第5話 アポロの散歩

 めいとさん、朝食の片付けのあと、サトルくんのお部屋のお掃除をします。

 机の上を整理して、読みかけの本やマンガを片づけます。

 枕カバーをはがして、ベッドのシーツとパジャマのお洗濯。


「そういえば五月様、ベッドが欲しいとおっしゃってましたね」


 おや、めいとさん、プチホームシックですか?

 あと数時間、午後には五月先生のところに帰れますよ。


 カチャン……。


 おや、ふとんの中からゲームが出てきましたよ。

 さてはサトルくん、ママに見つからないように隠れてゲームしてるのかな?


「うふ、サトル様ったら。でも、奥様には内緒にしておきましょう」


 めいとさん寛大。

 ま、五月先生も似たようなものですからね。



「ハーックショイ!」

「五月先生風邪ですか?」

「違うと思う……」



 サトルくんのお部屋に掃除機をかけ、お洗濯して、アポロくんのお散歩です。

 近くの公園まで行って、飼主さん仲間との交流をしながら遊ばせます。

 めいとさん、上手にお散歩できるでしょうか。


「あら、五月先生のところのメイドさんじゃない?」

「ほんと。でも、連れているのは朝霧さんとこのアポロちゃんよ」

「おはようございます。昨日から、朝霧様のお宅でご奉公することになりました」

「五月先生のところ辞めちゃったの?」

「そうよねえ。言っちゃ悪いけど、五月先生の作品、全然本屋さんで見ないもの」


 どうしましょう、めいとさん。

 皆様誤解されているようですよ。

 ま、五月先生の作品が本屋にないのは本当ですが……。


「皆様、違いますですよ。五月様のところも辞めてはいません」

「あらそうなの?」

「はい。週に数日、朝霧様のお宅でメイドをしております」

「あはは、ごめんなさいね」

「きょ、今日もアポロちゃん元気ねぇ〜」


 めいとさん、このような町の人たちのおっしゃることには慣れてます。

 一番近くにいて、重々わかっていますよね。


〈わかっていますけど、五月様、つくづく人気ないでございますね……〉


 公園で仲良しワンちゃんたちと遊んだら、また明日。

 飼主さんたちはひとり、ひとりと帰っていきました。


「では、わたくしも失礼いたします」

「カオルさんによろしくね。あ、五月先生にも……」

「あい」


 五月先生は完全に付け足しですね。

 アポロくんはまだまだ元気のようで、小走りで家へ向かいます。

 めいとさんも必死でついていきます。


「はあ、はあ、ただいまです。はぁ」

「お帰りなさい、ご苦労様」


 家に上がる前、アポロくんの足の裏を拭いてあげます。

 慣れてるアポロくんは右前足、左前足、後ろ足と、おとなしく拭かれています。

 そして拭き終わると、真っ先に水を飲みにいきます。


「めいとちゃん、のど乾いたでしょ。はい、お水」

「ありがとうございます、奥様」


 ガブガブガブ……。

 ピチャピチャピチャ……。

 ガブガブガブ……。

 ピチャピチャピチャ……。


 どちらもいい飲みっぷりです。

 アポロくんのお皿もめいとさんのコップも、すっかり空っぽになりました。


「めいとちゃん、アポロのブラッシングしてあげて」

「はい。ご自分でブラシをくわえてきました」

「そのまま寝ちゃうから、カーペットをコロコロしたら、今日は終わりよ」

「はい、奥様」


 スキスキ、スキスキ……。

 スキスキ、スキスキ……。

 スーピー、スーピー……。

 スキスキ、スキスキ……。

 スーピー、スーピー……。


〈猫は気楽でいいと思っていましたが、犬もけっこう同じですね。とっても気持ち良さそうです。五月様もひなたぼっこでうとうとしてる頃でしょうか……〉


 アポロくんの寝顔を見ながら、五月先生の顔を思い浮かべるめいとさんでした。


 スキスキスキ……。

 スーピースー……。

 うとうとうと……。


〈はっ、いけない!〉

 

 さあ、めいとさん、今度は五月先生のお世話ですよ。

 あちらはどんだけ、散らかってますかね?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る