いじめ

父の看病とリハビリをするため他県に移り住み、小学校を転校した。


急を要する事態だったため、仲のいい友達やクラスメイト達にちゃんと理由を話すことも、お別れを言うこともできなかったのが悔やまれた。


転校先の小学校は密集した住宅地の中にあり、元々私が通っていた小学校より生徒数が3倍も多く、クラスの数も多かった。

棟がいくつもあり迷路のように感じた広い校舎と、多彩な花々が咲く沢山の花壇や校舎より大きな木がある広い校庭。

元いた小学校とあまりに違う光景とスケール感の違いに、これからやっていけるのかと一抹の不安を覚えた。


そしてその不安通り、私はクラスメイトからいじめられるようになった。


いじめのきっかけは些細な事が積み重なっただけだと思う。


元々住んでいた場所の方言が抜け切らない私を、クラスメイトが可笑しいと誂うようになった。


学期の途中で転校したため、私が前の学校で習っていた部分をクラスメイトがまだ習っておらず、テストでいい点を採ってズルいと言われた。

逆に、クラスメイトが習っている部分を私が習っていなかったため、グループ課題で足を引っ張ってしまった。


持病で激しい運動が出来ず、軽い運動をしても運動音痴な私はチーム戦でお荷物になり、更に嫌われるようになった。


気がつくと私は、クラスでひとりになっていた。


私が話しかけるとクラスメイトは誰も話してくれず、存在自体がないような態度をされた。

仕方がないから自分の席に座ると、辺りからクスクスと笑いながら「なんで学校に来るんだろう」「邪魔なんだけど」「どっか行ってくれないかな」など、私に聞こえるように話し始める。


遠足や写生大会、クラスマッチなどのイベントでグループ分けが必要な時はみんなが私を嫌がるので、先生が無理矢理にグループに入れるしか方法がなかった。

無理矢理入ったグループでも、必要に応じて話しかけても無視され、集合場所や時間などを教えてもらえず、私一人遅れて先生に注意されたこともある。


暫くの間は必死で我慢をし続けた。

私がみんなに嫌われるようなことをしたのが悪いと思い、またいじめられていることが恥ずかしくも感じたからだ。


しかし、いじめはどんどんエスカレートしていった。


体操服や教科書を隠されたり、上履きに画鋲を入れたり等の定番なイジメはもちろん、体育の授業で先生が居ない時なんかは数人からバスケットボールを投げられたりした。


その中で印象に残っているのは、私にあだ名が追加された出来事だ。


ある日、放課後に校舎の傍を歩いていたら、何かがバサバサと頭に落ちてきた。

驚いた私が顔を上げると、クラスメイトが上の階の窓からゴミ箱をひっくり返し、その中のゴミを私に浴びせていたのだ。

紙屑がほとんどだったから怪我はなかったが、中には掃除したホコリなどもあり、髪や服が汚れた私をクラスメイトは「汚い」と指差しながら笑っていた。

その日以降、私のあだ名に「ゴミ」や「バイキン」が追加された。


そんな毎日に耐えかねた私は勇気を振り絞り、放課後に誰も居ないことを確認してから担任の先生にいじめられていることを相談した。


担任の先生は一通り話しを聞いた後、


「話はわかった。

 だけど、○○も悪い所があるだろう?

 自分から話しかけに行かないし、仲良くなろうという気がない。

 そういう消極的なところがみんな嫌なんじゃないか?」


「〇〇の勘違いや思い込みもあるだろうが、一応いじめについては皆に話してやろう」


先生は何時も浮かべている優しい笑顔で、私が期待していた言葉とは真逆の事を口にした。


私は愕然とし、大人とは、先生とはこんなものなのかと目の前が暗くなるような気持ちになった。

それと同時に、いじめられる原因は私だから、その原因は黙っていじめを受け入れなくてはいけないのかと喚き立てたい気分にもなった。

何を言っていいかわからなくなって口を閉ざしてしまった私を見て、先生はそろそろ帰るようにと背中を押した。


翌日、先生は授業でいじめについて語った。


でもそれは道徳の教科書通りの事で、このクラスでのいじめについては触れず、「いじめはよくない」と他人事のようにまとめただけで授業は終わった。


結局、いじめは何一つ解決せず、私が小学校を卒業するまで続く羽目になった。

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