第11話【聖女様も一緒に育てる事になった】
どうやら俺は、まだまだ俺とユヒメの相性の良さという奴を甘く見ていたらしい。
例えば、この世界では強い魔物を倒すほど多くの【経験値】を得られるように、スキルの【熟練度】はレベルの高いスキルを使う事によって多く得る事が出来る。
ユヒメなら【調薬】の【Ⅰ】で作れる【ポーション】を1個作る毎に[1]の熟練度を得る事が出来る。
つまり【調薬】の【Ⅱ】で作れる【ポーション】なら1個作る毎に[2]の熟練度という素直な計算式になる訳で――【調薬Ⅴ】のユヒメは1日に百本以上の【ポーション】を作っているので得られる【熟練度】も膨大になるという事だ。
ここまでで何が言いたいのかというと……。
・ユヒメ:レベル3
HP 23/23 MP 3/3
種族:ドリアード 属性:植物 職業:調薬師
筋力:13
敏捷:3
体力:12
魔力:2
器用:16
幸運:9
スキル:【調薬Ⅵ】【植物練成】【植物魔法Ⅰ】【吸収】【エンゲージ】
ユヒメさんの【調薬】のレベルがアッサリ【Ⅵ】になりました。
前回レベルが上がってから2ヶ月経っていないんですけど。
「ついに! ついに念願の【デュアルポーション】が作れるようになったのです!」
そして今回もユヒメの【念願】が叶えられたらしい。
・【デュアルポーション】
概要:【HP】を300前後回復させる+【MP】を50前後回復させる。
【デュアルポーション】というのは文字通り【HP回復ハイポーション】と【MP回復ポーション】を足したような効果のある【ポーション】だ。
それなら2本飲めば良いんじゃね? と思うかもしれないが【緊急時】において両方を同時に回復させる作用というのは馬鹿に出来ない。
まぁ逆に言うと【通常時】には無用の【ポーション】という事になるが、用心の為に持っておくと非常に心強い【ポーション】である事は間違いない。
ちなみに【調薬Ⅵ】で作れる【デュアルポーション】以外の種類は……。
・【暗視ポーション】
概要:30分間、暗いところでも目が見えるようになる。
・【水中呼吸ポーション】
概要:15分間、水中で呼吸する事が出来るようになる。
・【耐熱ポーション】
概要:60分間、暑さに対して耐性を得る事が出来る。
・【耐冷ポーション】
概要:60分間、寒さに対して耐性を得る事が出来る。
以上の計5種類。
【デュアルポーション】以外は【環境適応ポーション】と呼ばれていて辺鄙な場所へ行く【冒険者】の必需品と言っても良いような【ポーション】だ。
【デュアルポーション】はユヒメの育てる【薬草】と俺の育てる【月光草】で作る事が出来るが、それ以外の【環境適応ポーション】の材料はまた【組合長】の店から仕入れる必要があるだろう。
お値段は【デュアルポーション】が【銀貨】15枚で【環境適応ポーション】が【銀貨】2~5枚といったところだ。
【調薬Ⅵ】になったのに随分と安いと思われるが一般的に考えると【環境適応ポーション】は作る為の材料が安価であるというのが値段の理由だ。
俺達にとってはあんまり儲け的に美味しくないが――これは仕方ない。
「【調薬Ⅵ】になれば【調薬師】として1人前と言っても過言ではないレベルですな」
「……そうですね」
「豆知識ですが1人前の【調薬師】は私の知る限り全て40代後半以降の年齢ですぞ」
「【調薬Ⅵ】で作れる種類2セットを【銀貨】13枚でどうでしょうか?」
「良いお値段です」
畜生! この爺がぁ~っ!
「ところで聖女様の事なのですが……」
「余計な事でしたかな?」
「……いえ。結果的には助かりました」
俺は金だけを出しただけで【調薬師】や【商人】の教師は爺さんが集めてくれたので【神聖魔法】を教えられるエルシーラの存在はありがたかった。
このままだと俺は【金だけ出したスポンサー】扱いで立場が悪くなっていただろう。
つまり、この点に於いても俺は爺さんに【借り】があるという事になるので……。
「3セットで【銀貨】22枚でどうでしょう?」
「20枚が良いですな」
「ぐぬぅ……わかりました」
心の中で【値切り爺】と密かにあだ名を付けて無理矢理溜飲を下げる事にした。
◇
ユヒメとキスしているところをエルシーラに見られた。
「あわ……あわわわ……!」
「はぅぅ~……」
エルシーラは大いに慌てていたがユヒメも激しく動揺した。
「は、話には聞いていましたが、本当にあんなに……【ちゅ~ちゅ~】するのですね」
「はわわぁっ!」
しかもエルシーラは動揺していらない事を口走って更にユヒメを真っ赤にさせる。
とりあえず俺はユヒメを落ち着かせる為に抱き締めて背中を撫でてやっていたのだが……。
「うぅ……な、なんだか……身体が熱いです」
エルシーラの様子が変だった。
「ど、どうした?」
「わかりません。わかりませんけど……体の奥底から力がわいて来るような……」
「……へ?」
体調が悪いのかと思ったら逆に絶好調らしい。
試しにエルシーラを【鑑定石】で見てみたら……。
・エルシーラ【共鳴中】:レベル7
HP 23/27 MP 50003/53
種族:人間 属性:光 職業:聖女
筋力:13(8+5)
敏捷:3(11-8)
体力:12
魔力:2(32-30)
器用:16(18-2)
幸運:9(4+5)
スキル:【神聖魔法Ⅳ】【光属性魔法Ⅰ】【共鳴】
「……はい?」
何故かエルシーラの【MP】が馬鹿みたいに増えていた。
というかなんだ、この見覚えのあるステータスは?
俺は試しにユヒメも【鑑定石】で調べてみるが……。
・ユヒメ:レベル3
HP 23/23 MP 50003/3
種族:ドリアード 属性:植物 職業:調薬師
筋力:13
敏捷:3
体力:12
魔力:2
器用:16
幸運:9
スキル:【調薬Ⅵ】【植物練成】【植物魔法Ⅰ】【吸収】【エンゲージ】
うん。やっぱりまるっきり同じになっている。
良く見たら【HP】も少し減って同じ値になっているのがわかる。
「ひょっとして、これが【共鳴】のスキルの力か?」
エルシーラがユヒメに共鳴して全てのステータス数値が同じになった――とか?
「わ、分かりませんが……今ならいくらでも【神聖魔法】を使えそうです!」
「まぁ【MP】が5万以上あるからな」
「むむ。これ、トシさんは大丈夫なのです?」
「へ?」
そういえばユヒメは兎も角、エルシーラの【MP】は何処から来たんだって話になる。
試しに俺にも【鑑定石】を使ってみると……。
・佐々木俊和:レベル2
HP 12/12 MP 2200000/2300000
種族:人間 属性:無 職業:店長
筋力:6
敏捷:5
体力:6
魔力:999
器用:12
幸運:0.5
スキル:【無属性魔法EX】【エンゲージ】
「おぉ~。2人分減っている」
どうやらユヒメに譲渡した【MP】を同じように俺から持っていったらしい。
俺からすれば誤差の範囲程度だが。
「むむぅ。トシさんに【MP】を分けて貰うのはヒメの特権なのに……エルちゃんずるいのです!」
「ご、ごめんなさい。こんなつもりではなかったのですが」
「分かれば良いのです!」
ああ。ちゃんと謝れば許してくれるのね。流石ユヒメさん。
◇
とりあえず【共鳴】について色々と実験してみた結果、どうやらエルシーラが自分の意思で【共鳴状態】を解除しない限りユヒメと同じステータスのままらしい。
無論【MP】は使えば使うほど減っていくのでユヒメの【MP】と常時一緒という訳ではない。
つまり【最大値】がユヒメと一緒というだけで使えば使うほど2人の差は離れていく訳だ。
それに何より……。
「魔法は使いたい放題なのに……魔法の効力が激減しています」
【魔力】が【2】という事は魔法の効果が激減するという事だ。
ぶっちゃけ16分の1になっている訳だしね。
「はっ! それならトシカズ様に【共鳴】すれば凄い事が出来るのでは?」
「どっから230万の【MP】を持ってくる気だ?」
「あ」
【共鳴】には当然のように【条件】があり、自分の限界を超える相手とは【共鳴】してステータスを同期する事が出来ない。
エルシーラがユヒメに【共鳴】出来たのは、エルシーラの総合ステータスがユヒメより高かった事と、俺の膨大な【MP】をユヒメに便乗して持っていく事が出来たからだ。
「まぁ実際の治療には役に立たないが【神聖魔法】の訓練に使う分には丁度良いんじゃないか?」
「あ。そうですよね……この膨大な【MP】を使えば【神聖魔法】のレベルを上げる事は容易かもしれません!」
ユヒメに譲渡した【MP】は1時間程で元に戻ってしまうが、エルシーラは【共鳴】を解除しない限り【MP】を持続出来るのも強みだ。
その事実に気付いたエルシーラは目を輝かせた。
「考えてみれば元々【MP】は【MP回復ポーション】で補うつもりだったのですから無制限に【神聖魔法】の訓練が出来ると思えば良いのですね」
「……【MP回復ポーション】に関してはちょっとは遠慮してくれ」
こいつは【人助け】の為なら平気で1日10本は飲み干しやがる。
とりあえず使った本数は数えておいて【借金】という形で換算してあるが――返す気があるのかは至極微妙だ。
【聖女】の癖に踏み倒しは勘弁して欲しいと思う。
「そうと分かれば早速【神聖魔法】の訓練を始めましょう! こんなに遠慮なく【神聖魔法】を使える機会は生まれて初めてです!」
「ヒメも負けていられないのです!」
そうして2人は膨大な【MP】を使ってそれぞれのスキルをあげる事に万進していった。
「……私も何かした方が良いのでしょうか?」
「ユリアナに【MP】を譲渡出来たとしても使い道ないしなぁ」
流石に【格闘】は【MP】があっても上げる助けにはならんのよ。
◇
「ふおぉ~。予想以上に成長が早いわ」
常連の【魔女】は店に【調薬Ⅵ】で作れる商品が並んでいるのを見て流石に驚いていた。
俺とユヒメの相性の良さは、俺は勿論だが【魔女】の予想すらも越える程だったらしい。
「トシカズ様。私はそろそろ子供達の授業に行って……あ」
「あら?」
そして、何の因果か【聖女】と【魔女】が邂逅する事になった。
対極の名を持つ2人の【出会い】に一触即発で何か化学反応でも起こるかと思ったのだけれど……。
「ほぉほぉ。これはこれは……」
「えっと?」
【魔女】の方は興味深そうにエルシーラを眺めているだけで敵意は感じない。
エルシーラの方は相手が【魔女】だという事は分かったようだが何をすれば良いのか分からないらしい。
「【調薬】と並行して【神聖魔法】を育てる気なのね。これは益々面白い事になりそうだわぁ~。くふふ」
どうやら【魔女】の方も【聖女】に対して含むところは無いらしい。
寧ろ【神聖魔法】を育てる事に対して興味津々だった。
「それじゃ今日は【デュアルポーション】を10本頂こうかしら」
「毎度ありがとうございます」
そして毎回のように1番レベルの高い【ポーション】を10本買って意気揚々と店を出て行った。
◆魔女
くふふ。
これは予想外。まったく持って予想外だった。
【ドリアード】の【調薬師】の成長の早さも予想以上だったが、それ以上に【聖女】を取り込んでいる事が【良い意味】で予想外だった。
【神聖魔法】には【神薬精製】程ではないけれど高レベルになると解放される【聖女】だけが扱える【特殊スキル】があると聞いた事がある。
その名も【
そのスキルを1回行使して貰う為の料金は【金貨】数千枚という話もある。
「(あのお店に【貸し】を作るだけで、それらを優先的に使わせる事が出来る可能性があるとは……なんとも楽しみだわぁ~)」
これからも頻繁にあのお店に通う事を決定した。
◇
「初めて【魔女】に会いましたが思ったよりは友好的な人なのですね」
エルシーラは突然の【魔女】との邂逅に何も起こらなくてほっとしていたが、俺は【魔女】の思惑が透けて見えるようで少々ゲンナリした。
恐らくエルシーラの使う【神聖魔法】にもユヒメの【調薬】の【秘薬】のような【隠し要素】があって、それを狙っているのだろう。
どうやらあの【魔女】は希少価値のある物を集めるのが好きらしい。
「(コレクターか。最低限ユヒメの【秘薬】が作れるようになったら1本は提供して手元に確保させないと納得しないだろうな)」
実際に【秘薬の効果】を重視しているのではなく【希少価値】がある物を手元におきたいというのがコレクターの心理なので対処が容易なのはありがたい。
「それより学校は良いのか?」
「そ、そうでした! それでは行ってまいりますね!」
慌ててユリシーラが出かけていく。
学校の【テストケース】は少し進んで身寄りの無い子供達が少数ではあるが集められてエルシーラを含めた数人の教師から教育を受ける事になっていた。
もっとも現時点では【特殊な技能】を学ぶよりも基本的な知識を学ぶ事が最優先とされているのだけれど。
「まぁ気長にやっていけば良いさ」
学校の方は成果が出るのに最低でも10年以上は掛かる訳だし。
◇
【デュアルポーション】の方は予想通り爆発的に売れるという事は無かったが、それでも【緊急時】に備えて買っておこうという客は結構居て、それなりの儲けを出していた。
こういう【いざという時に役立つもの】は低レベルの冒険者でも【切り札】として欲しがるので今後も品切れにならない程度には店に置く事にしよう。
「トシさ~ん。【ちゅ~ちゅ~】をお願いしますなのです」
「お~。今行く~」
店番をユリアナに任せて俺は店の奥に出向いて頬を赤く染めて待ち受けるユヒメの元へと行く。
相変わらずユヒメは可愛い♪
「お、お願いしますのです」
「ああ♪」
俺はご機嫌でユヒメを抱き締めて唇を重ねてから、ゆっくりと舌を伸ばしていく。
「はふぅ~♡ この胸がドキドキするのは何回やっても慣れないのです」
長く熱烈なキスを終えるとユヒメは胸を――巨大なお胸を押さえて熱い息を吐き出すのが物凄く色っぽい♪
「うんうん。ユヒメは可愛いなぁ~」
ユヒメが俺だけに見せてくれる特別な姿だ。
これだけで、なんかもう色々と得した気分だ。
が。何故か急にユヒメは不安そうに俺を上目遣いに見つめてくる。
「トシさんは……ヒメに【MP】を渡す為に【ちゅ~ちゅ~】しているです?」
その質問に隠された意図を見抜けないほど俺は鈍感ではないつもりだった。
「ユヒメは【MP】を得る為に俺と【ちゅ~ちゅ~】しているのか?」
「そ、そんな事は無いのです! トシさんじゃなかったら絶対に【ちゅ~ちゅ~】なんてしていないのです!」
「うんうん。俺も同じ気持ちだよ」
「うぅ。トシさんはずるいのです」
「ユヒメの事が大好きだって事だよ」
「はわぁっ!」
不満そうなので言い直したらユヒメはリンゴのように真っ赤になった。
あ。ユヒメなら【トマトのように真っ赤】の方が適切かもしれない。
ユヒメの育てるトマトはリンゴに負けないくらい真っ赤だし。
「は、恥ずかしいのです」
「うんうん」
「恥ずかしいけど……嬉しいのです」
「…………」
俺は無言でユヒメを抱き締めて、もう1度唇にキスをした。
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