼロはお買い物に行きたいなー」

「はーい。わたしも買い物したいので、一緒に行きましょうね~」

『『『『『『『あい!』』』』』』』


 うん。むにゅ達は問答無用で付いてくるよね。分かってる。


 お屋敷の偉いお弟子さん達がやや心配顔だったけど、かみさまとむにゅ達、シルフィエルでお買い物へ出かけることにした。



 まず、食料品を扱う市場へ行って、ダイフクとチダルマの欲求を満足させる。

 お支払いはシルフィエルです。厳密にはエラスエルから預かったお金なんだけど。

 かみさまだって小金持ちなのに、おじいちゃんったら、もう!

 でも、愛ゆえの喜捨はありがたくいただいちゃう。それも神への一歩なのです。


 次に冒険者向けのお店で、武器とか罠とか毒薬を購入。クロポンとカビタンがとっても真剣に選んでたのが、怖かった。

 君達、一体どこを目指してるの?


 オジサンは生地屋通りで念入りに選ぶというので置いてきて、その間に道具屋でヒヨプーの欲しがるものをゲット。鍛冶で使うようなものから、それどうするのって感じの小さなネジとか、集めてた。買い方が豪快で、お店の人に「商売でもするのか」と言われてしまった。かみさまが使うんじゃないのに、微妙な微笑み顔されたよ。風評被害なのだ!

 オジサンを迎えに行けば、微妙な色違いの糸を全部揃えたいとか言われて、マニアか! と突っ込んじゃったね。


 そんなわけで、お店の人たちからは「お金持ちの家の子供の爆買いツアー」だと決めつけられたっぽい。

 かみさま、納得いかない。


 納得いかないと言えば、シルフィエルですよ。

 お財布はエラスエルのものなのに、気にせずバンバン使ってる。かみさまや、むにゅ達の分だけじゃない。自分のものを。

 それも、旅行に関係ある? みたいなのを……。


「もう少し負けてよ、おばちゃん~」

「お嬢さんもしつこいね。仕方ない。じゃあ、三巻は銅貨一枚まけておくよ」

「二枚」

「一枚だね。あんた、本は高いんだよ」

「ぐぬぬ……」


 ぐぬぬ、って言う人、初めて見たよ。

 ていうか、お金あるんだから値切るのやめようよ。

 あと、恋愛小説の三冊セットは今、必要ないんじゃないかな。

 旅行に持っていくつもりかしら。


「ゼロちゃん、これ、むにゅちゃん達に預けてもいいですか~?」

「もしかして最初から狙ってた!?」

「えへ」


 むにゅ達はかみさまの眷属なんですけど。

 荷物係にするつもりだったとは、シルフィエル、恐ろしい子!

 でも、いつも好き好きオーラをいただいちゃってるし、しようがない。許してしんぜよう。


「その代わり、おやつは三銅貨までね。バナナはおやつに入りません」

「やった!」


 スルーされてしまった。


「どうしたんです、ゼロちゃん。変な顔になってますよ~」

「失敬な」

「あははー。可愛い! ゼロちゃん、じゃあ本をお願いします!」


 天然っ娘って怖い。シルフィエルはかみさまの微妙な気持ちなんてお構いなしに、恋愛小説をドンと渡してきた。しかも、まだ買うつもりらしい。店主に、頼んでる。

 なんだか長くなりそうな気がして、かみさまは、そろっと店を出た。




 本屋を出ると、カガヤキが付いてきたので一緒にウィンドウショッピングする。

 カガヤキは欲しいものないのかな。


『かみ ほしい』

「なんで紙なの?」

『カガヤキ かこむと いい しょうめい』


 オシャレ照明になるつもりらしい。そのままの可愛さだけでもいいのに、より高みへと努力する姿はさすが、かみさまの眷属なのだ。

 よって、かみさまがたくさん買ってあげよう。


「おじさん、この店の紙、全部ちょーだい!」

「え? ぼうや、一人かい? 全部ってのは無理だなー、ははは」

『かいしめ きんし?』


 ハッ。つい、勢いで。

 かみさまとしたことが。落ち着け。


「えーとね。薄い紙が、いいなー」

「そうかそうか。でも、ぼうやに買えるかな。紙ってな、高いんだよ」

「持ってるよ。ほら」


 ポケットから取り出すフリで、カガヤキに出させる。

 てのひらに載せられたそれを見て、かみさまはギュッと握ってカガヤキに視線を向けた。

 コレジャナイ。


『きれい ひかってる』


 かみさまは目を細めてカガヤキを見つめた。


「うお、なんだ、なんだか変な気配が……」


 おっと、神力が漏れ出てしまったようだ。


「寒気がするが、風邪かな。参ったな」


 神力じゃなくて、おどろおどろしたものだったらしい。かみさまは、ヒッヒッフーと息を整えた。

 カガヤキには念話で告げる。

 ちゃんとお金を出してね、と。

 こんなところで、ダイヤモンド的な物を出して、物々交換とかやっちゃいけないと覚えてほしい。

 カガヤキは渋々(何故だ)かみさまが預けていたお金を取り出した。

 ちなみに、むにゅ達同士で亜空間内のやり取りができるようです。すごいね!


「はい! これ、銀貨だよ!」

「お、おお、そうか。確かに本物だ。うーん、まあ服もちゃんとしたもの着てるし、しようがない。売ってやるよ。それより、お供の人はどうしたんだ? 店を出て問題になったら、こっちが困るからな」

「大丈夫。お付きの子はちょっと寄り道してるの。すぐ来るよ」

「そうか。じゃ、薄い紙だな。待ってろ」


 そう言うと、「さっきの寒気は何だったのかなー」と呟きながら、おじさんは店の奥へと入っていった。

 姿が見えなくなると、カガヤキは怒られると思ったのかピューっと店から出ていってしまった。眷属なのに、主を置いて逃げるとか有り得ないんですけどー。




 結局、かみさま自身の買い物って、おやつの干し芋だけで終わってしまった。

 みんな自由すぎる。

 各自、大量に買い物をしてホクホク顔なのが、ちょっとムカりんこ。

 それが伝わったからじゃないだろうけれど、むにゅ達は、


『『『『『『『かみさま だいすきー』』』』』』』


 と言ってきたので、もうもう、しようがないんだから!

 でも、残念美女のシルフィエルが、


「ゼロちゃん、いつの間にかいなくなるんだもん、探しましたよー! あと、本をお願いします!」


 なんて言ってきたので、むにゅ達に「てんちゅ」するよう頼みかけた、かみさまなのである。

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