第25話 どんなクルマ?

 納車当日。


 業務も滞ることなく、すんなりと帰宅できた。

 着替えて一息ついたとき、庭にクルマが入ってくる音。

 親父のノアとは明らかに違う。


 来たかな?


 陽に、


「お!ちょー行ってみてん?」


 言うと、ダッシュで庭へ。

 クルマを確認すると、


「おとーさん!来たばい!」


 ハイテンションで走って戻ってくる。


「そっか。」


 すぐに出てゆく。


「こんばんわ。お待たせいたしました。」


「どーも。」


「任意保険の切り替え終わってますので、すぐにでも乗れますよ。半年、もしくは5000kmの保証もつけてます。」


「そうですか。ありがとうございます。」


 中古車には、前オーナーの癖がついており、オーナーが変わるとその癖も変わる。そのことにより、壊れたり不具合が出たりすることが多いのだ。しかも、その多くは保証期間内に現れる。だから、保証がついているというのはとてもありがたい。


 各機能の説明はこの前店で受けた通り。

 特に聞くことはないので用意していたお金をわたす。

 確認が終了すると、


「ではこれで。何かご不明な点や、不具合などがありましたら遠慮なく持ってきてくださいね。」


 そう言って、同行の営業マンのクルマに乗り込み帰っていった。




 早速、陽が喜びそうなサードシートの秘密をおしえてあげる。


「陽?見よけよ。」


 ハッチバックを開け、シートを起こすと、


「わ!こげんトコにもイスがあるん?スゲー!」


 予想通り過ぎる反応。

 思わず嬉しくなってしまう。

 乗り込んだのでハッチを閉めてやると、そこに座って喜びまくり。

 そのまましばらく遊んでいそうな雰囲気だったので、


「陽!前に乗れ!」


 ハッチバックを開ける。


「はーい!」


 二人して乗り込む。


「広いね!」


 感動してくれている。

 でも。

 ホントのこと言うと、内装が分厚くてシッカリしているため、ボディの大きさの割に狭い。後部座席の足元なんか、前のシートの下げ具合によっちゃ背もたれに膝がくっつくほど。

 天井もそんなに高いわけじゃないので、親父のノアの解放感には到底及ばない。


「上、見てん。」


 指さすと、


「何これ?」


 日よけのカーテンを両脇に寄せ、空が見えるようにしてあげると、


「うわ!屋根が開くん?」


 またもや感動。

 こんなにも喜んでくれるとは。


「うん。ちょこっとだけやけどね。」


 開けてみせる。


「お星さま、見えるね。」


「そーやろ?よかろーが。じゃ、行ってみよっか?」


「うん!どこ行くん?」


「どっこも行かんばってんが、裏のバイパス最後まで行って戻ってくる。」


「わかった。」


 エンジンをかける。

 キーをONしてグロー。

 グローランプが消えたらスタート。


 キュキュキュカラカラカラ…


 一発始動!

 ブレーキペダルを踏み、セレクトレバーを「D」へ。

 ガクッと動力が繋がる。

 左手で、コラムの付け根付近にある、パーキングブレーキのリリースを引くと、


 パコッ!


 解除。


 アクセルは…ん?


 今まで乗ってきたクルマでは味わったことの無い感触。

 ブレーキを踏んで覗き込むと。


 あ~。オルガン式のアクセルペダルなんやね。


 そう言えば聞いたことがある。

 これはクラウンの伝統であり、大きな特徴なのだ。

 長いペダルが床にくっついているタイプで、吊り下げ式とはまるで違う踏み心地。


 県道を左に出てフル加速してみる。


 ヒュイ~…


 タービンの音。

 結構ぎょうらしい(訳:大袈裟)。

 タコメーターの針が1300rpm辺りを超えると、針の脇にある緑色のターボインジケーターが点灯し、過給していることを知らせる。


 エッセとはまた違う、鋭い加速。


「速いねー!」


「スゲーね!」


 二人して感動。


 直4のディーゼルで出力は100馬力と、数値的には全く大したことない。

 シルキーさもガソリンの直6とは比較するのもバカらしいが、力強く加速する感じがエライ気持ちいい。


 気になる黒煙も、ずっと吐きっ放しというわけではない。

 アクセルを踏み込むと、その瞬間だけ後ろの車のヘッドライトの明かりモヤッとなる程度。

 一定速度で走っているときはほぼ無煙。


 運転席は目線が思ったより高くて、ボンネットの見切りもいい。

 かなり運転しやすい。

 狭いトコロに入るのも楽そうだ。


 乗り心地は?

 クラウンは高級車だから、ひたすらフワフワかと思いきや、かなりシッカリしている。

 橋の継ぎ目や路面の凹凸は忠実に拾う。

 硬いと感じた。

 と、こんな感じ。


 大まかな特性は分かったので、この日のプチドライブは終了。




 後々分かったこと。


 スタンドにて。

 普段利用しないスタンドに行ったり、新人のバイト君に誘導されたりすると、必ずと言っていいほどガソリンを給油されそうになる。


「軽油満タン。」


 フューエルリッドの裏には、「軽油」と書かれてあるのだが、入れ間違いを防ぐため、必ず口にするようにした。



 チョイ乗りは苦手。

 今は夏場。

 エアコンを使用し、通勤だけに使用すると、燃費が6キロ台にまで落ち込む。

 ちなみに高速で遠出すると12~15キロ。

 遠乗りを含む下道のみの走行だと8~10キロ、といったトコロ。


 バラつくのはターボ付きやき、しょーがないんかな?



 便利さは?

 室内長が長いため、大概のワンピースロッドが余裕で積める。


 チャリも2台はイケる。

 二列目のシートを前に倒すと楽勝で乗せられる。

 ちなみに背もたれは6:4に分割できる。


 フルフラットになる。

 運転席と助手席の背もたれは、ヘッドレストを外して前にスライドさせ、倒すと後部座席の座面とくっつき、まっ平らになり、足を伸ばしてくつろげるし、寝ることもできる。

 なかなかに使えるお利口さんなのだ。




 こんな感じで、思っていた以上に使い込む楽しみがあるクルマである。

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