第8話

ある日の夕方、仕事から帰り夕飯の支度をていたらテーブルの上に置いてあったスマホが鳴った。


「ん? 着信? 誰だろ」


キッチンでの作業を中断し、テーブルの上のスマホを取った。


「葉野君だ……」


私は通話ボタンを押す。



「もしもし?」


「もしもし。 大原さんですか?」



聞きなれない女の人の声……。

葉野君のケータイだよね?



「失礼ですが……」


「葉野の妻です。 突然にごめんなさい」


葉野君の奥さん‼︎


「主人の様子がおかしかったので、 ケータイをみました。 そしたら貴女の番号があって。 それにメールも……」



かなり強めの口調だ。


「あの……。 私は小学校の時の同級生です。 メールもやり取りしましたが、 ただの同級生です」



だってまだ本当にそうだから。


確かに色々言われたけど、それ以上の関係ではない。



「同級生、 ですか……。 最近主人と離婚について話しております。 主人にそういう方がいるなら、 話は別だと思いまして……。 突然に申し訳ありませんでした。 ですが、 私はやっぱり別れたくないと思っています。 子供もいますし、 できればこのまま……」


「私には何とも言えません。 そちらで話し合いして下さい」



電話を切った後、ガクンと座りこんでしまった。


葉野君の奥さんは別れたくないんだ。でも葉野君は……。


一体何を信じる?




夕飯を済ませた後、再び電話が鳴った。


また葉野君だ。本人? 奥さん?



『もしもし……』


『大原? ごめん! あいつ勝手に電話したみたいで……。 何か言われた?』


『葉野君と別れたくないってよ』


『はあ? だってあいつ他に……』


『子供もいるし、 別れるのやめれば?』


ティーカップに紅茶を注ぎながら言った。


『うまくいかない相手と、 一緒にいる意味ある?』


『それは……』


『とにかく暫く電話とかやめよう。 また電話するよ。 本当に悪かった』



電話を切り紅茶を飲んだ。


上手くいかない相手かぁ……。


痛いな、それ。


バツ付きの私には痛い言葉だ。


しかし子供の事を考えたら、修復できるうちに修復した方がいい。


それでもダメだったら……。



私は保険か。


紅茶を飲みながら考えた。


葉野君の気持ち。私の気持ち。奥さんの気持ち……。


どちらにせよ、誰かが傷つく。誰かを傷つける。


難しい問題だ。どうする?私。

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