力の代償

 時は、少し過ぎ。私の誕生日の前日。

 舞台は東の大陸『ユグドラシル』本部、極秘会議室。

 円状に囲まれた机の周りに座るのは、私の住む島国の最高権力者や『ユグドラシル』の総司令官。そして、各大陸の『ユグドラシル』のトップ。

 つまり、現在の人物達の中で最もこの星の存亡に影響する者達だ。


 「信じられん。くだらない酔狂だね。」

 西の大陸の隊長と、白衣の研究員が同時に、そのデータを投げ捨てる。


 「残念ですが。

 ほぼ100に近い可能性で僕は、これが事実だと認識しているよ。」


 その二人の厳しい言葉に、真っ向から立ち向かうのは、正面の壇上に上がり、データを背に、講義をしている、少しだけ清潔になった、セセラギ博士の姿だった。


 「では、尋ねよう。何故、このような結果が導かれたのか。その要因を。」

 次に、彼に言葉の槍を向けたのは、南の大陸の真っ黒な肌をした男だ。


 「僕は、実は彼らがこの星にやって来た8年前。

 その時既に、何か………

 そう。共有感シンパシーに近い何か。を感じていました。

 そして、初めて軍用戦闘機が、宇宙外生命体を一機撃ち落とした時の部品で、

 それは確信に変化しました。」


 そこで、彼は顎の剃り忘れた髭の触感を楽しみ、先走りそうな心を落ち着かせた。


 「僕が考案した『アマテラス』は、彼らの残骸。

 つまりは死骸から共用したパーツにより完成したのです。

 要するに彼らは…………いや。この星を襲ったあの物体は。

 『生物』ではない。人工的に作られた『兵器』なのです。それも、我々の兵器『アマテラス』などよりも、遥かにハイテクノロジーな。ね。」


 「‼ 」

 「⁉ 」

 「‼ ⁉ 」

 

 その場に居た全員が、その言葉に戦慄を覚えた事だろう。


 それは、そうだ。彼らは今まで、この星を襲っているそれは、ただただ自分達を滅ぼそうとしてくる、悪物にしか見ていなかった。


 いや、見ようとしていなかったのだ。

 自分達を襲ってくる相手なのに。何故?


 見たくなかった。知りたくなかったのだ。

 それを知ってしまえば。


 自分達が唯一『有利』と思っている部分が。消滅してしまうからだ。だから、目を閉じて。自分達の部下をその不確かな相手にぶつけた。


 それが、どれほど。愚者の浅知恵だと、セセラギ博士は…………いや、彼以外にも、そう叫びたかった者は、各部隊に居た事だろう。


 セセラギ博士が、これを明らかに出来たのは。彼の最大の支援者が。この星を代表する超戦士のゴトーさんだったからだ。


 「そして、ここからが、本題です。」


 まるで、その場に居た者が一斉に息を呑んだようだった。


 「先の結論が導き出せたのなら、我々を襲ってくるこの侵略者の正体も、

 朧気ながら見えてきます。」


 「正体だと? 」 北の大陸の大男が口を挟んだ。


 しかし、セセラギ博士は一向に構わない。と言った態度で話を続けた。

 

 「ええ。そうです。

 我々を八年前に恐怖に陥れた、あの見た事も無い異形のモノ『宇宙外生命体』と名付けられた彼らは。

 造られた物だったのです。

 では、誰に造られたのか?

 彼が使っていた道具は、この星には存在しない物でした。

 しかし、仕組みが解れば、代用の品は、存在しました。

 そうして、作られたのが『アマテラス』です。

 つまり。

 我々と彼らは同じ構成を考える事が出来る。つまりは。

 この星以外で。

 我々人物と、同じ進化を遂げた生命体の可能性が高いのです。」


 「はっ‼ 」


 「馬鹿馬鹿しい‼

  我々に対して、その様なまるで、子どものおもちゃドローンの様な方法で攻撃をしているだと⁉ そんな、確実性の無い方法をとるなど、やはり、奴らには知性の欠片も感じぬ。」

 そこで、痣気笑うのは南の大陸の戦士隊長『グルンガスト』さんだった。


 「……そうでしょうか?

  僕は、宇宙外生命体が、我々よりも、遥かに合理的且つ確実的な手段を打っていると思います。」


 全員が、セセラギ博士の言葉の続きに耳を傾ける。


 「彼らは、機械を遠隔操作リモートコントロールしているだけです。

 我々の様に、個を犠牲にして、戦力。つまり人物数を減らさずして、こちらを攻撃している事になるのですよ? 」






 「……………素晴らしい。素晴らしい見解だ。Mr………セセラギ。」


 全員が、呆気にとられ、冷汗を浮かべる中、東の大陸の研究員、李馬リヴァさんが、拍手でセセラギ博士の論に賛辞を送った。


 男でありながら、彼は背中まで伸びた艶やかな鈍色が、印象的だったという。そして、細く、相手に威圧感を与えるその瞳で、さらに続けた。



 「ところで、そこまで解ったのなら………君の事だ。

 当然、対策も………もう、あるんだろう? 」両手を顔の前に組み、李馬さんは妖しく微笑む。


 「正直言って、根本を解決させるメドなどは、全くありません。

 何故なら、彼らの正体が見えただけで、我々は彼らと接触する事が出来ていませんから。唯一解読出来た暗号信号は『エゴイスト』という言葉だけ。

 これが何を意味しているのか。彼らの名前なのか?

 それとも、僕らこの星の人物に対して向けたメッセージなのか?

 それすらも解りません。


 ただ…………

 

 先日、五頭軍治率いる、我が部隊が『新型の』宇宙外生命体を確保し、そのシステムを解読する事に成功しました。


 彼らは、この勢力を三年間にも、少しずつ『兵器』を改良していたのです。

 そして、それがこちらにも使える事が解りました。」


 そこまで言うと、セセラギ博士は、その会議室の中央に、立体水蒸気モニターに、それを浮かび上がらせた。


 「そうですね。これにはまだ名前を付けていません。

 前作が、我が島国に伝わる神の名を借りたので、これは、その上を行くとして……その神のモデルの惑星。

 『タイヨウ』とでも名付けましょうか。」


 そのモニターに映し出された3Dモニターは、人型パワードスーツ。


 「なんだ。向こうのテクノロジーを奪った割には、無人機ではなく、また人物を主体とした補強スーツなのか? 『アマテラス』と、そう変わらんように見えるが。」李馬が、眉をしかめて、その映像を見、そしてセセラギ博士に向きなおった。


 その様子に、セセラギ博士は「待ってたよ」と言わんばかりに、机を叩いた。


 「いいでしょう。何故、この『タイヨウ』が有人を必要とするか。

 それは、僕が10年以上前から着手していたシステム『意識物質変換システム』通称ISが深く関与します。」


 「意識物質変換システム………? 」


 「皆さんは、100数年前、この星で流行っていた『ヒーロー映画』を見た事が有りますか? この島国をはじめ、全ての大陸で文化として根付いていたものです。僕も子どもの頃に彼らの活躍を見て。その幼心を熱く燃やしたものです。」


 「なにが言いたいのだ‼ 」堪らず、グルンガストさんが部屋が揺れる様な怒号を挟む。

 

 「静かに………今、セセラギ博士の説明中だ…………」それを冷たく制するのが、李馬さんの注意だったという。


 「…………話を続けて宜しいでしょうか?


 きっと、皆さんにも憶えがある筈なのです『この画面の向こうのヒーロー』になりたい……と。

 しかし、彼らは我々人物とは、根本的に違います。身体は鋼鉄の様に丈夫だし、それを抱える山をも砕く筋力もあり得ません。

 全ては、己の脳内の中で想像……妄想している事しか……出来ませんでした……

 でも………

 でも……………最近の宇宙外生命体のパーツで………遂に、そのテクノロジーの領域に達せたというなら? 」

 

 その場に居たほとんどの人物が「出来たのか‼ 」と立ち上がった。


 セセラギ博士は、一度深く息を吸い………続けた。

 「出来たのか。という質問にはNOと答えます。

 ですが………

 出来るのか? という質問には……………YES……です。」


 次の瞬間、立体水蒸気モニターに別の画像が、各大陸の説明文付きで、映し出された。


 「脊髄から、延髄、小脳、大脳皮質へと、コネクトカテーテルを通し、脳内にて分泌されるアドレナリンや、βエンドルフィンといった脳内ホルモンの増加………つまり『感情の高ぶり』を感知する事により、連結されたパワードスーツ『タイヨウ』へと情報がリンクされ、その性能を変動させる事が理論上、可能となりました。」


 「脊髄や、脳にカテーテルを通すだと‼ バカな⁉ そんな事をして、人物が生命機能を維持出来るものか‼ 」

 部屋の中が騒然となる。その様子を静かにセセラギ博士は見ていた。


 後に教えてもらった。このポイントこそがこのシステムの最大のデメリットであり、彼らに理解を得る為に、最後までその口説き文句を考えていたのだと。


 そうして、彼は。

 『悪魔の提案』を囁く。


 「皆さんの言う通り、このシステム介入手術の成功率は………サルなどを使った事前実験で成功率7%という低確率のものでした。

 …………その7%の内、後日に異常動作が見られ死亡したサルが80%………

 しかし、700匹のその実験の内、今も生きているサルが……2匹います。


 そう…………


 不可能では………無いのです。


 今…………今現在は共通の脅威が現れた為、我々人物は種族一体となり、奴らに立ち向かっています………が。

 200年前までは、我が島国も、其々の大陸も………同じ人物同士で皆争い、多くの犠牲が払われました。

 彼らと、今回のこの件を一緒にする気はありません。

 しかし、脅威を退けるという意味で、我々は必ず代償を払わなければならないのです……」



 「だが、これはあまりにも…………分の悪い賭けだな。男が少ない個所としては、貴重な戦力を失う訳にもいかない。現存の『アマテラス』をグレードアップする事で、現在の宇宙外生命体の進行を抑えきれているという事実からも、これを全大陸で容認は………出来ないだろうな。」


 最後まで、口を挟まず、その説明を受けた李馬さんから、否定的な意見が放たれ、それを皮切りに、その場に居た皆が李馬さん側に付き、否定を始めた。


 「そうだ。こんなもの人権を無視した悍ましい計画だ。」


 「人物改造などと、生物を作り与えたもうし神への冒涜だ。」


 その批判に、ゴトーさんも、瞳を落し、口を紡ぐ。


 「しかし、相手がもし。

 『アマテラス』では防げない様な……………そんな兵器を隠していれば?

 それがこの星に送られた時。

 この『タイヨウ』が使えなければ。

 それから手術をして、戦う事など、それこそ不可能です。

 今こそ、我々は決断する時なのです。

 『犠牲』の上の全人物の『守護』をとるか。

 『犠牲』を払わず。相手が『その力』を持っていない事を祈って、脅えているか。」


 李馬が、その言葉に、セセラギ博士の属する島国の『ユグドラシル』の代表に視線を移した。


 「と、いう事は……………貴方達の国は、この実験………もとい研究に前向きなのですね? 」

 その言葉に、ビクッと肩を震わせて私達の島国の『ユグドラシル』代表は、苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべた。

 その様子を見て、ゴトーさんがそれに答えた。


 「無論。我々の国は。潺咢氏の提案と研究、並びに推測を肯定します。」

 

 「では、実験により、逆にこの星の戦力が低下して、壊滅に向かった際に、

 責任をとると? 」

 

 「………その時には、この星の防衛の為に、死力を尽くすのみです。そもそも、この星が壊滅に向かったとして…………我々は誰に、責任をとるというのですか? 」

 ゴトーさんのその反論に、相手は思わず怒りを目に浮かべた。


 「それと、一つ。それについて、我々の国から提案があります。」


 その、ゴトーさんの続きの言葉………つまりその……私達の国の『提案』に、各大陸の代表は、驚愕した。

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