第12話 事象:ITにおける美少女の口説き方について

「それで、なんで俺の事を尾行してたんだ?」

「……ホントにお姫様抱っこして店内に入るとは思わなかったわ……」


 なんだか彼女は頭を抱えちゃってるな。

 どうしてだろうか。

 お姫様抱っこして、ハハハハハ、と笑いながら喫茶店のマスターにゆっくりと話の出来る席を取ってもらったのに、お気に召さなかったのだろうか。


「にぎやかな場所の方が良かったか?」

「そういう問題じゃないわよ……。もう」

「もしかして俺の運び方に問題があったか? もう少し優しく――」

「違うわよっ! あんたアホなの!? 馬鹿なの!? どこの世界に喫茶店にお姫様抱っこして入るバカがいるのよっ! 恥ずかしいし、他の人たちからは完全に夫婦だと思われたじゃない!」

「……え? 違うのか?」

「……。ねぇ、私の言葉通じてるわよね?」


 ヤバイ。ふざけ過ぎた。ちょっと美少女の眼がレイプ目になってるんですけど。

 仕方ない。もう少し楽しくおしゃべりしたかったけど、真面目に話すか。


「ああ、通じてるさ。悪いな。俺はああいう性分なんだ。君みたいな美少女を見ると反射的に体が動いちまうんだよ」

「変態じゃないの」

「おう、俺は変態だぞ? 何か問題でもあるのか?」

「……この人何かヤバいのでもキめてるのかしら?」

「なにか言ったか?」

「いーえ、なんでもないわよ。あんたを尾行してた理由だけど、私もあんたと同じく、冒険者ギルドを探してただけよ」


 なんと、この少女も冒険者ギルドに行こうとしてたのか。

 ああ、そういうことか。

 広場で大声であのおっさん達と話した時に、冒険者ギルドってどこにあんの? って聞いてたからなぁ。


「なるほどな。それでセントラルパークで話してた俺を尾行すればいずれは冒険者ギルドに到着するって作戦だったのか。……君は天才か?」

「あんたが馬鹿なだけでしょう……どう考えても」

「褒め言葉として受け取っておく」

「そう……」


 彼女は紅茶を上品に呑みながら、俺の方を見つめてきた。


「なんだ? 俺の顔になんかついてるか?」

「いいえ……」


 そっけなく返事をする彼女だが、それでもまだ俺の事を値踏みするような目で見てきている。

 どうしたんだろうか、と考えていたら、彼女は何かを思いついたようにニヤリ、と笑みを浮かべた。嫁に欲しい。


「……なんだよ。可愛いじゃねぇか。俺を悩殺してどうする気だよ」

「私、可愛いでしょう?」

「ああ、すんげぇ可愛いな。結婚してくれ」

「ふふん、そう、そう……ねぇ、あんた、そんな可愛い私に悪戯い~っぱいしたわよね?」

「後悔はしてない。すんげぇ気持ちよかったし、いい想いをさせてくれた。ありがとう! そしてできればもう一回頼む」


 言った瞬間テーブルの下から蹴りを入れられた。

 あぁ、下にもぐってればスカートの中身をまた拝めたのに。


「……訴えても、いい?」

「いや、勘弁してくれ。頼む」

「じゃあどうやって責任とってくれるのよ?」

「責任ならいくらでもとる用意が、俺にはある。ぜひ俺の嫁に――」


 猫パンチが顔面に来た。

 避けられる早さだったが、俺は敢えてあたりに行く。やっぱり痛くねぇ。


「誰があんたの嫁になんてなるっていうのよっ! もう!」


 あぁ、怒らせちゃったかー。

 ここは誠実に謝ったほうがよさそうだな。

 頭をテーブルに着けて、プチ土下座の姿勢を取った。


「すまんかった。君の気が済むまで『なんでもするから』、許してくれ」

「……今、なんでもするって、言ったわね?」


 先ほどとは声音が全く違った。

 彼女は、いつの間にか満面の笑みを浮かべているではないか。

 怒ってるように見えたのは演技だったってのか……!?


「あ、ああ。言ったな」


 背筋を悪寒が走った。こりゃあなんかトンデモな事をやらされるんじゃないだろうか? 人間大砲とか、一日中ずっとハゲの頭を磨く地獄のハゲ磨き耐久勝負とか。

 おぉ、滅多な事は口に出すもんじゃないな。

 しかし、男に二言はない。

 覚悟を、決めるか。


「それじゃあ、私と冒険者パーティーを組みなさい」


 あれ?


「は?」

「だから、私と冒険者のパーティーを組みなさいって――」

「ちょっと待て、それじゃあ俺にはご褒美でしかないぞ?」

「え?」

「え?」


 何か話がかみ合ってない。

 冒険者のパーティーってのが、俺の想像の通り――冒険者ギルドで依頼かなんかをこなすための仲間たちの事――なら、大歓迎だ。


「だって、私、女よ? 初心者よ?」

「そんなもん関係あるかよ」

「え……戦闘だってろくにできないわよ?」

「女の子に戦闘させると思うか? 俺が?」

「……」

「じゃ、決まりだな。これからよろしく」

「ちょっ……あっさり決めたわね……もう少しなにか疑うとかしないの? あなた」


 それほど意外だったのだろうか? そりゃあ冒険者をやるには女の子はキツイかもしれない。

 でも戦闘もできない、冒険者の基本も分からない女性だって、やろうと思う気概があれば何でもできるもんだ。

 そして彼女には、その気概があると俺は直感している。

 そしてなにより――


「黒猫美少女に悪い奴なんていねぇ!」

「ひっ!? なによ、いきなり訳分かんないこと叫ばないでよっ! びっくりするでしょっ」

「悪い悪い。つい心の声がな。……そういえば名前を聞いてなかった。君、名前は?」

「クラウディア……クラウでいいわ」

「ああ、思った通り、君にぴったりのいい名前だ」

「なによ、調子の良い事言っちゃって……後で後悔しても、知らないわよ?」


 俺がそう言うと、なぜか顔を紅くしてそっぽをむいてしまった彼女は、出会ってからまだ数時間と経ってないというのに、俺の心を鷲掴みにしていた。


「なぁ、やっぱり俺の嫁になってくれよ」

「いやよ。貴方に触られるだけでも妊娠しそうなんだもの」


 彼女に認めてもらうにはまだまだ先は長そうだ。

 だが、冒険者ギルドに行く前に仲間が出来たのは幸いだろう。

 喫茶店の支払いで所持金があと五百ユルドになってしまったのは痛かったが。

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