Welcome to ワンダーランド・雑司が谷

 これこそ文学というものなのではないか!?と思いました。
 あるいは哲学です。
 多くのひとに読んでもらって「これは何のメタファーだったんだと思う?」と聞いてまわりたい一作です。
 「これは何だ!?」「あれはどういうことだったんだ!?」という事象がたくさん散りばめられていて、いろいろ考えながら読んでいたんですけど、読み終わった今思い返すと、そうか、なんだかよく分からないけど、そういうことだったんだ、みたいな謎の満足感で満たされます。

 ストーリーにはそんなに変わったファンタジーはありません。
 雑司が谷は実在の町だし、描写からして何となくうらなりも迷亭も銭湯も実在するんだろうと思うし。主人公の鶴森ハルオをはじめとして、すべての登場人物が雑司が谷を探せば暮らしているのではないか?
 これは鶴森ハルオ青年のエッセイなのではないか?
 そんなリアリティのあるドラマです。

 たくさんの人物(キャラクターという感じではない!)が出てきてあれこれ鶴森ハルオの生活を引っくり返してくれます。
 実際にやられたらたまったもんじゃないだろうな。なんだかどんどん鶴森ハルオに感情移入をしていきます。
 押しかけてくる中学生たちも、迷亭のママも。あー、いるいる、こんなひとたち。

 でも、いつかふと、気づくのです。
 この雑司が谷、何かおかしくない?
 気づいた時にはもう遅い。あなたはすでに裏の雑司が谷にいます。
 ふしぎの国雑司が谷に足を踏み入れてしまった!

 いったいどこまでが表の雑司が谷でどこからが裏の雑司が谷だったんだろう?
 マスターとじいさんは、松尾可先輩は、亀山は、そして猫のソーダは何だったんだろう?
 しかしそんな不思議もすべては鶴森ハルオと佐藤ミユキの関係に集約されていくのだ。
 おお、まさかのめでたしめでたし!

 すべてはソーダが仕組んだことかもしれません。猫は可愛いだけではありませんからね。

 すさまじい完成度です。良質な邦画を見たあとの気分になりました。
 読みやすい文体ですしすぐ引き込まれるのでさくっと読めると思います。多くのひとにこの不思議な世界を体験してほしいです。

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