第22話 秘書降臨


ドンゲルが襲ってきた日から3日が経った。その間イオルは、アリーシャの商会から一歩も出る事なく仕事の疲れを癒しまくっていた。


「あぁ〜仕事が無いってすばらしい〜」


もう、お昼を過ぎているのにベッドでだらけまくっているイオルを見ても最初は、本当に疲れているのだろうと思い見逃していたがいい加減我慢の限界だったのか


「あんた!いつまでぐーたらするつもりなのよ!」


「いや〜取り敢えずはこないだの件の結果を聞かない限りはこうしていようかと」


部屋のベッドから起き上がらずアリーシャに返事をするイオル


「ふふん♪それじゃあもうダラダラする必要はないわね」


アリーシャがニヤニヤしながら告げた言葉を聞きイオルはミスったと感じた。


「…まさか、もう結果でたのか?」


そうでない事を祈るようにアリーシャに問いかける


「出たわよ。ドンゲルと魔導士の男は、他にもいろいろやってたらしくて商会は解体、後2人は奴隷に堕ちるらしいわよ」


「ほーーん」


アリーシャの言葉に一応返事をしたイオルだったが内容にはさして興味は無くこれからどうしようかとだけ考えていた。


「それで、あんたはいつ帰るのよ」


言外にアリーシャはさっさと帰れと言ってきた。イオルもそれは感じていたが気付かない振りをした。


「いや、まだ帰らなくてよくねぇ?魔道具も完成してないし暫くはここに居させて欲しいんだけど」


魔道具は今すぐ完成させるつもりは無いとこないだ言っていたのに手のひら返しが早すぎるイオルである。


「そんな事言ってていいの?昨日王城に仕事が終わったって手紙出しといたけど」


その一言を聞いた瞬間、イオルはベッドから跳ね起きた。


「お、おま!マジか⁉︎ホントに送ったのか?」


すごく焦りながらアリーシャを問い詰めるイオル


「当たり前でしょ。仕事終わったのにお金払い続ける意味ないし」


それを聞き崩れ落ちるイオル。そこでふと思い出したのかミレイアのことが頭をよぎった。

今まで無意識のうちに考えないようにしていたのか、すっかり忘れていたがミレイアには大した説明もせずに来てしまっている。


(…ヤ、ヤバイ。これ、ガチで怒られるやつだ間違いなくミレイアのやつすげぇ怒ってるな)


怒ったミレイアを想像したのかどんどん顔が青くなっていくイオル。


「なあ、アリーシャ頼むからもう少し泊めてくれないか?」


「ダメ。あんたには、さっさと帰ってもらうわ。私もこれからやる事あるから何時迄もあんたにいられたら迷惑なの」


アリーシャのハッキリとした拒絶にショックを受けながらも何とかしてもらえないものかとイオルは頼んでいた。


「そこを頼む。今帰ったら怒られちまうんだよ」


相当怒られたくないのか頼み込むイオルだっがアリーシャは厳しかった。


「残念ながら無理よ。今日は泊めてあげるけど明日になったら帰りなさいよ」


数日前に命を守ってもらった相手にこの言いようである。アリーシャは、イオルだからこんな事を言えるのだろうがイオルにしてみればこれくらいのお願いは聞いてくれても良いのではないかと思った。


「ちぇっ、わかったよ。」


何を言っても無理だと悟ったのか再びベッドに戻りふて寝をするイオル


「拗ねてんじゃないわよ。私もいろいろ準備おかあって忙しいんだから仕方ないのよ。まあ、素直に帰ることね」


アリーシャは、そう言い残すと部屋を出て行った。


ベッドの中でイオルは


(何て言ったら許してくれるかなぁミレイア。あいつ怒ると長いから嫌なんだよなぁ。やだよぉ帰りたくないよぉ王城で仕事したくないよぉ)


明日からの憂鬱な日々に頭を悩ませていた。



夜になり呼び出されたのでしぶしぶイオルはアリーシャの部屋にいた。


「それで、何のようだ?」


呼び出される心当たりがないのか質問するイオル


「まだ、ちゃんとお礼を言えてなかったからあんたが帰る前に言おうと思ったのよ」


「そうだったっけ?された様な気がしてたが」


記憶があやふやだったイオルは、お礼なんてとっくにされた様な気がしていたがアリーシャは、真面目な表情をしていた。


「機会がなかったのよ、だから改めて言うわね。私の…私たちの事を守ってくれて本当にありがとう。」


そう言ってアリーシャは頭を下げた。感謝の想いが詰まったお礼を聞いたイオルは言葉を失った。


「…………」


沈黙に耐えかねたのかアリーシャがほんのり顔を赤くしながら話しかける


「な、なんか言いなさいよ…」


「…い、いや何でもない」


イオルも照れ臭そうに返事をしたせいで部屋には変な空気が漂っていた



2人して何を言ったらいいのか分からない時間が続いたがイオルが切り出した


「ま、まあ。ちゃんと礼は受け取ったから俺は部屋に戻るな」


「そ、そうね。それじゃあまた明日ね」


イオルは、そう言うとそそくさと部屋を出て行った。





次の日、朝になってもイオルは部屋から出て来なかった。


「ちょっと、あいつ!いつ迄経っても起きて来ないんだけど!」


アリーシャは、イライラした様子でハンナに文句を言う


「まあまあ、落ち着いてください会長。イオルさんが起きて来ないのはいつもの事ではないですか」


ここ数日で、イオルが朝起きないのは分かっているのでハンナはアリーシャに落ち着く様に促すがアリーシャは納得していなかった。


「でも昨日、明日ちゃんと帰れって言ったのよ!」


二人がそんな会話をしていると部屋の外から呼びかける声がかかった。


「すみません、会長。お客様がお見えになっております。」


こんな時間に誰だろうかと思ったがアリーシャは返事をして玄関に向かうことにした。







イオルは、いつも通りベッドで寝ていた。基本的に朝に起きるという習慣がないので当然のことの様に寝ていたのだが部屋の外から声がかかった。


「イオル!さっさと起きなさい!」


アリーシャが大声で起こそうとするがイオルはテキトーな返事をしてきた。


「うぅ〜〜、まだぁ〜」


うるさいなぁと思いながらほとんど寝ている状態で返事をしたイオルは再び意識を沈ませようとしていた。


ギイッ


イオルの部屋のドアが開く音がしたと思うとアリーシャの声ではない怒りを宿した低い声が部屋に響いた。


「イオル様?一体何をしているんですか?」


声に籠る怒気は尋常ではない量であった。うつらうつらしていたイオルの意識は一瞬で覚醒しベッドの中で嫌な汗をかきながら焦っていた。


(何だ、何でだ⁉︎何であいつがこんな所に居るんだ⁉︎どうしてだ⁉︎嘘だ⁉︎)


現実を理解出来ないのかしたくないのか頭の中を疑問が飛び交うイオル。しかし、現実は非情であった。


「いつまで寝たフリをしているんですか?さっさと起きてください」


一緒に部屋の外にいたアリーシャも声に籠った怒気に顔を痙攣らせていた。

もちろん布団の中にいたイオルも恐怖に身体を震わせていた。


「さっさとしてください」


これ以上は待たないぞという意思がひしひしと伝わってきた。

本当にマズイと思ったのかイオルはベッドから飛び起きた。


「や、やあ。ミレイア久しぶりだな」


イオルが起き上がると部屋には、本当に何故ここに居るのか分からないが全身から怒りを滲ませたミレイアが立っていた。


「ええ、久しぶりですね。イオル様」


イオルは、怒られるような事に心当たりが多すぎて何に怒られているのかイマイチ分かっていなかった。


「ど、どうしたんだ?こんな朝早くに」


地雷を踏まないように慎重に質問をする


「仕事が終わったと言うのになかなか帰って来なかったので迎えに来ました。」


(い、いきなり地雷踏んだー。しかも気づいたがこれどんな質問してもダメなやつだ!地雷が多すぎる)


「そ、それはだな。俺にも後始末とか色々やる事があったんだよ」


何とか怒りを鎮めようとするイオルだったが


「手紙には、仕事の疲れを取るためにこの建物から一歩も出ていないと書いてありましたが」


(はいアウトー。ってゆうかアリーシャのやつ手紙に何書いてんだよ!)


部屋の外に立っていたアリーシャを睨みつけるイオル。そんなイオルに気づいたアリーシャは少しイオルを可哀想に思っていたが直ぐに自業自得だと割り切った。


「も、申し訳ありませんでしたー」


これ以上何を言っても墓穴を掘るだけの気がしたので諦めたイオルは、ベッドから飛び降り綺麗な土下座を決めた


「そんな事をしても許されませんよ。王城に帰ったら仕事が山積みですから全部終わらせるまで休ませませんよ」


イオルは文句を言おうとしたが有無を言わさぬミレイアの眼を見てスッと引き下がった。

文句を言ったら殺すと眼が語っていた。


「は、はい。わかりました…」


返事をしたイオルの顔は全てを諦めたそんな顔をしていた。



















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