第11話 算数苦手です

「ごちそうさまでしたぁ。ゲームしよっと」

「お粗末様でした」

「サトル、ゲームの前に、宿題あるんでしょ?」

「もう終わったよ」

「ほー、感心だな。何の宿題だ?」

「算数」


 ピコピコピコ……。

 ヒュンヒュン……。


「ご主人様、奥様、お茶どうぞ」

「ありがとう、めいとちゃん」

「ねぇあなた、サトルのことなんだけど……」

「ん?」

「どうもあの子、算数ダメみたいなのよ」

「ダメって、どういうこと?」

「この間の保護者会で先生に言われたの。九九はできるんだけど……」

「うん」

「だから掛け算はいいんだけど……」

「九九ができれば、小学校の内容なら問題ないだろう」

「そうなんだけど、割り算ができないらしいのよ」

「割り算だって基本九九なんだから、できるだろう?」

「それが、割るって意味が理解できないみたいなの」

「意味なんてわかんなくたって、計算の仕方の順序でやれば……」

「で・き・な・い・のっ!」

「ぐっ」

「宿題見せてって言っても見せないし。国語や社会は見せるのに、算数は絶対やだって」

「それ、やばいじゃん」

「先生がおっしゃるには、やってないわけではないんだけど、全部間違ってるって」


 おやおやサトルくん、それは大変ですね。

 確かに、割り算が苦手の子は多いようですが。

 『かける、ひく、おろす』は、早く覚えたほうがいいですよ。

 二桁の数字で割る、小数の割り算になる前になんとかしましょ。



「なんで宿題リビングでやらなきゃいけないの?」

「パパと決めたの。今日は何の宿題?」

「漢字と算数……」

「算数は割り算?」

「うん……」

「じゃあ、算数から」


 カオルさん、容赦ないです。

 ま、これでサトルくん、割り算できるようになればいいですよね。


「はい一問目、四十二割る五」

「うーんと、ごはしじゅうだから……四十足す二で、四十二、答えは八十二」

「なんでそうなるの……掛け算は使うけど、そうじゃないでしょ?」

「わ・か・ん・な・いっ!」

「まず、どうしてそんな筆算になるの?」

「そう習ったもん」

「嘘はだめ。割り算は、足し算や掛け算みたいに書かないでしょ? 教科書見て」

「・・・」

「四十二書いて、割るは左にカタカナの『ノ』みたいの書いて、五書いて、横棒」

「もうやだ! やらない」

「やらなきゃできるようにならないでしょ!」


 おやおや、ふたりとも熱くなって険悪な雰囲気です。

 めいとさん、ジュースを出すタイミングを完全に失っています。


「もう! めいとやって!」

「わたくし算数は苦手ですから……」

「つかえねぇー」

「ひっ!」

「サトル、何、その言い方! めいとちゃんに謝りなさい!」

「ふん」

「ごめんなさい、めいとちゃん」

「大丈夫です、奥様」

「まったく、言葉遣いも直させなきゃだわ」


 めいとさん、ふたりにジュースを渡して、買い物に出ました。


〈そうですよね、算数くらい教えられないと恥ずかしいです……。お買い物のとき、値段と内容量でどっちがお得かわかります。それって、割り算です。自然に頭で計算しています。でも、それをどうやって教えるかっていうのが難しいんです……。ほ、いいこと考えました〉


 おや、めいとさん、なにやら思いついたようです。

 上手くいきますかね?

 ちょっと心配ではありますが……。



「ママただいまぁー」

「お帰りなさい。何買ってきたの?」

「消しゴムと、色鉛筆。あと、大根一本と、キュウリをひと袋」

「めいとちゃん、ご苦労様」

「いえいえ、何でもございません」


 ここ最近、めいとさんはサトルくんをお買い物に誘っていました。

 もうおわかりですね。

 算数は、生活の中で活用できることを教えていたのです。


「最近サトルの算数はどうだ?」

「めいとちゃんのおかげで、割り算できるようになったのよ」

「それはよかった。めいとちゃんに感謝だな」

「でもね、考え方が妙に主婦っぽいの」

「・・・」


 ははは、やっぱり……。

 実にめいとさんらしいです。

 ま、一先ずはサトルくん、よかったですね。

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