第15話 アラクネ・ミッドダーク

 体中が痛い。


 裂傷。

 打撲。

 骨は折れていないようだけれど、ひびでも入ったのだろうか。

 息をするだけで肺が強く痛むのを僕は感じた。


「女神さま、これって今、どういう状況ですか」


『うむむっ、そうですね――この状況について一言で説明するならば!! ピンチ、大ピンチ、クライマックス級の大アクシデントです!!』


 僕の担当女神さまは、担当だというのに。

 少しも僕のことを心配する風もなく、そんな軽口をたたいた。


 なんだいピンチって、と、体をよじらせてみる。

 だが、思うように動かない。


 もしかして、重症なのだろうかなんて思ってみたが、すぐにそれがどうしてかは把握できた。


 洞窟の中に満ちているヒカリゴケ――この世界における、ダンジョン内でのスタンダードな照明材――により、思いのほか辺りは明るい。

 そのヒカリゴケが出す、優しい光に照らせれて、白い糸が、僕の体を拘束していることに気がついたからだ。


 これは、蜘蛛の糸。


「……ナンノ、ヨウダ、ニンゲン。ワタシノ、スミカヲ、ドウスル、ツモリダ」


 反響する声に僕はその方向に首を向けた。

 蜘蛛の糸で縛り上げられている以外は、思いのほか軽傷で済んでいるらしい。


 すんなりと動いた首の先に居たのは、パーマのかかった長い紅髪をざんざんばらばらと、女幽霊のように垂らしたモノが居た。


 しかしその頭は洞窟の天井――三メートルはあるだろうか――という所にある。

 全身を眺めればそれが異様な存在なのは、チートスキル【モンスターアナライズ】う前から分かった。


「スキル発動!! 【モンスターアナライズ】!!」


 流れ込んでくる情報は、僕の判断が間違いではないことを告げていた。


 アラクネ。

 上半身が人間の女、下半身が大きな蜘蛛という、定番モンスターである。

 しかし、どうやらこの世界のアラクネは、結構醜悪な姿をしているようだ。


 ぼさぼさの紅髪の不気味さもさることながら、上半身も、まるでレザージャケットのように、黒い甲殻で覆われている。垂れ下がる長い前髪から覗くことができる眼は複眼で、人間との意思疎通ができないことが嫌でも思い知らされる。


 そこに加えて――。


「持っているスキルがえぐい。【初級トラップ・ダンジョン構築】【危機回避】【テンプテーション(誘惑)】。それに【ジャイアントキリング】」


『どれも後天的に身に着けたスキルですね。このアラクネ、相当な修羅場を潜ってますよ。それも良人くんみたいな、ラブでコメコメしたようなのじゃなくて、本気マジものの生死をかけた修羅場って奴を』


 わざわざ言われなくてもそれは僕にも想像がついた。


 チートスキルこそ持っていないが、このアラクネ、身に着けているスキルだけ取ってみても、相当に強い。


 ちなみに、頭の中に流れ込んできた【モンスターアナライズ】による基本情報によると、アラクネは数あるモンスターの中でも、中の上に属する戦闘力を持っているのだという。


人間ヒューマン。私は怒っているぞ。故郷の森を襲われ、姉妹の死体に潜り込んで息を殺し、姉妹を殺した人間ヒューマン共を殺めて逃げ出した。そうして、荒野を飢え死にしそうになりながら、ようやくたどり着いたこの地に、このねぐらに、お前はいったい何をしに来た」


 アナライズのおかげで、面白いくらいにアラクネの言っていることが分かる。

 なるほど、この恨み節の一端からも、彼女の潜って来た修羅場が想像できた。


 正直、おしっこちびっちゃいそうなくらいおっかない。

 僕、【モンスターアナライズ】以外の、冒険に必要なスキルって持ち合わせてないんだけれど、これと対峙しなくちゃいけないのかな。


『今、ようやくわかりました』


「どうしたんですか女神さま」


『長いことずっと考えていたんです。私はその女神に突き付けられた、ある種の運命的な命題について……そう、具体的には二年ほど前から!!』


「女神の寿命的にはたいしたことない時間じゃないですか。で、いったい何に悩んでいたんです?」


 なんとなくオチは読めたけど、僕はあえて担当女神の言葉を待ってみた。

 すぅ、と、慎重に息を吸い込んで、彼女はその言葉を紡ぐ。


 僕も結構好きで見ていた、アニメの名前を。


『ダンジョンに出会いを期待するのは間違いでしょうか!! お答えしましょう、その答えは間違いです!!』


「出会いっていうか、遭遇エンカウントですよね、これって!?」


 思わず、ツッコまずにはいられなかった。

 今それ要る話ではないでしょう。

 ほんと、この駄女神は。担当転生者がピンチだって言うのに。


 まぁ、それはさておき。


 アラクネは、どうやら僕を捕縛しても尚、警戒しているようだった。

 どうやら自分を討伐しにやってきた冒険者か何かだと思っているのだろう。

 その慎重さは、ある意味、なんの抵抗手段も持たない僕にはありがたかった。


 ここで変に侮られて、さっさと処分されていたら――。


『おぉ良人よ。転生したのにまた死んでしまうとは情けない』


「ちなみにこの世界って、教会システムあるんです?」


『ないですね。エニスクから許可が下りませんでしたから。てへりてへりこ』


 なんにせよ、妙に警戒してくれたおかげで、命をつなぐことができたのは幸いだ。


 姉弟きょうだい、あるいはソラウさんが、きっと何か、いい策を考えてくれていることだろう。

 まずはそれを期待しよう。


『いけませんよ、良人くん。せっかく異世界に転生したっていうのに、他人任せじゃダメダメ。もっとこう、チート能力で無双して、俺TUEEEってしないと、爽快感が生まれないですのよ?』


「このチート能力でどう無双しろっていうんですか。僕、どう考えても、陰から支える系の主人公ですって」


『まぁ、そういうのも最近の流行りではありますね』


「でしょう?」


『……だが許さぬ!! 男ならば、主人公であるならば、そこは燃え尽きるほどヒート、滾るほどにハート、熱く戦ってこそWEB小説の主人公!!』


「ライトノベルかもしれないじゃないですか!! っていうか、なんでもかんでも、そういう風に、メタ的な発言に持っていくのやめてください!! あと、パロディも版権問題がややこしくなるからほどほどに!!」


『ぶぅぶぅ!!』


「なにをさっきからごちゃごちゃと言っている!! 貴様、さては魔法を使おうとしているな!!」


 アラクネが距離を取って身構えていた。

 いけない、女神と戯れていた、余計に警戒をされてしまったようだ。


 命を狙われない程度に警戒されるのはいい。

 けれど、危険に思われて処分しようと警戒されては元も子もない。


 しばらく静かにしておいてください。

 そう女神に頼むと、僕はアラクネの視線に集中することにした。


『えーんやどっと、えーんやどっと、えーんやどっと♪ えーん、えーん、えんやどっと♪ 木を切るならよー、こーいうふーうにぃー♪』


 超有名な演歌を歌いだすアネモネさん。

 だから、静かにしてくれと、言っているではないか。


 そうだよね、言って聞くような女神じゃないよね、この駄女神さま。

 こぶしを利かして熱唱しだした彼女を強靭な精神で無視する。

 僕はアラクネに対して、まずは対話を試みてみた。


「すまない。君がここに棲んでいることを、僕は知らなかったんだ。勝手に君の棲み処に上がり込んだことは素直に謝るよ」


「!?」


「驚いたかい。僕はちょっと特殊な能力を持っていてね、君の言葉が分かるんだ」


「なんだと? そんな人間と出会うのは始めてだ……」


 アラクネは困惑しているようだった。


 そうだろうね。

 なんといっても、バックグラウンドではた迷惑に演歌を熱唱している女神さまから、特別にいただいたチートスキルだから。きっと持ってる人間なんて、この世に何人もそういないだろうさ。


 まぁ、それ以外はなにも持っていない、ただのパンピーなんだけれどね。

 村人Aで異世界無双とか、なんでもない能力で異世界無双とか、なんかそういうのが流行っている昨今ですが、僕にはこれしかありません。


 だって欲しかったから仕方ないじゃない。

 モンスターと話してみたかったんだもの。


 今この状況だって、まぁ、ピンチということには変わりないけれど、実際受け止められない内容ではないんだ。


 そう、もともと僕はこのスキルで、モンスターと意思疎通がしたかったのだ。

 それを今更ながらに思い出した。


 困惑したアラクネは、どうやら自分から話しかけてくる気はないらしい。

 ならば、このチートスキルを、取得した本来の目的のとおりに、使ってみるのもいいかもしれない。


「アラクネさん。質問してもいいですか?」


「なんだと!! 貴様、囚われの身の分際で!!」


「おっと。僕のチートスキルが、これだけだとでも思っているんですか?」


 警戒して、また、アラクネがちょっと身を後ろに退いた。

 でかい図体をして随分と臆病なようだ。


 僕をいきなり洞窟の中へと引きずり込んだ大胆さと、警戒して手を出そうとしない慎重さ。

 いったいどちらが彼女の本性なのだろうか、少しだけ分からなくなった。


 まぁ、それはともかくとして。

 せっかく質問を許可してくれたようだし、いろいろと聞いてみるとしよう。


「あの、失礼ですけど、お名前は?」


「……ない」


「へぇ。アラクネっていうのは、そういう文化なんですか?」


「力のあるアラクネは違う。私は群れに居た時は、小さくて弱かった。だから名前を付けられることなどなかった」


「……苦労されてるんですね」


 グロテスクな複眼をしているため、その表情を読み取るのは難しい。

 だが、少しだけうれしそうな顔をしているように僕には見えた。

 自分の苦労を分かって貰えたのが彼女の琴線に触れたようだ。


 なんだかな。

 こういうのって、いつだったかにもした気がするな。

 いつのことだったか、すっかりと思い出すことはできないけれど。


「話が分かるじゃないか、人間」


「僕もさんざん、こっちの世界に来て苦労しましたから。生きるの大変ですよね」


「あぁ、その通りだ。だが今は、チビに生まれてよかったと思っている」


「どうしてですか?」


 再びその顔に憎悪が滲み出る。

 どうして、と、それを人間お前が言うかという、そういう感情が口元に表れていた。


 グロテスクな分だけ、そういう感情が出やすいのかもしれない。

 アラクネ。うぅん、結構僕がいた元の世界では、人気のあるモンスターだけれど、こっちの世界ではそうでもないのかもしれないなぁ。


 単に、彼女の種が特別という可能性も否定できないけれど。


「お前たち人間が、私たちの棲んでいた森を襲ったからさ」


「なんだか、質問の答えにしては曖昧な気がしますが?」


「私は小さかったおかげで、奴らの目につかなかった。そうして、姉たちの亡骸の中に身を潜めることで、なんとか起死回生の時を待つことができた」


「なるほど」


 なんとなく、最初にぶつけられた恨み言と合わせることで、話の筋が見えた。


 つまり彼女は、故郷の森を人間たちの都合によって襲われた。

 それを、機転を利かせて生き延びたと、そういう訳だ。


 しかし、姉たちの死骸に隠れ蓑にするなんて――。


「辛かっただろうね」


「うん?」


「だって、生きるためとはいえ、お姉さんたちの亡骸を隠れ蓑にしたんでしょう? そんなの、どう考えたって辛い出来事じゃないか」


 高ぶったアラクネの気を静めるつもりで、僕は同情の言葉を彼女にかけた。

 つもりだった。


 だって、普通の人間の感性から言わせてもらえば、そんな状況、辛くないはずがないじゃないか。普通に、戦争映画のお涙頂戴なワンシーンである。


 それこそ、ちょっと気合を入れれば、涙だって出せるんじゃないか。

 自分でも思ったくらいだ。


 そんな悲劇のように、僕は彼女の身に起こったことを思っていた。


 しかし。

 アラクネから返って来た反応は、僕の想像と違っていた。

 それは邪悪な、どす黒い、漆黒の微笑み。


「辛いことなどない。むしろ嬉しかった」


「えっ?」


「いつも私のことを、チビ、グズ、と、罵っていじめていた姉たちが、人間たちの手により冷たくなっている。ざまぁみろ、と、私はその時思ったよ」


 本心からそう彼女は言っているようだった。


 聞くべきではなかった。

 僕は心の底からその質問をしたことを後悔した。


 モンスターと分かり合えるかもしれない。

 そう思って、僕はこのスキルを手に入れた。

 しかし、やはり、モンスターはモンスターなのだ。


 人間とはまるで価値観が違う――。


「それよりも辛かったのはその後だ。人間ヒューマン共の隙をついて逃げ出したはいいものの、何もない荒野を半月もさ迷い歩いて、ようやく私はこの森にたどり着いた。あの放浪の半月を、私は生涯忘れることはないだろう」


 道徳的な悲しみなど、彼らにとってはどうでもいい。


 突き付けられたのは圧倒的な個の悲しみ。

 それは生存に直結した世界で生きていることを考えれば、ある意味仕方のないことなのかもしれない。


 しかし、しかしだ。


 僕の体を走る震えは、どうやっても止まりそうもなかった。


 目の前に存在する

 それを知ってしまった時から、モンスターと相互理解ができるのではないか、なんていう甘っちょろい考えは、とっくに僕の頭から蒸発してしまっていた。


「ところで、人間ヒューマン。どうした、さっきから、震えが止まらないようだが」


「……ヒッ!!」


「どうやら、私の買い被りだったようだな。他にもスキルを持っていると言ったのはブラフか? でなければ、震えるより先に、私に攻撃を仕掛けているだろう?」


 どこまでも利己的で狡猾。


 このアラクネは決して臆病なのではない。

 慎重でそして抜け目がないのだ。


 だからこそ、人間たちの駆除の手を逃れて生き延びることができた。

 そして、こうして大きく生長することができた。


 そういうことなのだろう。


「ここは素晴らしい場所だ。涼を求めて、洞窟の入り口には、様々な動物が姿を現す。私はそれが現れるのを、この奥でじっと身を潜めて待つだけでいい」


「……まさか、鹿や猪が獲れなくなったのは、そのせい」


「おかげで、私は姉たちの誰よりも大きく、そして、母よりも強くなることができた!! あの惨劇を生き延びて、私は大きく成長したのだ!!」


 いつの間にか、アラクネの顔が僕の鼻先のすぐ近くまで寄っていた。


 もはや彼女に警戒の気持は微塵も感じれない。

 僕の体に絡みついている糸から感じ取った恐怖、そして、動揺を確認して、彼女はついに悟ったのだ。


 目の前に居る男は、自分の脅威とは成りえないと。

 警戒するに価しない、蜘蛛の糸に引っかかった哀れな獲物だと。


「しかし、人間がかかったのは初めてだぞ!! あの時は、殺して逃げるのが精々だったが、今回は――骨までしゃぶりつくす時間がありそうだ!!」


「……はたして、それは、どうかなぁ?」


「はったりか、よせ、もうそれは通じな……」


 その時、ダンジョンが揺れた。

 ぐらりぐらりと、視界が揺れて、僕とアラクネの間がみるみる離れていく。


 まるでそう、、そんな感じだ。


「何だ!? いったい何が起こっている!?」


「そういう力があるって、伝えておいただけだけれど、なんだよ、使――姉弟きょうだい!!」


 初級ダンジョン構築のスキルを持っているアラクネには分かるだろう。


 ダンジョンを作り変えることの難しさを。

 そして、自分の望むままに、目的のままにトラップを配置することの難しさを。


 初級から上級まではコモンスキルだ。

 努力して、知識をつけ、経験を詰めば身につけることができる。

 だからこそ、ダンジョン構築は方法論だという結論に至る。


 故に、信じられない。

 認められない。


 どれだけ無茶苦茶なことが現実として起こっているのかが。

 スキルの常識を逸脱した事象が起こっているということが。


 びっくりするだろう。

 これが、本当に正真正銘、分かりやすいチートスキルって奴なんだよ。


「助けに来たぜ、姉弟きょうだい!!」


「無茶苦茶だわ。まさか、スキルによって、無理やり、ダンジョンの構造自体を変形させてしまうなんて!! チートの一言で済ませられる能力じゃないわよこれ!!」


 いやいや、チートなんて、だいたいそんなものだよ。

 そんなスキルをブランシュはまだ二つも持っているのだけれどもね。


 聞こえたのはブランシュとソラウさんの声。

 自由な首だけを動かせば、来る時に見たよりも、随分と大きくなった洞窟の入口と、その前に仁王立ちしている『狂騒する金髪暴れ馬ゴールデン・ポニー』の姿が見えた。


 確かにブルってピンチにはなったけれども、最初から、口八丁でこの場を切り抜けられるとは思っていない。


 本命はこっちだ。


 僕はブランシュがそのチート能力で、のを待っていた。


 いや違うな。

 信じていた。

 だ。


 だってそうだろう。


「信じていたよ、姉弟きょうだい!!」


 僅かな時間だったけれど、この再会にはそんな言葉がよく似合う。

 そう思いませんか女神さま。


『可愛いよ、孫。とても可愛い♪ どうしてこんなに可愛いのか、哲学的に考えてしまう♪ あぁ、孫♪ 男の子でも、可愛い♪ 女の子でも、可愛い♪ 孫、孫、孫。お孫さんランドが開園してしまう~♪』


 ダメだ、演歌に熱中していて、まともに担当してくれない。

 仕方ないか、この女神のダメさ加減は今に始まった話でもないものな。


 とりあえずほっといて。

 そうだな、サクサクと、話しを進めようじゃないか。


「なんだ、これは、いったい、どうなっている!! 貴様、やはり妙な能力を!!」


「違うよ、君が本当に警戒しなくちゃいけないのはあっち」


 僕のとびっきり頼りになる、姉弟きょうだい

 ゴールデンドラゴンのブランシュの方だ。


 洞窟の入口から伸びる、強烈な日の光を浴びて、うぎゃぁ、と、叫ぶアラクネ。

 そんな彼女に、ふっと、ブランシュは一息で間合いを詰めた。

 そして、この世界で最強の生物ゴールデンドラゴンは、その拳を思いっきり、彼女の一番太い前足に向かって振りぬいたのだった。


 めきゃり、と、鈍い音が響く。

 同時にそれはいつぞやリンゴを彼女が踏みつぶした時のように、一瞬にして灰燼と化してしまったのだった。


 また、アラクネの絶叫が木霊する。


「てめぇか!! 俺の姉弟きょうだいに手を出しやがった馬鹿野郎は!!」


 その拳からは湯気のような、あるいはオーラのような、何かが揺らめいていた。

 間髪入れずに彼女は左手を繰り出すと、今度はアラクネの右前脚を破壊する。


 ラッシュ。

 ラッシュ。

 止まることなきゴールデンドラゴンのパンチ。


 そうして、八本あったアラクネの足を、すべて粉々に砕くと、とどめとばかりに彼女の腹を蹴り上げたのだった。


 声にならない、絶叫が洞窟を駆け巡った。

 それをバックミュージックに、黄金色のポニーテールを揺らし、ブランシュが笑ってみせた。


「俺の姉弟きょうだいにちょっかいを出す奴は、誰だろうが何だろうが許さねえ、この俺が許しちゃおかねえ。このブランシュさまが、全力全開全身全霊でぶっ潰してやる」


 流石だぜ姉弟きょうだい

 こんなにサイコーに熱くって力強いあねを持つことができて、出会うことができて、僕はこの世界に転生してよかったと思うよ。


 本当に。


『あ、今日から僕はドラゴンのヒモって、そういうタイトルはどうですかね!!』


「はいはい、もう、終わりましたから。大人しくしていてください、アネモネさん」

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