第4話

【ジジイの課題その1】


ジジイの課題その1。



うんこを食わせるテレアポ



まさおがいやがったり質問したりするのを無視して、ジジイはパソコンの画面を開き、あくびを噛み殺しながら言った。



「とにかく、うんこを食わせたらええだけやから。電話して、その客がうんこを食うことを了承したら、この課題はクリアや。あと、お前、なんで保険の営業の仕事やってて、自分は保険入ってへんねん。変やぞ。」



まさおは耳が痛かった。確かに、何度も何度も上司に迫られた。普通、保険会社に務めてたら、自分はもちろんのこと、親戚、友達にまで入らせるもんだと。



異常だ、異常だと周囲もバカにした。


しかし、そんなことの異常さをはるかに凌駕する異常行動をこれからやらされるのだ。




「うんこを食わせるテレアポなんて、できるわけないがな!アホやろ!お前!」

「お前さあ、死のうとしてたところを命救われたんやろが。命とうんこ食うの、どっちがハードル高いねん。昔の武士が戦で餓死しそうな時、馬の糞を食ったんやぞ。てことは、命のほうがハードル高いんや。うんこ食わせるぐらいできる!社名は“エヌチッチコーポレーション”としてかけろ!つべこべ言わずにやれ!」

「はい!そうっすよね!やります!」



まさおは、またも、妙に納得してしまった。



どちらか選ばせるという論点のずらし方をまた、されてしまったのだ。



うんこと命をくらべるような話は、本質ではなかったはずである。しかし、今、まさおは、ジジイを信用してしまっていた。




ふうと、息を吐くと、まさおは、頭の中で教えてもらったことを組み立てた。


いっぺんにいろんなことはできない。まずは、“小さなイエスを積み重ねる”というのをやってみよう!



まさおの一戦目は下記のようなものになった。ここで、読者も、自分なら、どのように誘導するか、相手の心理なども考えながら、どのような言葉を選ぶのがベストか、考えてみてほしい。





「も、も、もしもし。あ、エヌチッチコーポレーションの吉永です。お忙しいところ、すいません」

「はい。なにか?」

「あのー、奥様、えーと、最近ですね、地球温暖化が取り沙汰されてますよね?」

「はい。まあ」

「でも、まあ、地球がおかしくなってきて、危害が人類に及びだすってなんとなく、みんなが思ってる状況ですよね」

「そう、ですけど、それが?」

「えー、でも、人間は、もし地球温暖化の影響があるとしても、それで死ぬとか自分に限ってはないと思いこんでますよね?」

「それがどうしたの。あなたの会社はなにをやってる会社なの?」

「うんこを食わせる会社です。うんこを食ってください。」



ガチャ。ツーツー。




その時、ジジイが飛んできた。



本当に飛んできたのだ。パソコンのガシャーンという音が聞こえたかと思う瞬間、ジジイはまさおを下敷きにしながら馬乗りになり、何度も殴った。




「うんこを食うのと、地球温暖化と、関係ないやろ!この出来損ないがーっ!」

まさおは、馬乗りになられた状態からうまく右腕を相手の足の隙間に入れ込み、体を時計回りに半回転させながら、なんとか、逃れた。




息をゼエゼエ切らしながら、まさおは、ジジイを突き飛ばし、叫んだ。



「うんこを食うテレアポなんか、できるわけないやろ!このクソジジイ!」

「教えたことできてへんやろが!カス!」

「小さなイエス、積み重ねたやろがい!」

「関係ない小さなイエス積み重ねたって効果あるわけないやろ!」

「そんな偉そうに言うんやったら、なんで、俺を弟子にしたんじゃ!帰る!」

「それは、お前が昔の俺に似てるからやろがーっ!」




キュン!まさおはあやうくキュン死しかけた。



「お、お、俺も、あ、あんたみたいに歳を重ねていきたいとは、お、思ってるけどよ」

「そんなことより、ケガはなかったかい?」

「大丈夫や。そ、それより、パソコン、潰れてしまったかも」

「パソコンなんかより、お前の体が大切や!何を言うとるんや!」



まさおの両目から熱いものがとめどなく流れてきた。こんなに愛されていたとは! この師匠に、一生ついていこう!もともと死ぬところを救ってもらった命なのだから!




さて、読者のみなさんも、まさおのどこがいけなかったか、考えながら、自分だったら、どうやるか、ここで考えてみよう(^_^)

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