Middle3: 百手巨人を倒す方法

 “ヘカトンケイル”が向かってくる方角は、地の揺れと建物の崩壊から見誤る事はない。


「……あれね。“シュバルツォルム”、準備は良いいかしら?」

「ああ、大丈夫だ。精々マスターエージェントの邪魔にならない様に気を付けるとしよう」


 待ち構える二人に、震動は刻一刻と近付いて来る。やがてその地の揺れが収まり……朦々と立ち煙る土埃の向こうから彼は現れた。


「漸くか……。一々手間と時間を掛けさせるな。結局闘うのであれば、死ぬるのであれば、早きも遅きも同じ事」

「あら、私もなるべく早い方がいいのよ。奇遇ね? 時間は貴重だわ」

「……戦闘狂の考えは分からんな。ならばさっさと終わらせてやろう」


黒い、黒いその巨人は、地響きをあげながら二人の前へと歩いてくる。


「……では、存分に果たし合おうか」



GM:というわけでミドル戦闘だ!


竜胆:ごめんな、なんかすごいいい雰囲気なのに逃げる気満々で!


GM:エンゲージ間は5mだ。


竜胆:近い!


GM:こっちが足らないんだよ!


フランコイズ:10mだとあなたが戦闘移動で届かなくなるでしょ……。


竜胆:ていうかシンドローム同じだしな、わかる! 行動値は4だ。


GM:ヘカトンケイルは1だが、セットアップにてフルパワーアタック使うから0になる。


竜胆:くっ、侵蝕が足りないからまだ使えない……俺はセットアップ無しで。



◆1ラウンド目

行動値

 9 フランコイズ

 1 竜胆幸守

 0 “ヘカトンケイル”


エンゲージ

 [“ヘカトンケイル”]…(5m)…[フランコイズ、竜胆幸守]



GM:それじゃあイニシアチブはないからフランコイズの手番だ。



 フランコイズは自身のレネゲイドの侵蝕を高める。その力は彼女自身を蝕み、彼女の体から砂が立ちこめる。

「――変身」

 立ち込めた砂が武器を象る。

 それは小さな斧にとどまらず、フランコイズの腕を、胸を、全身を覆い、その体を一振りの剣と為す。

「――“降臨、満を持してリーラ・オーヴァーテュア”。よく見ておきなさい、これが“マスターライラック”よ」



フランコイズ:てことで、武器作成&エンゲージ。そのまま攻撃するわ。


ヘカトンケイル(GM):「…ほう、纏ったか。だが脆い」

リアクションを放棄、復讐の刃。彼は、貴方の攻撃など意にも留めずただ拳を構え、放つ。


フランコイズ:「チッ、やはりそう来るか……!」



「砂など纏った程度でどうにかなるとでも思ったのなら心外だ」

 フランコイズの攻撃は、彼に届かない。彼女の刃は、彼が纏う黒いモノに完全に阻まれている。

「……そうね。これでも戦闘技術でマスターの名を名乗れるだけの力はあるはずなのだけど。あなたとはすこぶる相性が悪いみたい」

 そう言うフランコイズの体を、“ヘカトンケイル”の振るった拳がえぐる。華奢なフランコイズの体は、それを受けて簡単に吹き飛ばされる。



フランコイズ:戦闘不能になるわ。リザレクト。


竜胆:ダメージが通って無い……?


GM:ここで、オリジナルEロイス《不死の巨人》を発動する。効果は

『一人のキャラクターの一回の攻撃のダメージを、一ラウンドに一度■■点軽減する。この効果は全ての効果に優先される』

 伏字の部分については情報項目で開示しよう。


竜胆:了解。割り込み無ければ次は俺か?


GM:そうだな。


竜胆:じゃあ、マイナーで完全獣化、破壊の爪、斥力跳躍を宣言。ダイス増やして素手変更してエンゲージだ。


GM:もちろんリアクション放棄、復讐の刃だ。



 竜胆は上半身の着物を脱ぐと体を竜に変異させ、翼を以て高く飛び上がる。


「ほう……仮面をつける小娘の次は竜か……。良い催し物だ」


 爪を剥き出し上空から飛び掛かる竜胆に、しかしヘカトンケイルは全く動じず殴り返す。彼の巨体は、ただ殴りつけるだけで既に凶悪な武器だ。いかに取り繕うとも、力の差は歴然。

 お互いの攻撃がぶつかった衝撃で竜胆は吹き飛び、コンクリートにめり込んだ。



竜胆:「なるほど、確かに効いていないようだっ……!」リザレクト。


ヘカトンケイル(GM):「軽すぎる……話にもならんな。では敗北者の常だが……死ね」


GM:というわけでこちらの手番だ。マイナーアクションで魔眼槍。メジャーアクションで竜胆を対象に白兵攻撃。


竜胆:そ、そうだな。装甲無視は無いな?竜鱗を宣言、装甲に+40だ。



 それは異様な光景だった。ヘカトンケイルの纏っていた黒い何かが、変化していくのだ。

 それは手のようにも、槍の様にも見えて……そしてそれが無数に彼の体から生えているように見える。

「防……げるか?! なんだあの量は!」

竜胆は咄嗟に翼を硬化させ、体を守る。しかし……。



GM:ダメージが4d10+64なんだよね……。


竜胆:なんだその固定値はーーーーーー!!!


フランコイズ:固定値で死ぬじゃないの!!(笑)


GM:い、いやあこれでも手加減したつもりなんだけど……。


竜胆:リザレクトだちくしょう!



「構えたようだが…脆い…脆すぎる。」


 その圧倒的質量を以て、彼は少年を押し潰す。周りのコンクリートやアスファルトを吹き飛ばし、後に残ったのは抉れた地面。

 数秒の後、竜胆はクレーター状になった穴から無言で這い出して立ち上がる。……が、足から力が抜けて膝をついてしまった。


「……」


 血を吐き捨て、爬虫類めいた感情の無い目で自分を睨んでいる竜胆に、ヘカトンケイルは余裕の声色で語りかける。


「強きが生き、弱きが死ぬ。其れが戦場の摂理。ならば其処を甘く見た己を恨め。慈悲だ、頭を砕けば生き苦しむ事も無いだろう」



GM:クリンナップ何かある?


竜胆:ねえよ!


フランコイズ:ないわ。



 フランコイズは、マスターエージェントである自分と、UGN急進派の精鋭である竜胆が為す術もなく蹂躙されている様をみながら呟く。

「うーん……これ、かなりまずいわね……いわゆる『ピンチ』ってやつかしら?」

 不思議なことに、その声音はどことなく嬉しそうな響きを含んでいる。



竜胆:ピンチなのはこっちだ全く……。


GM:では2Rのセットアップだ。先にこっちは宣言をしておくぞ。小さき魔眼、フルパワーアタック、さらにおまけ……爆裂重力lv10。ラウンド中白兵攻撃力が+239だ。誤記してないぞ、+239だ。



 彼の纏った黒いモノが、蠢いているのが分かる。

 それに触れようものなら、破れ捻られ轢かれ潰され、そして絶対に殺される事が理性でなく本能で理解できる。

 彼がゆっくりと構える。その理外の力をこの世界に顕現させて振るうのだ。制するには時間が掛かるのも必然。

 だが、遅くともよい。当たれば必殺、そして相手は動けぬ。ならば全力で力を振るうまで――



◆2ラウンド目

行動値

 9 フランコイズ

 1 竜胆幸守

 0 “ヘカトンケイル”


エンゲージ

 [“ヘカトンケイル”、フランコイズ、竜胆幸守]



GM:フランコイズの手番だ。


フランコイズ:マイナーは放棄、メジャーで白兵攻撃。


GM:リアクションで復讐の刃。ダメージは286。


フランコイズ:なら、わたしはこのまま戦闘不能になる。



「これは……まずいわね。まともに相手してたら身が持たない……これの性能試験とかほんと性格悪い女……!」


 フランコイズは、背後で立つ青年をちらりと見る。


「ピンチ……『絶体絶命のピンチ』ね……うん、どうせあと2年の命だ、やってみる価値はある」

「……わざわざ死にに来るとは愚かな」


 フランコイズは、自らを奮い立たせるように技の名前を口にする。


「“天使の一矢オーガ・デス・リーラ”」


 彼女は、ハンドアクスを以てヘカトンケイルに、彼が纏った黒い物に斬りかかる。しかし彼女の攻撃は全てそれらに弾かれ、残った部分が無数の凶器と化して少女へと襲いかかる。


「……こんなの喰らって倒れないやつの気がしれないわ。さて、竜胆幸守……『あなたは私の王子様?』」


幾多もの槍をその身に受け、倒れ伏すフランコイズ。竜胆が連れて行くか見捨てていくかは、彼女にとっては賭けとなる。薄れゆく視界に、半ば竜と化した青年が映る。


「……お前は、見ているのか」


 だが、青年が見ているのはヘカトンケイルでもフランコイズでもない。目線はヘカトンケイルへ向けながら、そこに重なる別のなにかを見ている。


「見ているのか。あの時と同じように、この俺を、笑いながら」


「俺は何もできないと、俺はあいつに勝てないと、そうやってあざ笑っているのか」


「……やってみせる。守って見せるさ」


「そのために、こんな物を与えたんだろう」



竜胆:「黒蛇」のロイスをタイタスにして昇華、硬直を打ち消して行動する!



 少女が地面に倒れる瞬間、黒い疾風がその体を拐っていく。



竜胆:マイナーアクションで斥力跳躍を使用、エンゲージから離脱。そしてメジャーアクションで逃走だ。


GM:はい、わかりました。



 竜胆はフランコイズを抱えて廃ビルの間に消える。

 ヘカトンケイルが、拳を振りぬく。それは何もかもを飲み込む一撃、爆発などという言葉に収まるものではない。一帯が須らく崩壊して……残ったのは漆黒の巨人一人。

生やしていた槍を収めながら、一言。


「……まだ動けたか。意地があるのは悪くない」

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