4.カナエ

 金本と水嶋との面談を終えたカナエと母は、さっそく発達障害者支援センターへと連絡をした。


 支援センターは予約制で、まずは一週間後、初回の面接を受ける約束をとった。


 当日、支援センターにカナエと母が訪れると、精神保健福祉士と名乗る担当者が温かい言葉で出迎えてくれた。


 カナエは金本が持たせてくれた心理検査の結果を渡し、今後は就職を目指したいが、たくさんやることがあってどこから手をつけたらいいのか分からないことを相談。


 すると担当の精神保健福祉士が、ひとつひとつ道筋を整理してくれた。カナエや母に分かるように。


 そして就労支援の利用を開始するのと同時に、支援センターにあるフリースペースにカナエは自由に通い始めた。

 フリースペースにはカナエと同じ発達障害だと診断を受けた人たちが通っており、カナエはそこで仲の良い友人もできた。



 就労支援に通い始めて約六ヶ月後――、手帳の申請を行うために役所へ足を運んだカナエ。


「これを主治医の先生に書いてもらってください」と渡された診断書。


 やまざと精神科病院へ、久しぶりに訪れることになる。


 カナエの頭には、ある二人の女性の顔が浮かんでいた。


 カナエはやまざと精神科病院に電話を掛ける。


『はい。やまざと精神科病院でございます』

「あ、すみません。診断書を書いてほしくて。かね……、かね、金本さんはいますか?」

『金本ですね。お待ちください』


 伝わった、とカナエはホッと胸を撫で下ろす。


 そして、久しぶりに聞くあの声が受話器越しに聞こえてきた。


『もしもし、金本です』

「か、金本さん。こんにちは、カナエです」


 覚えてくれているだろうか。


 誰だっけ、と言われてしまったらどうしよう。


 カナエの脳裏には、ふとそんなこともよぎったが、とても嬉しい言葉が返ってきた。


「お、カナエさん。久しぶりですね。連絡をくれてとても嬉しいですよ」


 カナエは受話器を持ちながら、にやにやが止まらなかった。

 カナエは、金本との面接以降の話を金本にたくさんたくさん話した。


 金本はそれを『すごいね!』『よかったね!』と言いながら話を聞いてくれていた。


 たった二回しか話をしていないのに、あなたのことが頭から離れないのはどうして?


「金本さん」

『どうしたの?』

「金本さんは、どうしてそんなに私の話を聞いてくれるんですか?」

『どうしてって、――私たちは対等な人間だからだよ』


 ああ。


 私は幸せ者です。


 何の隔たりもなく接してくれる、あなたに出会えたこの運命に感謝したい。

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