理解と納得の差異を描き出す見事な筆致

どうか不謹慎な言葉から始める私を許していただきたい。

この小説は、純粋に読み物として非常に面白い。
興味深く、得るものがとても多いからだ。

面白いというのは、先に言った通り精神という領域について語るこの物語にしてみれば、やはり不謹慎な言葉かもしれない。
だが、のめり込んでしまうぐらいの筆力が、私の読書欲を刺激してやまないのである。

内容についても、心理や病に向き合うものとして、感心と納得をもって響くものである。

しばしば、我々は医師や臨床心理士のかたを、人間として完璧な存在であると錯覚してしまう。
しかしそれは誤解であって、彼ら彼女らもまた、専門知識をもち、忍耐強いだけの常人であることを、けっして忘れてはならない。そういった当たり前のことを、この作品は思いださせてくれるのである。

臨床心理士。
彼らの葛藤を知る機会はきっと少ないだろう。その苦悩もまた、理解されないかもしれない。

ゆえに、それを題材としたこの小説は、貴重かつ素敵な物語なのである。
素晴らしい。