第32話 ハントメイト(狩猟仲間)

 さて、大抵のオンラインゲームでは、“ギルドカード”や“フレンド登録”などと呼ばれるシステムによって、「知り合いになった同じゲームのプレイヤーと連絡をつける」ことができるようになっています。

 『ハンティングモンスター・フロントライン』にも同様の機能は備わっていましたし、特にコミュ障でもソロ厨でもなかった牧瀬双葉リーヴのギルドカードにも、足掛け7年のプレイを経てそれなり以上の数の“猟友フレンド”の名前が登録されていたのですが……。


 「さすがに、この世界の狩猟士登録証ハントマンカードにまでは猟友名それは引き継がれてないか」

 「そもそも、登録証カードにそんニャ機能はニャいみたいですわね」

 シトゥラの町の狩猟士協会併設の酒場で登録証を見ながらボヤくリーヴにカラバが合いの手を入れます。

 「仮に名前があっても、そもそもどんな風に猟友の方々が呼び出されるのか、不安しかないデス」

 ケロの言うことももっともで、我々わたくしたちとしても流石に本物のプレイヤー自身を召喚させるわけにもいきませんし、かといって外見ガワと戦闘傾向だけ似せたBOTモドキを作ってこの世界の住人に見せるのも気が引けます。

 とは言え、牧原双葉さんがHMFLプレイヤーとして有していた“財産”のうち、装備も資材もお金もその大半を(世界側の都合で)渡せなかったわけですから、せめて交友関係くらいはなにがしかのフォローをしたいところではあるのですが。いっそコレを口実に、残りの支援役を実体化するというのも手でありますかね。


 「それにしても、意外に集まらないものデスね、臨時徒党組んでくれる後衛の人」

 我が悩んでいるうちにも、リーヴ一行はまだ酒場で話し合っているようです。

 「致し方あるまい。私がつけた条件が条件だからな」

 「??」

 テーブルに頬杖をつき、珍しく気の抜けた表情かおをしているリーヴの言葉に、ケロが首を傾げています。

 「えっと……後衛を指名しただけデスよね? 確かに弩砲使いは珍しいかもしれマセんけど、それ以外ならそんなに厳しい条件じゃあ……」

 「ただし、“上級狩猟士”かつ単独行動ソロの後衛とニャると話は別ですわ」

 カラバの指摘つっこみでケロも「あっ!」と気づいたようです。


 この(ゲームではない)HMFL世界でも、単身ソロの狩猟士がいないワケではありませんが、新米や下級ならともかく、上級にまで上がって来るようなソロの狩猟士は、9割以上が前衛──近接用武器の使い手です。

 「わざわざ危険な巨獣に近づかなくとも遠距離からの攻撃に徹していればよいのでは?」と思われるかもしれませんが、残念ながらこの世界の飛び道具は弩砲バリスタを除き、巨獣・怪獣を相手にするには、圧倒的に威力が足りません。

 より正確に言えば、飛距離に反比例して威力が落ち、堅い巨獣の表皮を貫けなくなるため、たとえ弓・弩などの飛び道具であっても、ある程度獲物に近づく必要があります。

 銃装は軽装と比べても防御力に乏しいため、単独で巨獣の攻撃をかわし続けてダメージを抑えることを要求されますが、これはかなりの難事です。加えて、弩には弩弾のリロード、弓にも矢を矢筒からとって番え、引くというタイムラグがあります。だからこそ、一般的には、その間に入る前衛かべ役が必要とされるのです。

 後衛の援護を受けずに戦う前衛は珍しくありませんが、その逆──前衛のいない後衛が成立しづらいのは、こんな理由からです。


 「つまり、上級までソロのまま上がって来る後衛系狩猟士というのはかなり希少。もし、あの求人票リクエストに応えてくれる人がいるとすれば、何らかの理由でそれまでいた徒党を抜けたケースか──」

 「後衛だけじゃなく前衛もこなせる万能型狩猟士オールラウンダーってのが、まぁ妥当だわな」

 リーヴの言葉の続きを引き取ったのは、いつの間にか一行の背後に佇んでいた青年狩猟士でした。

 「どちら様かな?」

 「ん? ああ、オレ? オレの名前はハーレィ。つい先日ランク70になったばかりの弩使いだ。あっちの求人票を見て興味が湧いたんでね」

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