1-3:ライチO

空地 雷一(そらち らいち)は生まれついての魔法使いだ。表の顔は売れない画家で、路上で似顔絵を描いたりして売っている。絵を描くときに魔法は……まあ、使ったり使わなかったり(本当はあまりおおっぴらに使っちゃいけないんだけど)。


ミライが夢を見た翌日、いつもどおりライチは町の路上で絵を描いていた。

「似顔絵1枚1000円から、いかがです?……あー、いらない、さようで」

ライチがぼんやりしていると、一人の少女が目の前に現れた。

「あの」


「うぉわ!」

ライチは驚いて声を上げる。もちろん、いきなり出てきたわけじゃない。歩いて目の前に来たのに、ライチは声をかけられるまで気づけなかったのだ。

「似顔絵を、お願いできますか?」


「お、おう。喜んで」

似顔絵を書き始めたライチは、妙な違和感を感じていた。彼女からは、魔力を全く感じない。普通、どんなものにも多かれ少なかれ魔力はある。が、それを魔法として使えるのは魔法使いだけだ。魔力が無いとなれば、彼女も魔法使いで魔力を使い切ったのか、あるいは、最初から魔力がないか……そんなことがあるか?思わず手が止まりそうになる。


「あのー、なにか?私、変ですか?」

「いやいや!そんなこたぁないよ!きれいなお嬢さんに見とれてしまってね」

「ありがとう」

少女は笑顔を作ったが、その笑顔は、あまりにも作られたものだった。なんとか誤魔化そうとしたが、無理があったか?

「さ、ささっと描きましょうねー」


……ライチはこれ以上面倒なことにならないように祈りながら絵を書き上げた。

「はい、できあがり。ああ、お名前は?」

「リッカです。数字の六に草花の花で、六花」

「それじゃあ、はい、リッカさん」

自分のサインと六花の名前を書き、絵を渡す。


「どうも、ありがとう」

少女、リッカはお金を渡すといきなり消えた。

「おいこりゃ……」

ライチが周りを見渡す。行き交う人はだれも気がついていないようで、誰も騒いではいない。魔法、それも奇妙な、放っておいたら良くないことになりそうな魔法の予感がした。

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