第4話 メラビアンの法則

 ここは、とある会社の面接会場。

 質問役の男性面接官と、如何にも仕事ができそうな感じがする女性面接官。事実この女性、男性面接官の上司に当たり、採用試験の決定力も持っている。

 彼女はグレーのスーツに淡いピンク色のスカーフを巻き、アップにした髪型と出しゃばらない程度のピアスが、余計に彼女を引き立たせる。


 「次の方、どうぞ・・・」

 男性面接官の呼び掛けに、その部屋のドアーをノックする音が。入って来たのは、若い女性である。

 彼女は深々と一礼すると、キラリとしたその瞳で面接官に視線を合わせる。如何にも優秀さが伝わってきそうな大学生である。


 彼女は髪の毛をポニーテールに束ね、やや濃い目のグレーのスーツを着こなしている。そのスーツの胸ポケットからは薄いピンクのハンケチがのぞき、これが落ち着いた雰囲気の中に程良いアクセントをかもしし出している。

 また、うっすらと当てたリップと小さめのパールのイヤリングとが、彼女の女性度を否が応でもさらにアップする。

 まさに知的美人とは、彼女ような人のためにある言葉なのであろう。


 質問役の男性面接官が問いかける。

 「貴女あなた弊社へいしゃを志望した理由は?・・・」


 間髪入れずに答える。

 「御社の製品は世界的にも大変有用な物ですが、まだその製品の汎用はんよう性については一部に止まっています。私は新たな製品開発の分野で、是非自分のスキルを試してみたいと思っています。またその製品のシェアは国内において常にトップを占めていますが、海外においても十分に競争足り得るものと信じています。私は大学在学中に留学で学んだ語学を生かし、海外におけるマーケティングにも参加させていただければと思っております」

 

 まさに非の打ち所がない解答とは、こういうことを言うのであろう。

 男性面接官は少しだけほおを赤らめながら、何度も頷く。 


 この後も、男性面接官の様々な質問に、彼女はキリッとした眼差しを二人の面接官へと交互に向けながら答えていく。

 その想いと情熱とが、当然二人の面接官にも伝わらないはずがない。


 面接が終了し、彼女の後ろ姿を見送る。

 

 「なかなか最近には無い逸材いつざいですね・・・」

 男性面接官が目尻を垂らしながら、女性の上司に話し掛ける。


 「彼女、不採用よ!」

 「えっ、どうしてですか?・・・」

 愕然がくぜんと驚く男性面接官。 


 上司でもある女性面接官は、思い出すかのように彼女の履歴書に目を落とす。

 「グレーのスーツにピンクのハンケチ、アップした髪型にシンプルなピアスだなんて、まったく私とかぶるじゃない・・・」

 


【メラビアンの法則】

所詮、「人は見た目で判断する」という法則。

人は相手の話の内容など、その人の内面的なことはおよそ7%しか考慮せず、55%以上を服装や表情など見た目で判断するということ。


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