第46話 重ねられた手と想い

 バズーカ砲――エリオラたん改――の改良。

 技術的な問題はよく分からないが、ルココにはそれが可能だと思えたらしい。

 そしてその考えをルココが述べる。


「細かい説明はこの場ではカットしますが、このエリオラたん改には神力エネルギーパックが三つ装備されておりまして、通常であれば其々が三発、合計で九発の発射が可能なわけです。それとは別に替えのエネルギーパックが二つありますので、合計十五発はぶっぱなせるわけですが」


 十分細かい気もするが、突っ込みは入れずに黙って聞くとする。


「そこでこの天才美少女神のボクが考え出したのは、合計五つの神力エネルギーパックを直列に繋ぎ合わせまして、一発で超火力を発揮させる方法なのです」


 この会話に付いていけるのはどうやら西の神だけらしい。


「直列に繋いだからと言ってそう簡単に全ての火力を放出できるとは限りませんことよ?」

「ざっつらいと! ボクの見立てでは半分程度放出に留まるでしょうが、それで十分なのです。一発づつ十回当てるよりも、一回で五発分のエネルギーを当てた方が、対象に与えるダメージはその何倍にも大きくなるはずですからな。破壊を考えるのであれば針でチクチク刺して壊すよりも、金属バッドでぶん殴ってしまおうというわけですよ」


 何やらこのまま技術論談義に突入しても困るので、俺が場を貰い受ける。


「まあそんな感じでまだまだ解決しないといけない問題もありますが、これが成功すれば一発逆転です。ですがお世辞にも成功率が高いとは言い難い」


 いや、俺はこの作戦の成功率が極めて高いと思っているが、それはあくまで正攻法で攻め寄せる側が本気で魔族と戦ってくれているからこそだ。

 正攻法で戦う神々や人々に『自分たちは陽動だ』と思わせてしまっては、作戦の成功率は急激に低下するだろう。


 そして俺の想いに追い風となるよう、女神ヘステルが言葉を発する。


「確かに、魔族の塔からわずか三キロ。そのバズーカ砲で破壊するしないの前に、警戒する魔族の目を掻い潜り島に到着できるかどうか。いいえ、そもそも見つからないように小さな船で行くとなると、北の海域まで無事に辿り着けるかどうかという問題さえ出てくる」


 女神ヘステルの言葉を遮るようにして、東の神が口を開く。


「へっ、侮らないでくれよ。東の神々と人間が力を合わせて、空を飛ぶ種類の魔族は全部引っ張ってやるさ。西の警戒に回す余裕さえない程に、烈火のごとく攻め立ててやるよ」


 そして北の神も続く。


「北の神で戦力にならなそうなやつを一人つけてやる。戦闘力は低くとも北の神の端くれだ。海の上を行くのに不安など一つも感じさせやしないさ」


 随分と協力的な姿勢に戸惑いながら、俺は改めて礼を述べて作戦の披露を終える。


「有難う。以上でこちらの作戦発表は終わりです」


 そして神々の考えた作戦を聞かせてもらおう事にした。東西南北の神々は互いに顔を見合わせて苦笑した。

 そして西の神が若干頬を赤らめて言う。


「大変お恥ずかしい事に、作戦立案どころか真面に話し合いも出来ませんでしたの」


 キョトンとするこちら側を見て、慌てたように北の神が立ち上がる。


「あ、あのな、聞いてくれ。……いや、言い訳はやめよう」


 ばつが悪そうに頭をかきながら、北の神はゆっくりと腰を下ろして言葉を続けた。


「作戦会議はやったんだ。だけど結局、どの神が一番大変だとか、どの神が楽だとか、塔を破壊したあと誰が得をするだとか、結局そんな下らない事の言い合いになっちまってな……」


 そして円卓に両手をついて頭を下げた。


「済まない! 偉そうな事を言っておきながら、私達は誰一人として 『全てを度返しして世界を救う事だけを考える』という思考を持てなかったんだ。あんたの言う『背水の陣』に胸を締め付けられる思いだったよ」


 続けて西の神が口を開いた。


「女神ヘステル、そしてカミノイさん。昨夜は結局、わたくし達では真面な策など思いつきそうもないという意見に纏まりまして。そこで、今日カミノイさんから発表される策が余程酷いものでなければ、それに乗ろうという結論に至っておりましたの」


 南の神が言う。


「そうなんです。ですが今ではそれで良かったと確信しています。この作戦は素晴らしい」


 東の神が続く。


「ああ、あんたの策に命をかける。正攻法にせよ、奇襲にせよ、どちらも命がけだ。そしてどちらか一方が成功すれば、この世界の形勢は逆転する」


 それが意味する事は、早い段階でのバッドエンドは回避できるという結果である。将来的にハッピーエンドになるのか、それは分からない。だが一先ずこの物語は、この作戦の成功から新たな章に突入するはずである。


 俺は改めて円卓の上に準備した資料を手に取り、それを神々の前に配布する。


「南の国は動員可能な兵力と、その兵力がムトゴシマを奪還防衛するために必要な物資を算出して下さい。そして北の国は、その兵力を運搬出来るだけの軍船を製造するのに必要な人員、物資、資金を算出して下さい。東の国は重要な初手を担いますので、訓練強化をお願いします。西の国は荒れた地への定住に向けた技術開発と、一部の機械に強い技術者をルココの所へ派遣して下さい」


 神々な力強く頷いてくれる。

 俺は言葉を続けた。


「今依頼した項目が出そろい次第、必要な準備期間の算出と具体的な作戦開始時期を決定します」


 まず北の神が立ち上がった。

 それに合わせるようにして、残り三人の神も立ち上がる。そんな東西南北の神々に釣られるようにして、こちらの四人も立ち上がった。


 そして女神ヘステルが言葉を発する。


「其々想いはあるでしょうけど、そんな物は塔を破壊してからにしましょう。全ては世界の未来を紡ぐため、いいわね」


 言いながら右手を前に出し、掌を上に向けた。

 その掌に、俺の掌が乗る。


「ああ。未来を紡ぐために」


 女神ヘステルの手と重なった俺の手の甲に、北の神の掌が乗る。


「ふん、言うじゃないか。北の神並びに北の国の民、あんたに命預けるよ」


 北の神の手の甲に、南の神の掌が乗る。


「ふむふむ、こういうのいいですね。南の神、並びに南の国の民、この作戦に全てを注ぎます」


 そこへ西の神の手が伸びる。


「微力ながら尽力しますわ。生き残った西の神と西の国の民、女神ヘステルとカミノイさんに未来を捧げますわ。この命、御預け致します」


 東の神も手を添える。


「与えられた役割、命に代えても果たして見せる。東の神と東の国の民、全身全霊、粉骨砕身、この作戦に全てを掛ける」


 手を重ね合った東西南北の女神の視線が残った二人に注がれた。


「ほら、あんた等も」


 ヒナとルココである。


「お、お、ぼ、ぼ、ボクもよろしいのですか? これは嬉しいですねこういうスポ根チックな乗り大好きなんですよこれはハァハァしちゃいますね!」

「ホント煩い。私なんてずっと黙ってたのよ?」


 八人の右手が重なった。

 女神ヘステルの視線が俺を捉えている。


「俺か……まあいいか。よし」


 俺は大きく息を吸い、決意を新たに大きく声を出す。


「必ず成功させてみせる。やろう!」

「『おー!』」

「『やろう!』」

「『やりましょう!』」


 ちょっとばらついたけど、打ち合わせ無で良く揃ったほうだ。

 次の瞬間、眩い閃光が飛び交った。


「おわわ」

「きゃー!?」

「どわあわわ、何事で御座る!?」

「ナニコレ、驚いたわ」


 俺を含めてほぼ全員の女神が驚いているが、何やら楽し気な神もいる。


「ははは、景気づけにな」


 東の神だ。


「やったわね! このう!」


 西の神が巨大な閃光を発射する。


 作戦決定と同時に一枚岩として固められた神々の意志。

 ちょっとした照れ隠しなのだろうか。

 女神たちは其々が害のない程度の魔法の応酬で大騒ぎし、何とも言い難い高揚感を味わっていた。

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