第48話

「英ちゃん、時計は!」

 僕は泥だらけのまま言った。英ちゃんはゴシゴシと時計をこすった。

 「ああ、あっ!動いてる!4時52分。しかも日付もオレたちがこの中に入った日だし!」

 「マジで?」

 僕は信じられなかった。ここではほとんど時間が経っていなかったんだ。

 「うおー!」

 英ちゃんが大声で叫んだ。

 「やった、やったー!帰ってきたぞォー」

 僕も大声で喜んだ。

 「わあっ!やったね!カッコ!」

 「うん!ボクたちの団地だよ。ほら、車も走ってるよ」

 カッコに言われて振り向くと、田んぼの前の道は車が何台も通っていた。学校帰りの女子中学生が2人歩いている。久しぶりに他の人間を見た僕らは、思わず

 「おーい!おーい!」 

 と女子中学生に呼びかけた。泥だらけの小学生3人に突然呼ばれた中学生たちは不思議そうな顔をしていたが、気味悪がって走っていった。

 「なんだか夢を見ていたみたいだね」

 田んぼのあぜ道から道路に向かう途中、カッコがぽつんと言った。

 「ううん、絶対夢なんかじゃない。だって、ほら、これ見て」

 英ちゃんはこめかみとひざの傷を見せた。最後に転んだ時の傷だ。でも、その傷もいずれ消える。

 「そうだよ。僕らは神隠しにあって、あの街に行った。そしてサオリに会った。何一つ証拠はないけどね。きっと誰も信じてくれないだろうけど、僕らだけは知っている」

 僕がそう言った時、カッコのお腹がぐぅーと鳴った。

 「お腹減ったよ」

 「家に帰ろう。本当に帰れたのかは、家に着くまでわからないよ」

 僕は2人に言った。2人とも深くうなずいた。

 

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