第26話 ふえるラクタヴィージャちゃん

 ノイが作ったバリケードの外ではラクタヴィージャがひたすら内部に進入を試みてはバリケードに触れて消滅したり、カミナリに撃たれたりして勝手にどんどん死んでいっている。



「なんで愛してくれないの……あたしはノン君に愛されてなきゃ生けていけないのにィーッ!!」


 ズドォォオオオオオオンッ!! ノイがヒステリックになればなるほど、カミナリの激しさは勢いを増す。もはやどこぞのミュータントを思わせる程の超常現象だ。


 こうなるともう手がつけられない。ただでさえ一度やきもちで機嫌を損ねると聞く耳持たずでお手上げなのに、今となっては脳力に目覚めた上にリタの力で興奮状態に拍車がかかっている状態のこのノイの恐ろしさは、さっきのナーガどころの騒ぎでは無い。


 ……ってか俺に対して怒っているのはわかるが、実際俺は何もしてないし何もされてないんだからどうしようもないじゃないか……それ以上なんも言いようねえって。

それに凄く眠くなってきたぞ……アムの脳力が大分効いてきたようだ。


 クソ……俺がなんとかしないと……


「……せっかく来てくれたのになぁ……」


「なにゆってんの!? 人が真剣に話してるのに何寝ぼけてんのー!?」


 ピシャアアアアンッ!


「……大丈夫だから、だからもう行こうぜ……?」

 自分でももう何言ってるのか理解出来ていない。しかし俺は喋り続けていく。

「ああ、先に行くのか……わりい、迷惑ばかりかけて……俺のせいで」


「ん……ノン君?」


 俺は眠さの限界から大きくふらついた。前のめりに倒れそうになった俺を、ノイが抱きかかえる。


「ちょっと……ノン君!? 大丈夫?」


 俺を抱きかかえるノイを俺は強く抱きしめ返す。


「……伝わらなくて、ごめんな。ちゃんと、愛していたし、今だって凄く愛してる」


「ノン君……」


 ノイは俺の言葉を聞いて次第に落ち着きを取り戻し、バリケードは消え、カミナリもやんだ。俺は朦朧とした意識の中で、ただただほっとした。そしてそのまま横になり寝てしまった。



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 右下に見えていたカウンター表示はいつの間にか目標数値をオーバーし、文字が赤くなっていた。

 エラが俺ら二人に向かって声をかける。

「お疲れ様。ラクタヴィージャもいつの間にやら勝手に死んでくれてたみたいだね。」


「そうなんだぁ。エラ君ごめんね~、あたしって怒るといっつも周り見えなくなっちゃって……ヘヘッ」


「やきもちだって魅力の一つだと思うよ」


「そうなの? んふふ、じゃあ気にしない様にしよ!」


 ノブル君、ごめん今のは不可抗力みたいなものだよ。悪気はないんだ。――エラは頭の中でそう呟いた。


 すっかり束の間の休息気分でいた三人だが、エラが妙な気配を察知した。


「……上!?」


 見上げると一体のラクタヴィージャが両手を挙げて宙に浮かんでいた。その両手の上には物凄い量の呪詛で出来たエネルギー体が持ち上げられている。



「なんだ!? もうミッションは終わったんじゃないのか!?」

 あの呪詛の有り得ない程のパワー……まさか今まで死んだラクタヴィージャの全部だなんて言わないだろうな……。


「フフ……勘づいた所で、もうどうにもなりませんよ!! こんな茶番はもうおしまいです!! 全員死ぬがいい!!」



 駄目だ、あれほどのエネルギーをとっさに僕一人で抑える事は不可能だろう。かと言って逃げるにもノブル君は寝ているし……三人で逃げるには間に合わない。

 皆、僕がいながらこんなとこで……ごめ「ちょっと待った」


「――!?」

 突如聞こえてきた、その声がする方へエラは振り向いた……すると、そこにいたのはミッション1終了後にコンタクトを取ってきた男、『コーリ』だった。


 エラはビックリしたが、それどころじゃないとすぐさまラクダヴィージャに顔を向け直す。すると……

「何!?」


「あ……がっ……」


 ラクタヴィージャの体中に無数の風穴があいていた。ぽっかりと空いた穴からは出血も無く、まるで最初から空いていたかのようだ。


「なあんだよ、ドット抜けだなんて……出来の悪いゲームだなあ。なんてね、キシシ!!」

 コーリはそう言って、奇妙な笑い声を上げた。


 そのまま絶命し落下するラクタヴィージャ。呪詛で出来たエネルギー体の方はそのままファミコンゲームの様に点滅した後に消滅した。


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 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 なんとか絶対絶命のピンチを回避した三人。ノイはコーリに対して警戒の目を向ける。


 そのコーリという男が普通じゃないというのは一目瞭然だった。その男の『像』自体がテレビの砂嵐にまみれているようにザラザラとしたり、ファミコンゲームのドット絵のようになったりさらにそれがドット抜けしたりと落ち着かないのだ。普通の人にはとてもじゃないが思えない。


 重たい空気が流れる中、エラが沈黙を破った。

「さっきは助かったよ、ありがとう。君は確か……コーリ君と言ったね」


 コーリは怪訝そうな表情を見せた。

「ありがとうって……? ええと、何が……?」


 エラはキョトンとした。

「え、さっきピンチの時に助けてくれたじゃない。そのお礼だよ」


 コーリは少し考えた後に、

「あーああああ、そう言う事か! 僕があいつをやっつけた事で、君達が助かったってことね! なるほどなるほど、キシシ!!」


 エラはお得意の笑顔を見せてごまかしていたが、またキャラの濃い仲間が増えたという事に内心とまどっていた。


 コーリの目は次にノイの事を捉えた。

「そちらの可愛いお嬢さん! 僕の名前はコーリだよ、よろしくね。」


「よ、よろしく……」

あからさまに引くノイ。そこでエラが再度口を開く。


「君の脳力はなんだか凄く特殊なようだね、君の見た目もそうだけど……どういう脳力なんだい?」


 コーリはザラザラとしたりクリアになったりと解像度を変えながら少し考えて、口を開いた。

「うーんなんていったらいいんだろ? 細かい説明は省くけど、簡単に言うとパソコンで言う『バグ』と『コンピューターウイルス』って感じかな?

もともと発達障害ってやつなんだよ、僕。だから出来そこないで人の気持ちが分からない望まれない存在だから、第二ステージで生まれ変わった時にその障害が脳力ってやつになったみたい。

だからエラ君のような完璧な人間? ん、人間? ……まあいいや、その完璧さが僕には分からないから君の精神にも簡単に進入出来ちゃうし、さっきのお坊さんもバグらせて壊しちゃったんだ。キシシシ」



 おいおい。なんだかコイツはもしかしたらマズいヤツなんじゃないか。多少の不安が頭をよぎり、エラの額に一筋の汗が流れる。


「う~ん……なんだか賑やかだなあオイ」


 そんなやりとりをしていた所、ノブルが目を覚ました。


「あっ! ノン君おはよ~~~~!!」


 すかさずノイが抱きつく。


「うおっ! なんだよちょっと居眠りしてただけだろォ」


「ねぇノン君! あたしの事愛してる? ねぇちゃんと愛してる?」


「もうなんだよ起きたばっかだぞ~、どうしたんだよ」

「いいから~ちゃんと答えるのー」

 ノイ……可愛いぞ。と思いながらも、俺はぶっきらぼうに答える。

「オウ、愛してる愛してる」


 それを聞いてノイは満足そうに微笑んだ。

「へへ~。ありがとノン君! さっきも、すっごく嬉しかったよ、怒ってごめんね!」


 さっきって、ああ、俺寝ぼけちまった時かな、なんか言ったっけ? と、そんな風に考えていた、その時である――嬉しそうに微笑んでいるノイの顔面に、


 バギン!!

 という音と共に大きくヒビが入った。



 !!!!

 俺は言葉にならない程の衝撃を受けた。俺の様子を見ていたみんなは心配そうな表情をしている。

ノイが言った。

「どうしたの? 大丈夫?」



「ノイ……お前……顔にヒビ……ヒビ入ってる」


 俺がそう言うと、全員キョトンとした顔を見せた。

 ………………………。次の瞬間、ノイが言った。

「ちょっとノン君!? いくらなんでもあたしそこまで化粧濃くないんですけど~!! ひどくない!?」


 それを聞いたエラともう一人見慣れないヤツが楽しそうに笑ってた。


 ただ、ノイの顔は相変わらず大きくヒビ割れたままだった――俺、疲れてんのかな。

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