チューリップ

ちょこれーと

プロローグ

 ある雨の日、薄暗く湿気が漂う路地裏に1人の少女がいました。


 俯いた少女の長い黒髪の奥には、キラキラと大粒の涙が光っていました。


 少女は泣いていました。


 少女はもう、明日を見ることを諦めてしまったからです。


 薄暗く光のない、気の遠くなるほど長い今日という時間の旅に、少女は疲れてしまいました。


 空を見上げました。空から降る大粒の涙を受け止め、少女は静かに瞳を閉じました。

 

―――瞬間、雨の音が遠ざかりました。


 目を開けるとそこには、絵本から飛び出してきたかのような可愛らしいお姫様がいました。


 お姫様は、傘を座り込んでいる少女にかたむけていました。自分が濡れるのも構わずに。


 お姫様は少女に手を差し伸べました。


 少女はお姫様の手を取り、再び涙しました。


 そうしてお姫様は、少女を明日へと導いたのでした。

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