第31話

 さすがに派手な花火も飽きて、最後はみんなでしゃがんで線香花火をすることにした。ところがその時に、英ちゃんはふざけてひと束全部に火をつけたんだ。すると、サオリはそれを見て悲しそうな顔をして黙ってしまった。英ちゃんはその様子を見て、なんとなく察したのか

 「あークショババ!クショババ!」

 と言ってすぐにそれを放り投げた。そしてその場をごまかそうとして機関銃の形をした花火に火をつけ、カッコに向けた。カッコは必死に逃げながら叫ぶ。英ちゃんはそのあとを追いかけていく。

 「英ちゃん!やーめーろーよー!」

 「サオリ、これ知ってる?」

 僕はその騒ぎを無視して、ヘビ花火を取り出した。

 「なに、これ」

 「ヘビ花火だよ。僕、これ初めて見たときはびっくりしたよ」

 「どうして?」

 「見ればわかるよ。ほら」

 僕はその丸くて黒い磁石みたいなカタマリに火をつけた。とたんに炭の棒がぐりぐりとそのカタマリから伸びて、まるでヘビのようにのたうちまわった。まさにヘビ花火だ。

 「わーおもしろーい!すごいね、これ。光らないのに、花火なんだね」

 どうやらサオリの機嫌が直ったようなので僕は安心した。

 三個目のヘビ花火が終わると英ちゃんとカッコも戻ってきた。

 「もう、英ちゃん、人に向けるのやめろよな!」

 カッコは涙目になっている。

 「まあまあ、カッコ、怒るなよ。最後に線香花火やろう」

 英ちゃんは、今度は一本だけ取り出して火をつけた。そこでほかのみんなも一本ずつ手に持ってそれぞれ点火する。

 ・・・ジジジ・・・ジジジ・・・

 みんな黙って線香花火を見つめていた。

 薄いオレンジ色の光がみんなの顔を照らす。僕はチラリとサオリの顔を見た。やっぱりなんだか悲しそうな顔をしていた。それは、線香花火のせいだけじゃない気がした。

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