第4話 スポットライト

「やっべもうこんな時間か、そーいえば妹いないから晩御飯ないんだよねーアルル働いた後に悪いんだけど晩御飯頼めない?」

俺はもうかなりヘトヘトで正直帰ったら飯なんかよりも寝たいってのが要望なのだが、このまま寝た場合、帰って来た妹に色々と言われるのが面倒なので食べらなければならないのである。

「えぇーーーーーー、旦那様、私も疲れてますよ?」

ジトーと歩きながらアルルはこちらの顔を見つめた。

「そんなぁぁーー」

俺の残念そうにしている顔を見てアルルはニッコリして、

「ふふっ、嘘です、冗談ですよ。お任せ下さい、冷蔵庫の中のものでなにかお作り致しますよ。」このメイド悪魔、やたら女子力が高い、高すぎる。

あれ、そーいえば、もう一つ何か忘れてたよーな??ふとケータイを見ると着信歴がずらっーーーと並んであってしかもそれが全員、八月一日今日夏、つまり委員長からの電話であった。電話と別にスマホソーシャルアプリ<Rain>からメッセも来ていたので恐る恐る委員長に電話を返してみた。数回ぶるるーぶるるー何度かと鳴らしていると、委員長は電話に出た。

「あ!!ようやく繋がったわーほんま何やっとたんのアッキー、コンビニ行ったきりで帰ってこーへんからほんま心配したでーもうあっちこっち、こーちゃんと探し回っとって見つからんから最終的にアッキーの体力不足が夏の暑さにバテて家に戻って寝たんとちゃうんかって2人で結論付けて、結局うちらは先に帰らして貰ったからなー」

メカにしか興味がないと思いきや、やれやれ、ちゃんと委員長ってゆー立場だけはしっかりしてらっしゃる。ほんと。

「ごめんごめん、ちょっと用事があってだなーーそ、そう、うちの妹が町内会でなんか演奏やってるらしいからあいつの迎えに行かなくてならなくてだなーー」

我ながら無理が見え見えの嘘だが、まぁでも迎えに行くのは確かだしー罪には問われないはずー、そう言いつつも、8時半くらいにならないと妹まだ演奏終わんないし、まぁ流石に委員長が正確な時間を知るわけないか。

「ふぅーーーーーーん、なんか怪しいけど分かった、とにかくアッキーの身に何もなくてよかった〜」

彼女はホッとしたような声を漏らした。

「ははは、委員長ってほんと心配性なんだな、まぁでも心配してくれてありがとう。」

俺は片手に携帯を持ち、まだ日が沈みきっていないオレンジ色の綺麗な空を見上げて素直に感謝の気持ちを伝えた。

「なぁ、ところで委員長、」

「ん?どおしたん?」

「俺のズボンポッケにあの使えない塗り薬入れただろ?なんで入れたんだ?」

「いやぁ〜そんなんちょっとした気分やん〜き、ぶ、ん、アッキーに何かしらイタズラすんの面白いからね〜ズボンに入ってるっていつになれば気付くんかなぁーって試してみただけや〜あ、それまだうちの研究所に試作品がいくつもあるからもっとってええよ〜」

こっちはお前の研究用のモルモットとしていつも使われてるのに楽しそーに話してんじゃねーよと思ったが、

「まぁ、一応この薬に助けられたのも事実だしな。」

ボソッと小声で呟いた。しかし、委員長は聞こえなかったようで、

「え?アッキーなんかゆーた?」

「いや、なんでもないよ。また月曜日、学校でな委員長、お休み。」

「はいはーい、まったな〜、お休み〜。」

委員長、いつでもハイテンションだなと思い電話切りながら思わず微笑んだ。あぁーそれにしても今日の敵も中々厄介だったな。

「おいーアルルーーここら辺最近悪魔増えてきてないかー?」

ぐったりしてたので力の抜けた声でアルルに問いた。

「えぇ、確かにそうなんですよ、私もこの前アルッシュくんに言われるまで気づかなかったんですけど、どうやらこの一年の間で悪魔が人間に取り憑くケースが多くなっているみたいです。ここからは私の推測ですが、全ての悪魔を管理している大魔王サタン様についている超上級悪魔、私とサタン様を含め7人存在するんですが、私を抜いたこの6人の悪魔の中に裏切りがいるのかも知れません。」

「その、裏切りがこの今の状況と何か関係があるの?」

俺は顔をしかめてアルルに問いかけた。

「悪魔のゲートいうものは権限を与えられてる私たち七つの大罪を代表するら悪魔にしか開けないのです。」

ここ一年間ほど魔界や天界とかに振り回されていたが、このことについては初耳だったので俺は顔をアルルに向けたまま真剣に聞いていた。彼女は俺の顔ををチラチラ伺いながらアルルはこう続けた。

「元々このゲートというのは魔界、天界、そして人間界のバランスを保つ為存在してるものなんです。天使の場合は人間に幸福、運、命などを与え、我々悪魔は不浄な人間の監視または殺戮、幸福を与えられすぎている人間の運を吸い取ったりする為にゲートを利用し、人間界をうろちょろとすることがあります。人間はこれに対し、神に対して祈りを捧げたり、お供え物をしたりしますよね?これらが神々の力の源となります。それに対し、悪魔は人間の不浄な心と欲深さ、悪夢、絶望、命など人間が抱く負の感情を栄養源として生きていけるわけです。なので、人間界に出てきてそれらの栄養分を吸い取る悪魔は1日に何体と日に日に数は決定付けられているのです。」

ここまで無表情で話していたアルルの顔がガラリと変え、顔をしかめて話を進めた、

「ですが....もし...もしそのゲートをむやみに、しかも悪巧みをするものが現れたとしたら、悪魔の放出は一定量オーバーしてしまい、この三つの世界のバランスを保つことが出来ないのです。」

俺はゴクリと息を飲んだ。どうやら、俺が巻き込まれている状況はかなり深刻らしい。

「これは天使側もほとんど同じ条件なんですが、天使の場合、人間界に直接降りずとも天界から命を宿したりすることは出来ますので、彼らはゲートを頻繁に使うことはありません。ですから、事態は一刻を争ってるんです、私とアルッシュくんが天界に戻る為に旦那様を色々と巻き込んでましたが...」

「そこそこヤバイ状況ってことだな。」

「はい.....その通りです。」

アルルがそう言い終えると今までの声と周りの音はは空へと消えていくようなそんな感じの数秒の間沈黙が続いた。気まずかったので話題を変えることにした。

「そ、そんなことはまぁアルッシュがパッパと犯人が誰か調べ当てるだろう〜、そんな切羽詰まっても仕方ないしなーー」

正直、俺の言葉でも沈黙が続いたらどうすれば良いのかと少しドキドキしながらクビに手を組んで右片目でアルルをチラッと見た。

「そ...うですよね、辛気臭くしてしまってごめんなさい。あ、そういえば、晩御飯何か食べたいものございますか?」

そう言われたんで何故か咄嗟に、先ほどまで戦っていたおっさんの魔法弾を思い出した。ドロドロで熱いものーーあ、、

「カレー.....かな。」

俺はなんとなくそう答えた。

そんなこんなしていたうちに我が家が見えてきた。ようやくこの疲れた体を休めることができる。あ、後何時間後に妹を迎えに行かなくては。

疲れ果てたその腕で家のドアを開いた。家の中は真っ暗で、まるで人間の欲深さのように深く暗闇が永遠と続いている様だった。


私の名前は鷺沼淳(36)大手電気会社、ソニックユニオンの会社員をしている。金持ちでもなく、趣味もなく、おまけに彼女もいない。そんな真っ黒に染まっていた俺にある日突然、

「その冴えない魂を俺に預けて見ないか?」

と会社帰りの小路地から微かにそう囁かれた。

あからさまに怪しく、到底その声の主もわからなかったが、どういうわけか、その声優しい声に惹かれてしまい、気づけばその小路地に入ってしまった。その記憶から今に至るのだが、何故自分が夜の公園の椅子に腰掛けて睡眠をとっていたのかがどうしても思い出せない。そもそもこの公園は私の会社からのいつもの帰り道ルートではないのだ。ダメだ、記憶が飛んでいる。しかし、時間が経つにつれて微かだが少年と会話を交わしていたような記憶のみぼんやりと覚えている。

「おっさん、これからも頑張って働きなよ。近くで誰も応援しなくとも、少なくとも俺は応援してるぜ。頼みましたよ日本を、俺らの世代を....」

顔までは思い出せない。しかし、この少年がこの言葉をかけてくれた時、久しぶりに希望という光が見えたような気がした。この少年は一体何者だったのか、いやそもそもこれは夢で少年は実在しないのか? そんなことを頭の中で一人、討論していた。.....やはり思い出せそうではない。

「まぁ、いいっか。」

と椅子から立ち上がる。

あぁなんて足が軽いんだろう。まるで宙に浮かぶようだ。今まで絶望という重りを付けていて、その呪縛からようやく解放されたんだと感じた。

公園の時計を見ると、7時半を過ぎていた。公園に人の姿と形も見えない。男は大きく背伸びをして

「さぁーって、明日からも頑張りますかぁ〜。まずは何か趣味を見つけないとな。」

すると公園の向こうに町内パトロール隊がこの時間に出歩く中学生くらいの男子二人組を注意してるのが目に見えた。

「パトロール、か。そーいえば小学生の頃にヒーローになりたいとか言ってたな〜今度の休みに地区内会に参加してみよっかな。」

そんなほのかな希望と他人からしてみればくだらないと言われそうな趣味を彼は見つけた。彼は明日に向かって大きな前進をした。それは一歩ずつゆっくりだとしても彼が望む限り、誰にも邪魔されることなく、彼自身少しずつ前進行くのだろう。静かな夜が続いてる。街の街灯がスポットライトかの様に、彼の歩く道路を暖かな光で優しく鮮明に照らしいた。それはまるで、彼の新たなる決意を誰かが応援している、そんな光景であった。

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