1-7:マモリ1

「というわけで、だ。改めて話を始めようか」

「それじゃあ……」

マモリは二人を交互に見る。ライチはいつもこうだ。気がつけば場の主導権を握っている。マモリのときもそうだった。わけも分からず初めての染戦をやらされて、こっちが話を聞きたがる状況を作りだす。


「それじゃあ、最初に教えてくれますか?僕が何を知るべきか、を」

「ほう!そうきたか!」

ライチは少々驚いたようだが、ミライは至って冷静に見える。付き合いの長いマモリは知っているが、こういうときのミライは、いや、こういうときこそミライは冷静になる。


「ふむ……。では、まずキミが知るべきことは2つだ。してはいけないことと、しなければならないことだ」

ライチは説明を続ける。

「してはいけないことは簡単だ。不用意に魔法を使ってはいけない。特に人前ではね」


「魔法がバレるとやっぱりまずいんですか?」

「それももちろんあるが、もっと重要な事がある。魔法を使いすぎると、キミはキミでなくなってしまう」

「どういうことですか?」


「魔法は一日に使える量が限られている。それは人によってまちまちだし、訓練すればその量も増えるけど、特に目覚めたばかりだと相当に少ない。で、使いすぎてその量を超えてしまうと、強烈な眠気に襲われて倒れてしまう。まあ、疲れて倒れるようなもんだと思っていいが、場所によっては倒れた時に打ち所が悪くて怪我とか……あとは死んだりとか、そういう良くないことが起きる。だが、問題はその後……」

ライチは一呼吸おき、いかにここからが大切だと言わんばかりの間をたっぷり作ってから、こう続けた。


「キミは、キミの魔力に体を奪われる。そうなると大変だ。他の魔法使いに助けてもらうまで、キミはキミでなくなってしまう。わかったかい?」

「はい」

「よろしい。では次だ。キミがしなければいけないことは、魔法の訓練だ」


「え?」

「たしかに、さっき俺は不用意に魔法を使ってはいけないといったが、それはあくまでこの世界でということだ。つまり……」

「夢の世界でなら大丈夫だと」


「その通りだ。もっと厳密に言うなら、キミの夢の世界で、だ。魔法使いは自分の夢の中で、会おうと思えばいつでも自分の魔力と合うことができる。そこで対話なり魔法のぶつけ合いなりして、魔法の感覚をつかむんだ」

「でも、魔法を使いすぎると魔力に乗っ取られるんじゃないですか?」


「良い質問だ。だが、自分の夢の世界で魔法を使う分には、その心配はない。現実世界で魔法を使う場合は、精神力みたいなものを外に出して魔法にする。でも、自分の夢の世界なら、精神力は外に漏れることはない。だから、いくら魔法を使っても自我は保てるわけだね。まあ、厳密には違うんだけど、わかりやすく言えばざっとこんな感じだよ」

「うーん……」


「ところでさ!」

二人の会話(というかほとんどライチの授業)を聞いていたマモリがしびれを切らした。難しい話はとにかく苦手なのだ。

「アタシも魔法使いだったんだよ!ミライはびっくりしないの?」


「いや、まあ、びっくりしたけど、それ以上のことが起きたっていうか……」

「まあいいわ!せっかくだから先輩魔法使いのアタシからも、一つ教えてあげる」

そう言うとマモリはテーブルの上のレモンを一つ手に取り、呪文を唱えた。


「”色素『抽出』球状凝縮”」

するとレモンから色が失せ、黄色いビー玉がマモリの手に現れた。

「一日に使える魔力は限られているっていったけど、こうやって他のものから魔力を取り出すことができるの。これを使えば、使える魔法の量が増えるってわけ」


「でも、魔力を取り出すってことは……」

「そう。だから」

マモリは白くなったレモンを一口かじった。かじられたレモンは中まで真っ白だ。


「失われた魔力の分だけ、その性質がなくなっちゃう。食べ物なんかはだいたい味がなくなっちゃうわけ」

さらにレモンを食べていく。

「それに、こういうの残しておくと色々とマズイから、食べたりして消さないといけないし、あんまり美味しくないし、慣れないうちはおすすめしないよ。ちょっと食べてみる?」


「い、いや、いいよ……」

「あっそう」

マモリは無味無臭のレモンをかじりながらライチの方を向く。

「で、アタシを呼んだ理由、ミライのことじゃないんでしょ?」


「ああ、そうそう、リッカという子についての件だね。ミライ君、だったか。彼にも関係ある話になりそうだ。これから一緒に相談しようか。時間、いいかいな?」

「はい。僕も知りたいことがありますから」

「結構だ。では、始めよう」

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