高校三年生。

栗田モナカ

第1話

「片思いって疲れるね……」


友人にポツリ呟いた。


高校三年生、高瀬いおり。


学校帰りに入ったカフェで、コーヒーラテのストローをグルグル回しながら吐いた言葉。


同じ学校、同じクラスの友人ナミが私の呟きを聞く。


「仕方ないよ。 それが片思いだ」


納得できる様なそうでない様な返事をした。


男気溢れるナミ。

しかし、外見はそれと違い女らしい。

しなやかな身体、クルクルフワリの髪は肩まで伸びていて、お嬢様風である。


それとは逆に、私は癖っ毛でゴワゴワの髪。

中途半端な長さである為、後ろで一つに結んでいる。


コーヒーカップを持つナミの指は白く長い。


何処までも対照的な二人だが、高校入学当初からの友人だ。


何から何までナミにお世話になっている。


「でもさ。 やっぱりツライよ……」


「じゃあやめれば? 楽になるよ」


「好きなんだもん。 ムリ……」



ウジウジの私を見てため息をついた。


私の片思いの相手は、近隣の高校に通う同じ年の人で、通学電車でいつも見かける。


降りる駅も一緒。


スラリとしていて利発そうな彼は、友達三人と楽しそうに通学している。


お互い共学なので、こちらもあちらも男女入り混じりの通学。


でも……。

私は彼に一目惚れしてしまった。

同じ学校の男子とは違う物を持っていると思う。


「名前と学校。 それしか知らないじゃない。 どんな人か分からないよ? 彼女いるかもだし」


「それ聞く? ナミの友達いないって言ったじゃん」


「多分ね。だけど?」


ナミの同中出身者が、彼と同じ学校と知り、色々情報をくれた。

持つべきものは頼れる友だ。



彼の名前は水元樹みずもとたつき 現在彼女無し。恐らく……。

近隣進学校の三年生。誕生日はクリスマスのイブのイブ。


仲良くしてる人、多数。女子もいる。

所属部活は……。 知らない。


でも、十分過ぎる情報だ。


「で? 不毛片思い女子。 これからどうするの? 夏休み前だよ? 中間あるし、 中々会えなくなるねぇ」


「表現怖い」


「事実を述べている。 本気でどうするよ」


コーヒーを優雅に飲み、尋ねる。


ストローグルグルの私は、何も言えない。


「ともかく。 友達に探らせるよ。 あんただと、 彼女できたぁ! って泣くまで動けないしね」


「う……。 お願いします……」


「ごちそう様。 ここのカフェ、 最近できたばっからしいんだ。 イタリア仕込みの本格カフェ。 マスターイケメンよ? 奥さんいるけど」


「はあ……」


情報化社会は恐ろしい。



お会計を済ませ、店を後にした。

駅と学校の中間にあるカフェは、様々な人が訪れる。


ちょっと繁華街と離れているのに、結構な人気店らしい……。


「じゃあ、 私はこれからデートだから」


そう言って駅とは反対方向へとナミが消えた。


「全くいいよな」


トボトボ駅へ向かう私。

寂しさとか、色々な気持ちで足取りが重い。


駅の改札を入り、階段を登る。

ホームは学校帰りの学生やらが結構いた。


なるべく離れて電車を待つ。


苦手なんだよね。集団とか。

しかも今日は蒸し暑いし、若い熱気がホームを覆っている様で、クラクラする。


騒がしい声が響き、私はスマホを取り出しイヤホンを耳にはめようとしてハッとした。


階段を物凄い早さで誰かが登って来る。

余りの事に固まってしまった。


階段付近に立っている私は、じっとそちらを見つめた。


「あ……」


紛れもなく彼だ。一気に階段を登って来る。

どかなきゃぶつかる……。


瞬間、ぶつかってしまった。

彼は勢い良く階段を登った為、私には気がつかなかった様で、ドーン!とぶつかって来た。


その反動で、私は思い切り後ろへ倒れてしまった。

運悪く、私の後ろにはご丁寧に柱があり、後頭部を打ってしまった……。


「あ……」


声と共に意識が薄れ、目を回した。



気がつくと、駅の医務室のベッドの上に寝かされていた。


「気が付いた? 良かったぁ……」


私を覗き込む顔に、思わず顔が真っ赤になってしまった。


「あ! ありがとうございますっ」


目を逸らしお礼をした。


だって、だって……! 彼の顔がぁ。



「お? 気が付いたかい? 大丈夫? いやぁ驚いたよ。 君を抱えた男の子が血相変えて走って来てさ」


駅員さんがそう教えてくれた。


「本当に大丈夫? 病院行った方がいいよ。 オレ着いてくし」


「え! いえ。 本当にに大丈夫ですっ。 あありがとうございます!」


至近距離で言われ、心臓もたない!


私は痛む頭をこらえ、ベッドから起き上がった。


「つっ!」


身体のあちこちが痛む。

しかし迷惑かけられない。


何とか立ち上がり、靴を履いた。


「家まで送るよ。 あ、君のカバンここね」


私を支える様にカバンを手渡した。


「すいません……。 本当に大丈夫ですから……。 一人で帰れます」


向かい合うが俯いたままそう言った。


「いや、 オレの責任だし送るよ」


そう言い私の腕をそっと掴んだ。


心臓が……。


しかし、ここは送ってもらおう。


駅員さんにお礼を言って、医務室を後にした。


「すっかり夕方だね」

二人ホームに並び、夕日を見た。


痛いけど、幸せだ。


「名前教えてよ。 いつも同じ電車だよね? 楽しそうに話してるの見かけるよ」


「え? あ……。 高瀬いおりです。 いつも騒がしいだけで……」


「オレ、 水元樹。 学校近いよね」


「そうですね……。 進学校に通ってるの知ってます……」


小さな声で言った。


「やっぱり病院行こう。 頭痛いでしょ? それに足も……」



言われて気付いた。足も痛い。



「大丈夫です。 これくらい。 しょっ中怪我してるし」


「部活?」


「はい。 剣道部です」


「へー。 意外……。 あっ、 ごめん! 何か大人しい感じしたから。 そっか剣道部か。

じゃあ尚更責任感じるな」


「いえいえ! 三年だし、 進学あるから。 部活はそろそろ……」


「進学するんだ。 どこ行くの?」


「剣道の先生になりたくて。 体育大学を一応……」



電車が来るまで色々話した。

電車に乗っても、色々話して……。彼の事を沢山知った。


病院行こうって言われ、アドレス交換もして。


凄く嬉しい。


結局家まで送ってくれて、母に挨拶して。

明日の放課後、病院へ行く約束もした。


ぶつかって良かった……。




「何だ? その展開は」


翌日学校でナミに報告したら、ポッキーをパキパキ食べながら追求された。


「急展開過ぎて、 心臓がバクバクだよ。 放課後どうしよう」


「単に責任感じただけでしょ? 分からないよ? 期待するな」


いたって冷静な判断だ。


でも。


やっぱり嬉しい。

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