第34話 事象:ITにおける伸ばし伸ばしになっている説明について

「あいつぁな、俺の宿敵なんだよ――」


 全然いらない情報キター!


「へ、へー。そうなんだー」

「おうともよ。あいつはな、この俺と決闘して引き分けた奴なんだ……。昔の話だが、闘技場で戦いをした時にあいつと当たったらもう――結末は引き分けしかなかったもんだ。どっちもボロボロになるまでやって、同時に倒れるのが常だった」


 こんな巨体のヘラクス相手に引き分けとか、一体クソオヤジは本当に何者だったんだ。


「なぁ、あのクソオヤジは一体何者だったんだ?」

「知らないのか? お前がクソオヤジとよんでるそいつは、昔【罪業背負いし天下無双の虐殺者クリムゾン・アニヒレイター】と呼ばれた、皆から畏れられる最強の冒険者だったんだよ……」

「……畏れられてたのか」

「ああ、俺も負けちゃいなかったが、あいつの闘いは凄惨だ――今でも思い出せる。奴が魔族と戦ったとき、単独で二千の魔物達を木端微塵に吹き飛ばしたんだよ。その一件が【罪業背負いし天下無双の虐殺者クリムゾン・アニヒレイター】の名の由来だ」


 ……なんつーか、もう、苦笑いしか出てこねぇな。

 何やってんだよクソオヤジ。すごすぎだろ。

 ちょっと待てよ。


「クソオヤジにそんな異名がついてるってことは、ヘラクスにも何かついてるのか?」

「ほほう、良く聞いてくれたな……俺はな、【世界を灰塵へ導きし剛力無双の殲滅者ロード・オブ・ジェノサイダー】と呼ばれていた」


 お前もか。ヘラクス。

 おっさん、信じてたのに……もう少し中二臭くない奴はいないのか!!

 つーか、ジェノサイダーが虐殺者を意味してて、アニヒレイターは殲滅者を意味してたはずだけど、両方逆になってねぇか? 二人とも揃うとひでぇことになるっていう意味で先人たちは着けたのか?

 ――なんにせよ、中二の考えることは良くわからん。


「へぇ……ちなみに、なんでそんな名前で呼ばれてたんだ?」

「――今思い出しても血が滾る。ちょうど【罪業背負いし天下無双の虐殺者クリムゾン・アニヒレイター】がその名を戴いたと同時期に、俺もこの名を戴いたんだ。同じ状況だ。あいつとな。魔族との戦闘で二千の魔物を単独で、九十秒で始末してやったんだ」

「……すごいな」


 もう、この街化け物だらけじゃん。

 魔族が襲ってきてもクソオヤジとヘラクスさえいれば大丈夫じゃね?


「だがな――悲しいことに、今の俺は獄中生活が長すぎた。もう現役のころのように好き勝手に暴れまくるなんてことはできなくなっちまってな。後継者を探したいんだが、中々俺に及ぶような奴はいねぇ……お前さんも目を付けていたんだが、どうやら【罪業背負いし天下無双の虐殺者クリムゾン・アニヒレイター】に先を越されちまったみたいだからな」

「後継者……?」


 どういうことだろうか。後継者?

 いや、考えれば分かるか。

 二つ名っぽいものを持つ、人類の希望ともいえる二人だ。


 その名を継ぐ者が居れば、人々は安心を覚えるだろう。

 って、ちょい待ち。聞き捨てならねぇんだが。


「もしかして、クソオヤジがこの鎧とか剣とかくれたのって」

「……? 冒険者の命ともいえる装備を坊主が受け取ったんだろ? なら、お前が次代の【罪業背負いし天下無双の虐殺者クリムゾン・アニヒレイター】だ。まぁ、名前まで一緒になるとは限らねぇがな」


 ――嫌だ。嫌すぎる。

 なんだその称号。謹んでお返ししたいくらいなんだが。


「いらねぇ……」

「返すことはできねぇだろうなぁ……アイツ、多分お前さんが返すって言った途端に殺しにかかって来るぞ?」


 ですよねー……。

 ええい、もうどうにでもなれだ!

 この話はこれでおしまい! 実際影響があった時に考えりゃいいや!


「がっはっは! お前さん、災難だったなぁ!」


 くっそ。他人事だと思って笑いやがって……。あ、そうだ、帰る前にもう少し聞きたいことがあったのを忘れてた。


 俺はヘラクスがひとしきり笑って落ち着いた頃を見計らって質問を続けた。


「仕事で一緒になるかもしれないって話だったけど、あれってどういう意味なんだ?」

「お前さん知らないのか? 冒険者ギルドと戦士ギルドとはな、大きな異変やら、魔族の侵攻なんかを受けたときに協力して魔物を討伐する取り決めになってるんだよ」

「へぇ~、初めて聞いた。……なぁ、ヘラクス、魔族ってなんなんだ?」


 聞いたことはあるのだが、実際は何も知らない魔族について聞いてみることにした。

 ラノベとかの魔族って、だいたい魔王とかの手下とかだよな?


「そうか、今の若いのは魔族も知らねぇのか……嫌だねぇ、平和ってのは。いいか? 坊主。魔族ってのはな、魔王が統べる土地に住んでいる者達のことだ。こいつらがすこぶる悪い奴らでな。事あるごとに人間の領土に侵攻してくるんだよ」


 なんだそれ。めっちゃ怖いじゃん。


「今も侵攻してきてるのか?」

「いや、ここ最近――先代勇者と協力して魔王を退けてからもう百年になるが……その百年前から魔族の侵攻は無くなったんだ。若いのが知らねぇのは仕方のねぇことだな」

「へ~、百年……って、ヘラクス何歳なんだ!?」

「俺か? 正確に数えてねぇよ。先代勇者が魔王を倒しに行くときに同行した時には確か……40近くだったからな。今は140歳ってところか?」

「……じじいじゃねぇか」

「がっはっは! うるせぇよ坊主! じじい扱いしたら握りつぶしてやるからな?」


 うぉい! 手に力こめるんじゃねぇ! 骨が、骨がきしむぅぅぅ!!


「いててててて!! 冗談、冗談だっつの!!」

「まだまだ鍛え方が甘いぞ、なんなら俺が鍛えてやろうか?」

「え、遠慮しとく――どんな鍛錬させられるか分かったもんじゃない」

「なに、腕の三本くらいは折る覚悟でいれば見違えるほど強くなるぞ? まぁ、二本折って治るまでの間も鍛錬するからな。実質訓練期間は3年くらいか?」

「……なげぇ上にやる気しねぇよっ。とりあえず、冒険者ギルドと手を組む時はよろしくな! うん! 放してくれ!!」


 これ以上の長話は無用!

 ずっと握られてると、いつ死ぬかと言う恐怖しかないからな!


「おう! お前さんも達者でやれよ」


 そう言って、ヘラクスは大声で笑いながら戦士ギルドの中へと入っていく。

 まったく、一体どうなってやがる。次から次へと知り合いにばかり会うし……。


 はっ、次はまさか――エリスちゃん!?


 そうだ。この調子で行くと、次は絶対エリスちゃんだ!

 今日の夜あたりにでも一緒に冒険者しようぜって誘うんだ!


 ――と、意気込んでいたが。


「おかえりなさい、アレンさん」

「た、ただいま」


 エリスちゃんのエの字もなかった。

 出逢ったのはおっさん二名。

 何れも酷い目にあっただけ。

 なんだこれ。俺なんかに呪われてんのか? ああ、呪われたな。そういえば。


「クラウはまだ寝てまース。アレンどれだけヤっちゃたんでース?」

「……まだ起きないのか……ちょっとやりすぎたかもな……いや、でも記憶がねぇからいまいち分からねぇのが悔しいよな……」

「本当にアレンさんは下衆ですよねぇ……」

「うるせぇ、呪いのせいなんだから仕方ねぇだろ!? それはそうと、呪いだよ、呪い。マリーさん俺になんか言わなきゃならん事があったんだろ?」


 俺の言葉にマリーさんはハッとする。

 こいつ、忘れてたな。


「そうでしたそうでした。いやーどうでもいいんですっかり忘れちゃってましたよー」

「どうでもいいとか言うなよ……で?」

「まぁまぁそう焦らずに。隣の部屋でちょっと話してきますから、ハットリさんはクラウさんの介抱を頼みますね?」

「まかせろでース。二人は隣の部屋で乳繰り合ってるといいでース」

「やだなぁもうハットリさんてばっ♡ アレンさんが手を出しにくくなっちゃうじゃないですかぁ」



「……いや、何もしないぞ? 嘘じゃないからなっ?」



 そんなやりとりを経た後、俺達は隣の部屋へと移った。

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