ハンブルクに愛を込めて

あらゆらい

第1話

 祖母は料理が得意な人だった。


 友達と遊んだ後、遊び疲れた彼の好きなハンバーグを作ってくれたのを覚えている。

 祖母が作ってくれたのはハンバーグ。もちろんデミグラスソースのたっぷりとかかった普通のハンバーグだって大好きだったが、時々作ってくれた「おろしハンバーグ」が何よりも好きだった。


 ハンバーグの上に大葉を敷き、さらに大根おろしをこれでもかと載せて、トドメに特製のポン酢で締められた一品。

 子供の大好物として独特だったが、彼はこの料理が好きだった。


「また貴方ですか」

 鉄の女と揶揄されている矢澤と呼ばれる女教師は職員室に押しかけてきた彼を見てこう言った。

「もう何回目だと思ってるのですか?」

「8回目です」

 即答したその言葉に、矢澤は眉をひくつかせる。

 学校という場所フィールドで教師に楯突くことは決して賢明とは言えないが、野々宮はそんな遠慮をしている場合でもなかった。

「僕にとっては非常に重要な案件です」

「料理部の活動がですか?」

 本当はそんな部活は存在しない。調理室を占拠するためだけの建前であるが、ハッタリというものは重要で、そこは力強く頷いておく。

 矢澤はどうでも良さげにため息をついた。

 周囲の目があるためか、流石に生徒の言葉を無下には断りづらいようで、「わかりました。しかしすぐに帰りますから」と渋々と言ったように了承した。

「しかし、なんでハンバーグばかりなんですか?」

 たまには他のものも食べさせろ、とでもいうのか。

 それこそ、こちらが遠慮することなどない。

 なぜならーー、

「愛が足りないと言ったからです」

 それはこの教師の不用意は一言のせいなのだから。

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