俺の母ちゃんは、私のヒーローです

 12年後。



 私は、妻と、娘を連れて、乗用車を走らせていた。

 「お祖母ちゃん、元気かな? 」

 娘が、後部座席で、騒がしくそう言っている。


 「先月も会っただろ? 」

 「しーらないっ」


 「こら、レイナ。お父さんを困らせないの! 」

 賑やかな。いつもの家族の時間だ。



 世界は…………あれから変わった。


 あの直後、急激に減った人物は、余りにも致命的な事だったようで、人物は絶滅の危機を迎えた。

 だが。


 「だから‼ 僕は‼ 科学が専門で‼ 」

 「仕方が無いだろう。あの決戦の時の、君の演説で、心を打たれた国民が数多くいるんだ。大丈夫。この李馬が、しっかりと傍でサポートしよう」


 「だから、話が………‼ 」


 中央島国と、東の大陸は、一つの国となり。

 その代表者に、セセラギ博士と李馬さんが就いた。

 相当、セセラギ博士は拒否したようだけど、彼は、その知能をフルに活用し。人物の危機を救った。その方法が、またユニークだったんだけど………

 長くなるので、また次の機会に………


 ああ…………それと…………


 文明が多く失われた事も関係するが。

 人々は、人工による繁殖を止めた。

 退化だと、反対した者も居た様だけど。

 人物は、かつての様に、男女で恋をし。家族を築く様になった。



 私は………これでよかったのだと思う。


 確かに、人物は、人類の襲来によって、数多くの物を失った。

 でも。

 でも、それは…………

 決して、後ろ向きに考えてはいけない事なのだと思う。


 戻る事によって

 私達は、きっと新たな道を探していける筈だ。

 私は、人物に、その希望を持っている。


 この先、私達が進化したとしても、繫栄したとしても。


 こうやって、愛を育む事を忘れなければ。


 人類とは、同じ道を辿らないと。そう信じている。







 「あ~~~お祖母ちゃん家、着いたね~~~」


 車を降りると、娘がインターホンを連打する。


 「ガチャ」

 戸が開くと、娘がすごい勢いで中に入って行った。


 「わぁ、レイナちゃん。危ないよ…………

 やあ、いらっしゃい。コージロー君。ミクさん」


 「おじゃまします。ゴトーさん」

 そう言うと、髭を蓄えた優しい瞳が、私達を歓迎してくれた。



 部屋の中に入ると、ゆったりとゆりかごの中で、娘と戯れる女性が居た。


 「ただいま。母ちゃん」

 その声に、嬉しそうに、彼女はこちらを向く。


 「お帰り~~コーちゃん」




 「母ちゃん、ゴトーさんに迷惑かけてない? 」


 母は、孫娘とにっこにっこ遊びながら、返す。

 「え~~? 迷惑って例えば何? 」

 「なにい? 」


 くっ、二人で言われると、何だか調子狂う。



 私は、こそこそと、ゴトーさんに近付くと、耳元で囁いた。

 「ゴトーさん、本当にいいんですか? あんな母で…………」

 「な、何の事だい? コージロー君………? 」


 「あんな、母でよろしければ、是非末永くお願いします。お養父さん」


 その言葉に、彼は取り乱した。


 「な、何を言っているんだ。コージロー君‼

 そりゃあ、悠さんは、とても素晴らしい女性だよ‼

 で、でも、私が、彼女のお世話をしているのは

 戦士として、彼女を尊敬しているからで。

 そこには、一切の邪な気持ちなんて…………‼ 」


 人物最強の人は。女性が弱点だったらしい。





 「あ……………そういえばさ」

 私が何気に言った言葉に、部屋に居た皆が注目する。



 「なぁに? コーちゃん? 」

 「コーちゃん? 」

 おいおい、娘にそう呼ばれると、流石に恥ずかしいな。


 「あの時。あの、最後の。宇宙船がこの星に降りてきた時さ。母ちゃん。何を思ってたの? 」

 

 「え? 」


 予想だにしていない質問だったようで、母は、孫娘を優しく膝から降ろすと、義手で顎を押さえ、悩んでいる。


 「あの時ね」


 「うん」


 「ほら、あれ。なんだっけ?

 こーまそー?

 こんぺーとー?

 アレが見えたのよ」


 「なにそれ」


 「きっと、走馬灯の事じゃないかな? 悠さん」


 「そうっ! 軍治さん、それ。

 アレが見えてね?

 お母さんが子どもの頃や、お母さんのママの事。

 お父さんとの出会いや。

 そして。

 コーちゃんが産まれたあの日。

 コーちゃんが、初めて立った日。

 コーちゃんが、初めて『ママ』って言った日

 懐かしかったなぁ」


 母が、瞳を閉じて、懐かしむ様にそう言う。


 「でね?

 あれって、何か人が『死ぬ』前に観るもんだって。聞いてたの思い出したのよ。

 だからね。


 お母さん、逆に、メッチャ気合入っちゃって。

 『死んでたまるか』

 『コーちゃんに、ご飯作ってあげるんだ』ってね、そう思ったの

 そしたら、むっちゃ力が湧いてきちゃって。なんやかんややってたら、どうにかなっちゃったわけ」


 そう、当然の様に、笑いながら、母は、そう言った。



 私達は、その解答に、皆呆気にとられ、口を開けたまま、母を見つめていた。



 全く。


 この人には。


 私の母ちゃんには。


 本当に。







 敵わないな。

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