第40話

 その夜、そのまま僕らは初めて来た日のように無印良品で寝た。

 英ちゃんがこの店の裏側にあるモール全体の照明のスイッチを切ると、とたんに真っ暗になった。明かりは通路の下側で緑色に光る非常灯だけだ。ここでこうして寝るのも最後にしたい。ベッドの足元には鎖や、懐中電灯、ローラーブレードが用意してあった。もはや自転車だと通れない場所があるほど、この街は崩れかけていた。僕らは起きた時にすぐ行動できるように、そしておまじないのようなつもりで来た時と同じ服で寝床に入った。英ちゃんは久しぶりにあの時間がわからないデジタル時計を左腕に巻いた。


 僕はなかなか寝付けなかった。明日帰れるだろうか。うまくハンドルは止まってくれるだろうか。土管を戻れば本当に僕らの団地へ帰れるのだろうか。サオリは?僕はサオリと一緒に同じ5年3組で授業を受けている様子を想像してみた。

 ――きっとサオリは目立つだろう。頭もいいし、顔もかわいいからすぐに人気者になるかもな・・・。そうしたら、僕たちとは口もきいてくれないかもしれない。まさか。サオリはそんな子じゃない。そうだ!コンクールを見に来てもらおう。サオリが見ていてくれれば、僕はきっと『月光』を弾きこなせる。明日、帰ったら話してみよう・・・

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