対 黒セルリアン③

「収まりましたね…」


ミライの話からしばらく経って、ようやくバスの外の世界は光を取り戻した。

サンドスター・ロウの嵐が過ぎ去り、何事もなかったかのようにいつもと同じ風景の森がそこにあった。

安堵の声を漏らすキンシコウの横で、リカオンがうめき声をあげながら身じろぐ。


「ぅ…ここは…?」

「リカオン!よかった…気がついたんですね」


あいてて、と小さく呻きつつ身を起こしたリカオンに、サーバルとかばんは軽い自己紹介を済ませ、彼女が気を失ってから何があったのか、キンシコウが説明を行った。


「すみません…かなりご迷惑をおかけしてしまったみたいですね…」

「いえ、無事で本当に良かったです。心配なのは…ヒグマさんです」


そうだ、とサーバルはボスを振り返る。


「もうあの黒いのも収まったし、バスの外に出てもいいんじゃないの?ボス」

「その黒い嵐…ひょっとすると、黒セルリアンが自爆したのかもしれませんね。すごい勢いで膨らんでましたし」

「ヒグマさん…私達が逃げた後、あの黒セルリアンから距離をとってくれていたらいいんですけど…」


心配げなリカオンとキンシコウ。ボスは外の危険性が収まったか確認するためか、窓の近くへと移動し、なにやら電子音を立てている。と、


『エラー。エラー。サンドスター・ロウノ濃度ガ、正シク測定デキマセン。デ、デキ、マ、マ、マ』


ピルルルル…と情けない音を立て、ボスは固まってしまった。

するとどうしたことか、シャッターや窓が開放され、いつもの見慣れた形へとバスは姿を変えた。


「やったー!開いたよ!これでヒグマを探しに行けるね!」


ヒョイッと外へ飛び出し、サーバルはキンシコウにほほえみかける。


「えぇ。急いで探します」

「私も、もう動けます。行きましょう!」

「じゃあ、ボクたちも手伝います」


固まるボスをひとまずバスに残し、かばんたちは全員でヒグマを探すために外へ出る。

異様な存在感を放っていた黒セルリアンの姿はどこにもなく、リカオンの予想通り自爆したのだとすぐわかった。


思わぬ形で脅威が去り、安堵の表情を浮かべる一同。


これが悪夢の終わりではなく、始まりであると気付くには、そう時間はかからなかった――







「私達が戦っていたのは、このあたりですね」


キンシコウの案内で開けた場所に出た一同は、あたりを見回した。

黒セルリアンのいた痕跡の足跡は無数に残っているが、ヒグマの姿はない。


「ヒグマさん、逃げられたんですかね」


少し心配そうな表情で呟くリカオン。サーバルは口に手を当てて大きく叫んだ。


「おーい!ヒグマー!!どこにいるのー!?」

「ヒグマさーん!!」

「ヒグマさん、どこですかー!!」


キンシコウとリカオンもそれに続く。

かばんも同様に声をあげようと息を吸い込んだとき、サーバルが耳をぴんと立てて皆を制した。


「待って!今そっちから音がしたよ!」


サーバルが指さした方を見やると、茂みが動いているのが確認できた。



草をかきわけ、ゆっくりと姿を現したのは、探していたヒグマその人だった。


「ヒグマさん!よかった…無事だったんですね」


心底ほっとした様子でキンシコウが胸をなで下ろす。

そんなキンシコウや、かばんたちの姿を見て、ヒグマはなぜか足を止めた。


「…?ヒグマさん?」


違和感に気付いたのは、リカオンだった。

ヒグマの呼吸が、荒い。

肩で息をする、というより、食いしばった歯の間から、ふー、ふー、と興奮したような吐息を漏らしている。

かばんはそれを見て、なぜか無性に、その場から離れたいという思いに襲われた。


「あ…あの…」

「どうしたんですか?ヒグマさん」


そんなかばんの気持ちなどつゆ知らず、キンシコウがいつもと違う様子のヒグマを心配し、彼女へと近づく。



それが、きっかけとなった。






「――ッ!!グオオオオおおおッ!!」




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る