神々に守られし世界と悪魔に壊されし俺の日常
なるなる☆
第1話 そしていつもの非日常がやってくる
かつて生贄というものが存在した。それは何かを代償として支払わなければ何かを得られない、というハンデのある代物だった。なぜ人々はこんな得体の知れない代償を重ねてきたのか?それは、夢を見たかった、幻想を実現させたかったからである。夢や幻想とは言っても、他人からしてみればちっぽけでどうでもいいものから、世界をも覆すような絶大で恐ろしいものまで存在する。どんな夢でも叶えるには何かしらの代償を払わなければならない。つまり生贄が必要だった。俺の場合、生贄はなんだったのか?それは日常だった。非日常に憧れていなかったといえば嘘になる。しかし、日常を捨ててまで手にする必要があったのか?今更考えたところで答えは出ないことは分かっている。俺はただ女友達を増やし、彼女が欲しかっただけーーーそれが俺のーー夢だ。
「....ーーちゃん、おーーちゃん、んねぇぇーーお兄ちゃんってばぁ〜〜。」
どうやらまた、中3の頃からよく見ていた夢を見ていたようだ、これは悪夢と言っていいのかはたまたただの夢として扱って良いのかはまだはっきりしていない。夢の中で見知らぬ女の子が泣きながら助けをひたすら求めてる、そんな夢だ。何度も助けてはやりたいという気持ちは自分の中であるにはあるが、夢の中ではどうも体がうまくコントール出来ない、なので俺は声をかけてやることさえできなく、ただひたすら立ち尽くしてその様子を眺めているだけ.....例え夢だとしても自分自身に屈辱感を覚える。
しかしその夢は、いつものように妹のモーニングコールで掻き消される。夢の中では何か大切なことをその女の子から伝えられたような気もするがいつもそれが何かが思い出せない。
「お兄ちゃんてばっ、毎日起きるの遅ぉーい、春遅刻しちゃうじゃんーー、とりあえずご飯はもう作ってあるから早く着替えてお兄ちゃん!」
枕元に置いてあるデジタル時計は9月3日金曜日と表示されている。すっかり忘れていたがどうやら今日はうちの高校と春の中学の始業式のようだ。
「わかったわかったー春、とりあえず準備するから部屋から出て言ってくれー。」
カーテンから直線で照らし出される太陽光はまるで熱したフライパンのような暑さを放ち、それと共に人肌にずっと触れているような生温い風が部屋に吹き渡る。
ついこの間、エアコンが壊れたせいで毎晩窓を開けっぱなしにして寝ないと暑すぎて寝付やしない。
「本当に?お兄ちゃんそんなこと言っていっつも二度寝するから信用出来ないんだよねぇー。」
妹は俺の顔を上目使いで見ている。
それをちょっと生意気だと思い、俺も
「おいおい妹よ、いつもとはなんだ、お兄ちゃん二度寝なんて週に3回ほどしかやらんぞ!!」
と踏ん反り返ってみるが、妹は俺の精一杯の威張る姿に対し、
「いやぁ....それ普通に多いじゃん。とにかく今日は二度寝しないでね?わかった?今日から夏休み明けの始業式なんだから。」
と妹は呆れ顔をしながらそう言い返されてしまった。
「はいはいわかったってーーほら早く出て言ってくれーー。」
そう言って俺は俺に呆れ果ててる妹の背中を押して無理やり部屋の外に出した。
「あーーちょっとおにぃちゃん!いたぁーい女の子虐めるとかそんなんだからおにぃちゃん万年彼女出来ないんだよぉー。」
プクッーと餅のように頰を膨らませて妹は言った。
「るっせ、余計なお世話だ。着替えたら下に向かうからおまえ先に飯食ってろー。」
「んもぉー早くしてねぇー?」
と妹はそう言ってようやく俺へのお節介焼きを諦めて、階段をスタスタと降りて行った。
まだ名乗って無かったが、俺の名前は春日井皓 (あきら)、現在私立天津甕星(あまつみかぼし)高校の1年生、それとさっきまで俺の部屋にいたのが、春日井春桜 (はるか)公立晴天辻神(せいてんつじがみ)中学2年生の実妹と一緒に千葉の船橋でほぼほぼ二人で暮らしをしている。ほぼほぼというのは、両親共に海外で働いている、母は歌手を、父は映画監督に就いているため家には俺と妹の2人だけで住む場合が非常に多い。
と、まぁこんな感じが俺の日常風景。ここまでが俺の日常だった風景…
「おいアルッシュ、さっきからうっせえからそのシャカシャカなってるヘッドホン外してくんないか? ってにゃろー聞こえてないな、こいつ。」
俺の目の前にいるのはヘッドホンを付けてネトゲに専念している、かつて天使の長として天界で就めていた大天使こと “ルシファー”がいる 。
彼は、いやこれは彼女とも呼べるこの生物は素晴らしく愚かにも、2度目の堕天を果たし、そして何故かしら俺に取り憑いて天界への復活の機会を伺っている。ちなみにルシファーは俺に取り憑いているため、常日頃から俺から半径1キロ以内でしか行動出来ないようになっている。
「おい、あきらー、勝手に俺のヘッドホンとんなよー、 返せよー、それ高かったかんな?天界から墜ちてくる前に百貨店HOMOで買った高級ヘッドホンSORRY会社の最新作だかんな?壊したらマジぶっ殺すぞ。」
もうあの頃の輝きのない目で俺をじろりと睨みつけているこいつが神の人格であるルシファー、本名はアルバード・ララクラッシュ・ルシファー。通称アルッシュと俺は呼んでいる。
こいつ...何度見ても思うんだけど、本当にあの伝説の大天使ルシファーなのか?つか毎日毎日のようにネトゲしてないと死ぬんかなこの堕天使.....いやロクでなしの駄天使は...
「朝からぎゃーぎゃー騒ぐな喧しい、それより俺のネクタイ知らねーか?ないと困るんだよ」
「あ?知らねーよそんなもんーー」
相変わらず床に寝滑りながら腹だたしい表情を浮かべている。
「おまえが知らないならもう1人の方を出せ。」
俺はそう命令すると、ベットの側に落ちていた、昨日履いていた靴下を拾い上げて、それをアルッシュに向けた。
「おい、待てよアキラ落ち着けって、な? ちゃんと話をしよーぜ? とりあえず、今手に持ってる汚い靴下置いてくれないか?頼むから!」
とアルッシュはオドオドしながら俺に頼み込む。
アルッシュは大の潔癖症で、俺の履いた後の靴下ー、というか男全般の下着や服はとにかく触りたがらない。本人曰く、邪悪なパワーがあって触れないとかなんとか...んなわけねーだろ。まぁこんな感じに人間にすくんでビクつく元神様を眺めるってのは、こちらとしては実に惨めな気分になる。こんなのがリアル大天使ルシファー様だと世間が知ったらさぞかし人類は絶望するんだろうな、と密かに思いつつも...俺は持ち前の無表情でアルッシュにゆっくりと俺の汚物を両手に持ちながら、近寄り話を続けた。
「よーしじゃあ交渉な、とりあえずもう1人の方を出してくれ、あの子ならば見つけてくれるはず。」
「かったりー。」
アルッシュはつい本音を漏らしてしまった、それほど彼はゲームに専念したいのだろう。
「あ?なんか言ったか??」
「いいえ、なんでもないですぅー。今すぐ呼び出しますーチェンジしますー。」
と、文句をぶつぶつ言いながらもアルッシュは転生の呪文を焼かれた魚のような目をしながら唱た。
「あーんと、世界の断りよー決して交わらぬ境界よー 我を鏡境の世界へ導きたまえー悪魔転生。」
アルッシュはすぐさま別人格へと転生した。
ルシファー曰くこの世界には何体もの堕天使や悪魔が人間に取り憑いて、天界に戻りたがっているんだとか、一般悪魔や、もっと勢力をつけるために人に取り憑くケースが多いんだとか。ただ、中には人殺しを目論んだりする悪の堕天使や悪魔も少なからずいる、とルシファーは言っていた。とりあえず何か目標があれば堕天使、悪魔、天使は関係なく人間の体内で化身のように生きることができるのだ。
中でもルシファーは特別で、元々は天界の長にも関わらず今回の堕天で合計2度に渡って堕天しているため人格が2つある。転生というのはその2つ目の人格と今の人格を交換する儀式?みたいなものなのである。
ルシファーが何故俺に取り憑いたのかはまだ不明だけれども、彼と彼女の目標は良いことを沢山して全能神ゼウスに天界への帰還を認められることを前提に取り憑いていると前に聞いたことがある。しかし、見てわかるように、1つ目の人格には天界への帰還を願う姿も、神だった頃の見事な気迫もましてや堕天させられた反省そのものも感じられない。だが一方2つ目の人格の方はと言うと....
「おはようございます旦那様、なんの御用でございますか?と尋ねるのはちょっと意地悪が過ぎますね。」と
黒い薔薇のようなメイド服をヒラヒラと揺らし、開花する蕾のような微笑みを見せながら美しく登場して来たのは、先ほどとは取って代わった全く別人格のルシファー。名前はアルバザーク・バロム・ルシファー。俺はアルルとアダ名を付けて呼んでいる。1つ目の人格は神バージョンでこっちの人格の方は悪魔バージョンの人格だ。何故悪魔なのにこんなにまともで神バージョンの方はあんなに使い物にならないのか理解不能だ。そんなことを彼女らが転生している度に考えてしまうが、今更こんなことを考えたってどうしようもない。
「おはよう、アルル 聞こえてたと思うけれども俺のネクタイを探して欲しいんだ。」
「オールクリア、では私の魔力でお探し致します。」
と同時に目を閉じ彼女は右手を胸の前まで持ってきて、拳を広げて、物探しの呪文を唱え始めた。すると間もなく、
「旦那様、見つけました。今履いてるズボンの右ポケットにあるようです。」
「....マジかよ。」
「もうーー、おにぃちゃん!! 早くしないと冷めちゃうよ!!」
一階で先に朝食をとっているであろう妹は声をあげて再び俺を呼んだ。
「と、とりあえずアルルありがとな!」
「あ、待って旦那様、ネクタイがズレておりますよ。」
流石は悪魔バージョンのルシファー、頼んでもないのにその女の子らしい手を俺の首元まで差し出してネクタイを締め直してくれた。悪魔なのに親切で悪魔なのに完全なるメイド。その気遣いは一流で何処かの誰かさんにも見習って欲しいものだ。
「サンキューなアルル、おまえ全然アルッシュより神に相応しいな〜なんならアルルだけ先に天界へ帰還要請すれば?」
「旦那様、それは面白い冗談ですが、私たち2人で1人なので私だけが天界へ戻ると言うことは出来ません、それに.....いえ、なんでもありません。」
アルルは少し苦笑しながらそう言った。
何か言いかけた気もしたが、俺はそれほど気は止めずに、
「じゃあアルル下へ行くぞ。」
「はい旦那様、喜んで。」
そう言って俺とアルルは妹の待つ一階へと降りて行った。
これが俺の新たな日常、これが俺の新たな世界。
日常と言うものはある日突然崩される。
崩された日常は果たして元の日常へ戻れるのか? そんなことを時々思いつつ俺の非日常な日常が今日も始まった。
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