G/SieMENS―ジーメンス―  電波怪異事件簿

にのい・しち

インシデント・1 電波少年、危機一髪!

第1話 もしもしジャックさん

 ――――もしもしジャックさん、聞こえましたら連絡下さい――――


 放課後、夕日に照らされた薄暗い教室には片側が内臓むき出しの人体模型や瓶詰めのカエル、マムシなどが棚にズラリと並んでいる。


 不気味な理科室に相反して、外から入るわずかな太陽光線に照らされたホコリは、舞い上がる粉雪のように幻想的に見せた。


 消毒液の匂いが漂う理科室で、三人の少年達は実験台に乗せた幾何学模様の印に熱心に語りかける。

 印の上には古い携帯電話が供えて有った。


 中学二年生の万丈目・縁司えんじは、まるでホラー映画の世界に迷い込んだ気分になり、早く抜け出すことは出来ないかと懇願こんがんする。


「ねぇ、やっぱり止めようよぉ~」


 眼鏡を掛け、髪を無造作に散らせる少年の頼みを、二人の親友がそう安安と聞くわけがない。 


 縁司から見て、右に座る町野が言う。


「何だよ万丈目、ビビッてるのか?」


 縁司は竹馬の友と、電話用の一本のアンテナを強く握り離さない。


 いや、"離せない"のだ。


 町野と対局の左に座る、室町はあおる。


「もう遅いよ。今、手を離すと呪われるから」


 解っていたが説得は無意味、縁司は狼狽ろうばいする。

 夕闇で表情が見えづらいが、こちらを茶化してニヤニヤしている。


 学校や時代によって、その遊びはコックリさんやヒキコさんなど言い方は違うかもしれないが、今は"ジャックさん"と言う儀式に変わった。


 続けて室町が話を放る。


「町野、こんな電話どこから持って来たんだよ?」


「親が昔、使ってたケータイ。ビッチ?」


PHSピッチじゃね?」


 呑気に会話する親友達を、縁司は恨めしく思う。

 不気味な雰囲気に耐えられず、彼は気を紛らわす為、何気なく教室の入口に目をやる――――。


「うわぁ!?」


 縁司は思わず掴んでいた手を離し、椅子から跳び退いた。


 竹馬の友は急な事態に慌てふためく。


「な、何だ!?」「おい!」


 驚いた町野、室町もつられて跳び退いた。

 縁司はゆっくり、ゆっくりと震える指を理科室の扉に向けた。


「い……今、白い女の人が……」


 親友二人は、縁司の小刻みに震える指先を眼で追ったが、夕日に照らされた廊下が見えるだけだった。


「おい、やめろよ!」と町野。


「そういうの面白くないし……?」続いて室町。


 彼らは自分達がアンテナを離した事に気付いた。

 しかも離した拍子に、アンテナがどこかにいってしまう。


 三人の少年は顔を見合わせる。

 胸騒ぎが心臓を掻きむしるようだ。

 ここに来て、二人の親友も場の異様さに当てられ、表情が引きつる。

 

 時を止めた三人。

 突然――――使われてないはずの電話が鳴り皆、背筋が凍りついた。


 ありえない。

 一世代前の携帯電話は、バッテリーは遠に切れアンテナは外している。

 着信するだけでも怪現象なのだ。


 しばらく鳴った後で、電話は勝手に通話状態になりゲリラ豪雨を思わせるノイズが聞こえた。


すると――――――――。



《ガガ、ガ…………ウゥ…………ウウウゥゥゥアアアァァァギャアアア△%@$■ァァァ――――――――》


 硝子を引っ掻くようなうめき声が聞こえ、三人の少年は、


「「「うわあああぁぁぁ!!?」」」


 絶叫しながら競うようにドアへ走り、理科室を後にした――――――――。

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