座学でも駄女神だよ

「はい、そんじゃあ授業いくぞー」


 今回は座学の時間。お題は女神の加護について。


「わかっていると思うが、女神の加護は強力だ。勇者に与えて世界を救わせる」


「めんどいわね。なんで女神軍が潰しに行かないのかしら?」


「その世界の人間に救わせる。少なくとも救ったように見せかける。でなきゃ堕落するだろ。お前みたいに」


 明らかにダラダラしているサファイア。一時間目から体育はきつかったか。

 ここはちょっと反省。授業プログラムは見直そう。反省は大事。


「失礼ねえ。まあ神がいるってなると、調子乗っちゃう宗教とかあるでしょうし。やっぱ人間はアホね」


「あまり否定できんな」


「先生はまともだと思いますよ?」


「露出は少ないですが」


「お前は多すぎる。しばらくブルマ着てなさい」


 ローズにはしっかり服を着せよう。目を離すと脱ぎそうで怖い。


「最近爆発的に世界が増えている。そのせいでまだ半人前だったり、性格に難がある女神でも派遣して、とりあえず世界さえ救えばいいという方針になった」


「その結果が駄女神の量産ですね」


「そうだ。その結果がこれだよ! 俺がどんだけ駄女神のフォローしながら世界救ってやったと思ってんだ! 十や二十じゃねえぞ!」


 これがもう本当にめんどい。ふりかけ駄女神なんてマシなレベルだぞ。


「そんなんだから勇者がころころ死ぬんだよ! 勇者が死んだんでこの世界行ってくれませんかと頼まれたりした。あんのじょう駄女神がいたさ!」


「苦労してんのねえ」


「お前らのせいだよ!?」


「基本的に女神とは神だ。腐ってもアホでも神だ。だから自然と強くなるし、そこいらのやつには負けない。他人に与える加護が枯渇しているだけだ」


 女神女王神だっけ? あいつが加護のバリエーション思いつかないとかで、無理矢理適当な加護を与えていった結果、しょうもない力を持った女神が増える。


「そして全女神で加護を共有し、勇者が選択する方式にしようという動きがある……らしいな?」


「はい。女神界の詳しい現状はわたくしが補足しますね」


 こういう時のためのカレンだ。俺は女神界の最新事情なんて知らん。

 正直あんまり知りたくない。


「もうめんどうなので、リストを渡して勇者側に選ばせようというものです。上級女神となったものにのみ、この権限は与えられます。持っている加護も、本人の強さも段違いです」


「女神そのものが優秀じゃないとダメってことだな」


「つまりこの学校に来ているものには無関係ですわ」


「そりゃ助かる」


「しかし、現状能力だけで上級神になってしまうケースもあり、潜在的駄女神が複数確認されています」


 どこまでいっても問題児は存在する。それを減らすためにこの施設もできたのだろう。


「もうとにかく強い能力で、ぱぱっと救える世界から救おうというのが、最近の方針ですね」


「なるほどな。助かったよカレン」


「いえいえ」


 助手がいてくれてよかった。能力はふりかけでも、フォローはうまいんだよな。

 ふりかけもうまいけど。いやよそう。なにを考えている。


「そんなわけで女神界はアレだ。なんせトップがアホだからな。だから少しでもアホを減らす。そのために俺の力を分け与える」


「メニュー画面のようなものですか?」


「そうだ。コピーして与えているから、俺自身の能力が消えるわけじゃないけどな」


 なので見極めが必要だ。やたらめったら与えていいものじゃない。

 加護を与える女神の気持ちが、ちょこっとだけわかった。


「じゃあ最強の能力適当に見繕って包んでちょうだい」


「お土産か。親戚にそうめんの詰め合わせ送ってんじゃないんだぞ。というか無理。今のお前らには無理」


「なんでよ?」


「俺が強くなりすぎたからさ」


「え、なにその厨二発言。きもい」


「いやまあ俺も言ってて恥ずかしかったよチクショウ。仕方ないだろ事実なんだから。なので地力を高めて、俺の力を受け継げるようになってくれ」


 素材は光るものがある。なのであとは磨くだけ。

 その磨く作業が大変だが致し方なし。


「それで体育とか魔力の訓練が多いわけね」


「そういうこと。国語や社会は世界で異なるし、魔法でどうとでも変換できるので無意味だ。必然的にステータスと性格面を磨くことになる」


「つまり保健体育と図工と音楽ですね」


「いやまあやってもいいけどな。気晴らしの授業も必要だろうし」


「先生は楽器とかお得意でしたわ」


 その通り。楽器できるよ。そうしなきゃ救えなかった。


「歌で世界を救うパターンとかあってな。まあ努力と経験の積み重ねでミリオン歌手とかオペラ座のトップスターになった世界もある」


「えぇ……全然似合ってないわよ」


「自覚はある。念のためネトゲっぽい世界で、音楽のスキル全部カンストさせておいた。俺にできない楽器はおそらく存在しない」


「うーわ、ずっこいわねあんた。努力している音楽家の立場ないじゃない」


「俺だって努力したよ。大抵の楽器や歌のジャンル制覇するまで徹底的にやったし。モンスター狩ったり。高い楽器の方が経験値上がるから、ひたすら使い続けたり」


「楽器で殴ったりしてそうですね」


「したぞ。それでも少しポイント入ったからな」


 普通の武器より攻撃力が低いけれど、その時にはもういくつも世界を救っていたので些細な事だった。なんか懐かしくなってきたよ。


「ポイント入れれば強くなるってのがずるくない?」


「お前らの力も似たようなもんだよ。基本はスキルやポイント関係なくなるくらいまで使い潰す。それだけ」


「わたくしのふりかけも、何種類も出せるようになりましたし。音速を超えて飛ばせたりするので。結局は修練あるのみですよ」


「それが嫌だから女神なのにいぃ……」


「サファイアはだらけすぎですね。身を引き締めるためにも脱ぎましょう」


「脱がんでいいから。脱ぐのと関係ないだろ」


「見られているという意識が大切です。みっともない裸体は晒せませんから」


「変態の言い分など聞かないぞ」


「残念です」


 初日だしこんなもんだろ。あまり突っ込んだ話をし続けても頭に入らない。

 人間は五十分以上は集中力がもたないと聞く。詰め込みすぎは無駄になる。


「じゃ、授業を変えるか。次は何がしたい?」


「それ聞いちゃいます?」


「伸ばしたい能力とかあるだろ。三人だけの生徒という利点を活かす。応用きかせて効率よくやるぞ」


「視聴覚室でお昼のテレビ見ない?」


「見ねえよ。テレビとかあんのな」


「ありますよ。道徳の授業みたいな番組って、風邪をひかないと見られないんですよね」


 懐かしいな。俺もガキの頃、風邪ひいて眠れない時に見たわ。

 昼飯のおかゆ食いながら見たなあ。


「子供が見られない時間になぜやっていたのでしょう? 大人が見るものではありませんわ」


「視聴覚室でクラス全員に見せるためとか?」


「そんな週一であるか微妙なことのために、テレビ局が動くのかしら?」


「これマジで謎だな。シリーズ物っぽかったりもするし。小中学生が主役だもんな。気になるぞこれ」


 女神相手に教育テレビについて議論している状況も謎だけど、そこは無視しよう。


「真相を探るため、一度ちゃんと見てみませんか?」


「いいわね! 行きましょ行きましょ!」


「こっちの番組も知っておくか」


「では視聴覚室へご案内します」


 四人でぞろぞろと移動。映画館並みに設備が整った場所だ。

 席がマッサージチェアーだよ。黒いカーテンで光が遮られているのは一緒。

 プロジェクターと、薄型液晶モニターのでっかいやつがある。


「では女神のクラスが青春するものでも見ましょうか」


「もう少し暗くしましょう」


「する前から脱ぐな」


「ばれましたか」


「暗ければ脱いでいいというものではないぞ」


 多少陽の光を入れておく。油断も隙もないぜ。

 なにやらDVDケースのようなものを持ってくるサファイア。

 この時点で嫌な予感がする。


「見て見て、女神女王神VSメカ女神2あったわよ!」


「まず1を知らねえよ」


「私は5が好きです」


「何作出てんだよ!?」


「先生。ちゃんと1から見ましょう」


「なにがちゃんと!?」


 1と2を見てしまったよ。普通におもしろかったのが、なんか腹立つ。


「よし、次は明日見ましょう!」


「良い授業でした」


「…………授業忘れてたな」


 明日からちゃんとやろう。

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