フリートークのコーナー

 はい、というわけでアラストールの「復讐の刃」でした。

 メロディアスでありながらブルータルなデスボイスが印象的な曲でしたね。次のアルバムも期待してるよ。


 というわけで、本当ならここでお別れの時間が来てるはずなんだけども、思いの外大喜利がサクサク進んでしまったので時間が余りました。


「なので急遽フリートークコーナーとします」


「フリートークですか。何を話しましょうかね」


 そういえば勇者くん、こっちの敵が本当に強いとか愚痴ってたよね。


「ええ。敵識別の魔術でステータスを見てみたら大概の敵がレベル100を超えてて驚きましたよ。こっちの上限は99だってのにおかしくないですか?」


 え? レベルの本当の上限は999だけど?

 ついでに言うと僕のレベルは999です。


「え? マジですかそれ」


 あー、やっぱり表の人たちは知らんか。


「この際ですから教えてあげましょうよマオウ様」


 ここまで来れた勇者だし、特別にね。


 実は君たち表世界の人々には、『神の枷』が施されているんだ。


「神の枷……?」


 平たく言えばレベルキャップだ。上限が99だなんて言われてるのもそのせいでね。

 

 少し昔話をしようか。

 神代の時代、僕の父と秩序神オーデム達が争っていた時のことだ。

 父とオーデムはそれぞれ配下に人間達を従えて争っていた。最終的にはオーデムが争いに勝ち、父はこの世界を作って逃げのびた。ここまでは人間達の世界でも神話として残っている。そうだね?


「ええ」


 この話には続きがある。

 その後、人間達の多大な働きに感銘を受けたオーデムは神の加護を授けると言って人間達に何らかの術を掛けた。人間の歴史ではそのおかげで表世界での勢力を伸ばす事が出来たと言われているが、そんなのは真っ赤な嘘でね。

 実際に授けたのは成長をある程度の時点で止めてしまう『枷』だった。

 オーデムは争いが激しくなればなるほど成長性が増していく人間達の様子を見て恐れた。当然だ。神に匹敵するくらいの人間がどちらの勢力にも生まれたのだから。

 だから自分たちが統治する世界では、神をも倒せる人材が現れないようにしようと考えたんだよ。万が一、神に反逆する人々が現れたとしてもすぐに駆逐できるくらいの強さに抑えようと。

 神というのも臆病だろう? 人間達の協力のおかげで争いに勝利したと言うのに、人間を騙してきたのだからな。


「でも、その人間達を使って魔族やひいては魔王を倒そうとしているわけでしょう。神とやらは」


 そう。現時点では全く勝てないというのもわかっているのにね。


「なら、せめて勇者とその仲間たちくらいはレベルキャップを解放しても良いのに、何故神はそうしないんですか?」


 簡単な話だ。そのレベルキャップ最大値まで到達できた勇者が皆無だったからだよ。


「本当ですか……?」


 今まで戦ってきた勇者たちは最高でも85くらいだったかな。ロットンがそうだったと記憶している。

 君以外に召喚されてきた元勇者たちも大概はレベル40~50程度で力尽きて元の世界に戻っている。

 神はレベル99になった勇者が現れたら舞い降りてくるだろう。

 レベルキャップを解放するためにね。

 さて、99になった勇者が現れた時、神は一体どんな顔をしているだろうね。

 ついに魔王を倒せる可能性のある勇者が現れたと歓びに打ち震えるのか、それともここまでの力を身に着けた人間が現れた事に恐れをなすのか。あるいはその両方か。


「いずれにせよ、魔王を倒したいのならば僕らの枷を外さない理由はないでしょう」


 ごもっとも。

 じゃあさらにヒントを授けよう。

 君は秩序神オーデムが何処にいるか知っているかい?


「全く知りません」


 だろうな。奴は自分の居場所を同じ神であるカルケド達にすら教えない、用心深い奴だからね。エルフの伝承にすらも残っていないだろう。

 父に聞いてみた所、オーデムは表世界メルキア大陸のデゾル山脈のどこかに居るらしい。レベルが上がったら探してみるといい。


「ありがとうございます」


「ところでマオウ様。ずっとリスナーさん達が気になっている話題があるかと思いますが」


 ああ、僕とハッシー君の馴れ初めかい?


「恋人同士じゃないんですからその言葉はちょっと」


 折角勇者君が居る事だし彼の口から言ってもらおうか。


「はい。ええとですね。ボクとマオウさんの出会いですけど、その時はちょうど高校受験の時期でして、勉強漬けの毎日だったんですけども。志望校に入るには判定がちょっと厳しくていくら勉強しても上がらなくてノイローゼ気味になってまして」


 高校というのはこっちで言う学校と同じようなもんかね。


「まあ大雑把にはそうです。続きですけど、あまりに勉強し過ぎて頭がおかしくなったボクは、なぜか黒魔術の本を買ってきて魔法陣を描いて悪魔を召喚しようと思い立ちまして」


「本当に意味が分からない行為来ましたね」


「今思うとなんで勉強が行き詰ったからって黒魔術なんでしょうね。アホですね」


 その時僕は、ちょうど『時空の歪み』を見に行ってたんだよね。

 この世界、わりと無理やりに作った時空だから結構歪んでいる場所が多くて。

 別の世界線からたまに何かしらが流れてくるんだよ。物体だったり、人間だったり。

 そういうのがないか確認しようとしたら、たまたま歪んだ空間の裂け目から召喚の儀式の呼び声が聞こえるじゃん? だからつい行っちゃったんだよね。


「マオウ様。本当に貴方と言う御方は……」


 まあまあ、昔の事だから水に流してよ。

 でさ、その儀式ってのがまた未熟でね。そういう儀式をやってると性悪な悪魔が寄ってくるんだよ。知識も腕も碌にない奴がここにいますよって叫んでるようなものだから。

 だから注意喚起も含めてその世界に行ったら、なんかやけに小綺麗で文明的な部屋に召喚されてさ。しかも子供が儀式やってるもんだから驚いたよね。


「その時、魔法陣から灰色のカッコいい狼が現れてシビれましたね」


「何故狼の姿を取ったんですかマオウ様」


 僕の名前ロキトゥスでしょ。ロキにちなんでさ。カッコいいだろう?

 

「あー……はい」


 超バッチリキマってこれぞ大悪魔だよねという感じの召喚のされ方が出来たから僕的には大満足だったよ。

 まあそれで、こんな儀式やってたらいかんぞって彼に注意しつつも一応悪魔としてやってきたから願い事を聞いたんだよね。

 そしたら志望校に合格したいっていうのと、快く思わない奴を受験で落としてほしいという願いがあってね。


「嫌いな奴が居たんですよ本当に。落ちて絶望する姿が見たかったんですよ」


 よっぽどその時追い詰められていたんだねえ。

 ま、その願い自体は軽く叶えられたから、あとは対価を要求しようと思ったんだ。


「その時、ボクが掛けていたポータブルラジオから深夜ラジオが始まりまして」


 まずそのラジオとかいう変なモノから音声が発された事に僕は驚いたよね。


「何々? この変な物体はなに? みたいなマオウさんの好奇に満ちた瞳、本当に可愛らしかったですね」


 それで聞いてみたらさ、番組も超面白くてさ。一気にラジオの虜になったよね。

 これ対価でいいやっていって貰った。


「それがマオウ様のDJライフの始まりだったんですね」


 そういえばハッシー君の部屋にはパソコン? とやらがあってそれでインターネットとかいう面白そうなものも見れたらしいけど、なんでこの時は電源入れてなかったの?


「ネットやると動画とか見ちゃって集中できないんで……。ラジオなら音声だけですしあまり熱中もしませんからね」


 僕は凄い熱中したけどなー。ラジオ。


「言ったら悪いですけどこの世界、刺激になるもの少ないですからね。ボクらの世界が多すぎるともいうんですが」


 ふむ、つまりは君の世界には魅力的なコンテンツがまだまだあると言う事だね。実に興味深い。


「ああ、帰りたいな……。インターネットやりたい。動画見たい。ラーメン食べたい……。でも魔王を倒さないと帰れない」


 お、ホームシックだ。


「なまじボクらがこの世界に来ちゃったもんだから、期待値爆上がりなんですよねー。でも現状倒せる気がしないし。マオウさん、ここだけの話僕に倒された事にしませんかね?」


「それは無理な話ですよハッシーさん」


 いや、いい方法を思いついた。


「なんですか!?」


 僕と勇者君の戦いの果てに時空に歪みが生まれて、そこに吸い込まれて封印されたって事にでもすればいい。


「でもそうしたら二人はこの世界から消えなくてはいけないですが」


 うむ、そこでだ。

 僕がハッシー君の世界に行けばいいんだ。そしてハッシー君は自分の世界に帰る。

 どうだい。これぞWin-Winの関係ってやつだよ。


「完璧ですね」


「マオウ様とハッシーさんはそれでいいかもしれませんが、残された我々はどうすればいいのですか? 魔王封印と言う事で勢いに乗った人間達が攻め込んでくるかもしれません」


 僕が居なくなったら攻めてくる理由なんてないんじゃないかな。


「それはお気楽すぎますね。人間の欲と恐れはどこまでも限りないのですよ」


 まあ五将軍も居るし、いざとなれば父さんもいるしね。一時的に父さんに魔王の座に返り咲いてもらってもいいさ。それにずっとあっちの世界に居る気も無いよ。

 あくまで封印の建前だからね。三年くらいしたらこっちに帰ってくるよ。


「三年なら、なんとか人間どもと休戦協定でも結んでおいて時間稼ぎでもすれば良いですかね」


 それに連絡用の水晶玉も持っていくし、何か重大な事があったらそっちに戻るから平気平気、大丈夫。安心してよ。


「それならまあ……」


「でもマオウさん。どうやって僕の世界に行くんですか?」


 君は本当にニブいな。さっき僕は空間を歪ませてCDを取ってきただろ?


「ああ、アレですか! って時空転移の魔術使えるんですか?」


「時空転移、マオウ様の十八番ですからね」


 攻撃魔法より実は得意です。

 それはさておき、流石に特定の時空を指定して人間と僕を飛ばすっていうのは、如何に魔王の僕と言えども難しいものがある。

 だから行くんだよ。


「何処に?」


 時空の歪みがある場所にさ。

 元々歪んでいる場所なら、歪みを作る為に力を使わなくてもいいからね。あとはそこから四次元的空間に行って、数多ある平行世界の中から君の元いた世界を見つけ出せばいい。何、僕にかかればその程度朝飯前だよ。


「じゃあボクは、本当に元の世界に戻れるんですね!?」


 この魔王が保証しよう。


「じゃ、じゃあ早く行きましょうよ!」


 まあ落ち着きなよ。

 まだ番組を〆てないじゃないか。


「ではマオウ様、時間もちょうどよいですので最後のコールをお願いします」


 うむ。

 というわけでリスナーの皆さん、私マオウは新たな世界へ旅立ちますが、必ず帰って来たらこの世界をよりよくするために貢献する事を更に誓います。

 それでは今週のDJマオウのデッドオブナイトラジオも間もなく終わりの時間を迎えます。今日も長時間お聞きいただきありがとうございました。

 DJは時の流れに身を任せる者、マオウでした!


 SEE YOU NEXT TIME! BYE BYE!

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