オープニングトーク

 気高き王、バアル=ゼブルプレゼンツ!!


 DJマオウ!


「と、助手ユミルの」


 草木も眠る丑三つ時にお送りするラジオ番組!

 デッドオブナイトラジオ!


(なんかこう、いい感じの金管楽器の演奏によるBGMが流される)




 そういう訳でついに66回目と相成りました。

 6という数字といえば、我々魔物や悪魔的な存在で言えば節目の回数だと思わないユミルさん。


「やはり、エクソシストのダミアン的なものをお考えで?」


 そう、悪魔の数字。人間達には不吉の象徴たる数字、666。

 我々の番組も666回目まで続ける事を目標に頑張りたいなって思っているんだけどもね。


「週に1、2回程度のラジオ放送なのに随分悠長な感覚じゃないですかマオウ様? あと600回をこなすまでに何年掛かると思ってるんですか? 1年はおよそ52週間です。それで600を割ると大体12年となります。もっと放送する回数を増やさなくてはどうしようもないですよ」


 ぐっ……わざわざ計算までどうもありがとうございます。

 確かに、もっと放送回数は増やしたいなと考えているんだけどなー。


「スタッフが足りません。私ユミルの他にはディレクターの宵闇の伯爵、構成作家のストーンゴーレム、それにADのアーマーファイターくらいしかいません。プロデュースと編成、広報はマオウ様が兼ねているとはいえ、この人数では週に二回の放送が限度です」


 そうすると、まずはスタッフを更に増員する事が必要なのかなぁ。


「そうですね。まずマオウ様の秘書である私をパーソナリティとして使うのではなく、専属のパーソナリティをきちんと雇うべきです」


 それは重々承知しているんだけどね……。

 物怖じせず、頭の回転が速くてトラブルにも即座に対応できる人材、中々居ないのよ。一人は喋る事は出来るんだけど、僕と一緒にやると居酒屋トークになっちゃって進行がぐだぐだになっちゃうんだよね。

 あとは良いネタを考えてくれるんだけど、引っ込み思案で恥ずかしがり屋で、喋らないというかそもそも喋る口がないというかね……。

 こう、ラジオに適した人材が中々見つからないのよ。他の連中はそもそもラジオってなんだよ? みたいな感じでさ。そんなわけのわからんものに協力はできないとか言いだしてさ。僕、仮にも大魔王なんだよ。大魔王のやる事に反対するってどういう事だい全く。


「新しい事をやると大抵は理解できずに反対されるものですよ、マオウ様。貴方は革新的な事をやっている、それは間違いありません。私が保証します」


 ありがとうユミルさん。やっぱり君はいい人だ。


「それほどでも。しかしマオウ様が私を伴侶にしたいというのならやぶさかではございませんが」


 えー、ユミルさんが何を言ってるのかよくわからないなハハハ。


「いつでも待ってますよ」


 はい、とりあえずそれはまた後に話し合いましょう。

 それで、今はオープニングトークの時間なんですけども、何を話そうかなと必死に頭を回転させてるんだけど、あーだめだ。

 魔王の仕事もわりとルーチンワークな事が多くてね、あんまりイレギュラーな出来事がここ最近起きないんだよね。


「ラジオ開始前にオークジェネラルをクビにしたばかりじゃないですかマオウ様」


 ああ、そうだったそうだった。いや聞いてくださいよユミルさん。


「私ではなく、リスナーの皆さんに向けてお話ししてください」


 ああ、すいません。

 いやね、彼自身は本当は使える男なのよ。純粋なオークじゃないからか、知能が通常のオークと比較してめちゃくちゃ高いし。あんなに頭のいい奴は初めて見た。びっくりしたもの。

 でもさ、自信満々に言った事がまるでできませんでしたって、そりゃ心象最悪だよね? 百歩譲ってそこを目をつぶったとしてもだ、部下をほとんど失うってのはこれはもダメよ。魔王軍に損害出しちゃってるんだもの。

 あの時、オーク何人やられちゃったっけ?


「推定ですが2000人ほどはやられてしまったかと」


 そういうわけよ。

 それでも今までの功績なんかを鑑みて、彼は処分せずに生かしているわけね。

 ま、それでも一兵卒からやり直すハメになったから、相当彼はショックを受けてるか憤ってるかのどちらかだと思うけど、彼ならきっとまた這い上がって来てくれる。

 僕はそこに期待しているんだ。


「そうですね。彼の立てた実績自体は目を見張るものがあります。人間達の集落や町を落とした数は数十に上り、損耗もかなり少なかった。まあその時は扱う部隊数もそこまで多くなかったというのもあるのですが」


 今回はじめて多くの部隊を率いたわけだが、上手く行かなかった。

 オーク達は少人数ならなんとかまとめられるが、多人数ともなるとどうしても統制から外れて好き勝手をする連中が出てくる。

 元々知能が低いから仕方がないのだが、そこを放置したままにしたのは良くなかった。ゆえに今回の事態を招いたわけだ。

 上手く行かない事は誰にでもある。彼には責任を取ってもらう形になってしまったが、致し方ない事だ。次こそは頑張ってもらいたいね。


「そうですね」


 ただ、次も同じような失敗を繰り返す場合は……。


「その時は魔王軍からお払い箱となるでしょう」


 そういう事だ。申し訳ないが、わが軍には無能を雇っておくほどのリソースはないからな。もちろん我らも失敗を繰り返してほしくないから、それなりの対策はするつもりだが。無為無策に陥るほどばかばかしい事はないしな。


「リソースで思い出したのですがマオウ様。ここ最近、下級魔族兵の数が報告よりもどうも少ないのです。数が合いません」


 何、それは本当か?


「ええ。帳簿上の数と実際の数を比較して二割ほど実数が少ないです」


 また、あの親父か……。

 

「おそらく、また、ですね」


 本当に面倒くさいなあの親父は!

 ちょっとリスナーの皆にも聞いてほしいんだけど、まぁウチの親父、前に魔王やってたアゼルっていうのが居るんだけどさ、これがもう戦闘狂というか、人間達に対して未だに恨みを募らせているというかね。

 いつも勝手に部隊から人員を引き抜いて、自分の部隊を勝手に作って地上に攻めようとしてるんだよ!

 もちろんそんな事したらさ、その引き抜かれた部隊の人員からも連絡が来るし、今回みたいになんか数合わないんだけど、みたいな報告も来るよね? なんでそこまで頭回んないかな。いやそういう細かい事考えるタマじゃなかった。


「前王アゼル様はとにかく地上攻めたがりマンなんですね」


 ユミルさんなんだいその言い方は。

 まあともかく、前の王とはいえ父さんにも忠誠を誓う魔族は居るんだよ。

 だからそれを使えっつってんのに、虎の子の部隊だから嫌だつって僕の軍団を使おうとする。ホントにもうやめてほしい。それってワガママでしょ?

 やるなら自分の責任の元に、私兵を使って勝手にやってほしい。

 僕たちを巻き込まないでくれ、頼むから。


「でもマオウさま。アゼル様が地上に侵攻すると、地上の人間達はそれこそ魔族たちが本格的に侵攻してきたと思ってしまうのでは」


 そこも問題なんだよね……はー(クソデカため息)

 そもそもね、僕は戦い自体が面倒で嫌いなんだよね。物事はなるべく平和的に進めたいなと思ってる方なんだけど。


「でも、一応は魔王だからそういう事もしないといけない」


 ジレンマってやつだねえ。

 全く、本当に僕の立場は思い通りに物事を動かせない。

 悔しいな。

 だからせめてもの抵抗ってわけでもないんだけど、こうやってラジオなるものをはじめたんだけどね。自分が全く自由にできる物、時間を作りたくて。

 今のところ、試みは成功してると言ってもいいかな。


「それで、アゼル様の事はどうしましょうか」


 あまりにも僕を無視して好き勝手にやるようなら、色々考えなくちゃいけないなと思うんだけど……。

 あんなのでも、僕の父親だから殺すとかはしたくないんだよね。元々は神らしいから、殺す事自体が大変だし難しいんだけど。そんな事したら僕と父さんだけで裏世界の全面戦争になって下手したらこの世界が灰になりかねない。

 僕の望む所じゃないんだ、それは。

 それにしても、今はこの裏世界を統治してるのは僕なんだよね。

 前の王様はおとなしくしてもらいたいもんだな。

 とりあえず、これが終わったらちょっと話し合いにでも行くよ。


「それが良いでしょうね。それと一つ気になったんですが」


 うん、なにかな?

 

「マオウ様はあまり戦いが好きではないとのことですが、何故です? 大体の魔族は好戦的で私も例外ではないので、マオウ様の感性にはかなり違和感を覚えます。私は秘書ですのでマオウ様の意思に沿うのが使命ですから、逆らいはしませんが」


 うーん。何故だろうね。

 それは全く、論理的に説明できることじゃない。あえて言うとすれば、好みの問題になると思うけど。


「好み、ですか」


 そう。魔族が好戦的であるように、僕は魔王ながら戦いが好きではない。

 戦いは、よほど上手くやらなければ勝っても負けてもお互いに傷跡、恨みを残す。

 片一方を完全に滅ぼす事が出来ればいいけど、大抵はそうならないからね。


「マオウ様なら、すぐにでも人間達を排除して地上だって思いのままに支配できるはずですよ」


 良いんだよ。

 何の因果か僕は魔王として存在してるけど、その力をどう使うかは僕の意思で決める。誰にも縛られるものではない。たとえ父さん相手だろうともね。


「何時でもご命令下されば、私が陣頭指揮を執って地上を制圧してみせますが」


 ユミルさんは、僕の秘書や魔王城の運営・管理をやってくれればそれで良いの。

 ……そういえば魔王城で思い出したけど、最近勇者全然来ないよね。

 

「というか、来れてないみたいですね」


 時々冒険者たちの様子をモニターしてるんだけど、大体レベル20にもならずに表世界の魔物にやられてるのばっかりだね。大抵、そういう冒険者たちは大口を叩くけど全く実力が伴ってない。ま、その方が僕の手を煩わせなくて済んで楽だけどさ。

 近々、勇者たちがこっちに侵攻してくるって噂を聞いたから魔王城の設備を新調して、魔物の数も増やしたんだけど、これじゃ予算の無駄遣いだ。


「……マオウ様。どうやってその侵攻計画とやらを知ったのです?」


 うん? 簡単だよ。人間に変装して城に忍び込んで話を聞くだけ。

 僕くらいにもなれば、魔族や魔物特有の匂いや気配を隠すのも容易だし、話を聞くには商人の姿になれば誰も怪しまない。何より、地上の人間、エルフ、ドワーフ達の様々な事が知れる。

 全く良いアイデアだと思わないか?


「そうですね。それをマオウ様がやっていなければ、ですが」


 うっ、ユミルさんの視線がいやに冷たい……。


「時々どこにも居ないと思ったら、そういう事でしたか。ふうん」


 いやいやいや、ちょっと待って待って。こっちに詰め寄ろうとしないで。まだ放送中だから。


「マオウ様は自分の立場の自覚が薄すぎます。自分で魔王の重圧がどうのこうのと言ってる割には、どうもその辺りがまだ足りませんね。貴方はこの魔王軍の総大将なのですよ? 万が一にも人間達に変装がバレたらどうするつもりだったんですか」


 眼が怖すぎる。

 万が一も何もないですよ。

 僕の変装と隠密のスキルをユミルさんは知ってるよね?

 これまで誰にも見破られた事ないし、気配察知に優れるエルフやハーフフットあたりにも悟られてないから、大丈夫だから!

 

「たとえ誰にも見破られない自信があるにしても、控えてください。軽率に貴方に動かれると、私も他の部下も困るんです。万が一が無くても、億に一つでも兆に一つでも可能性があってはなりません。マオウ様がいなくなったら、私達はどうすればいいんですか? 責任の重さを、もう少し考えてください」


 まことに申し訳ない……。


「本当に気を付けてくださいね。あまり私もこんな事は言いたくないんですよ」


 気を付けます。

 ……おっと? そろそろ曲紹介?

 はいはい、わかりました。では紹介しましょう。

 音楽好きのレッサーデーモン達が組んだ4匹組のバンド、HELLMASTERの「CHAOS」です。では、どうぞ!


(メタル調の激しい音楽が流れ始める――)

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