第5話drei 1

バイト先から疲れてヘトヘトになった私を、爽やかな笑顔で出迎えてくれるー・・・・・・・・訳ないよね。



帰宅し玄関の扉をあけて最初に目に入ってきたのは、恐らく充電が切れたのであろう。

あの人から送られてきた鉄屑が玄関前に無様に転がっていた。



・・・こんなに充電が切れるのが早いの?


・・・自分で充電する機能はないのか!


・・・電気代が馬鹿にならない。



あれこれ考えながら、鉄屑を引きずり充電をする。

何の約にも立たない。

ただ電気代がかかるだけの物体。



重たい物を引きずったからなのか?

それとも昨日から寝ていなかったからなのか?


久しぶりに 眠い という感情が沸き起こった。



御飯を食べることもシャワーを浴びることもなく、そのまま一人がけソファに転がる。

このソファはコツコツとバイトしたお金を貯めて買ったもの。

この家の家具全て自分で買った。



あの人は何も買ってくれなかった。



節約に節約を重ねた生活の中、あの人から送られてきた電気代だけ無駄にかかる鉄屑。

こいつなんてこのまま海の中に沈んでしまえばいいのに。



凄く苦しい訳じゃなかった。

なんとなく何かがまとわりつく不快感。

目を開けると、そこには鉄屑が私の上に上乗りになりその両手は私の首へと伸びていた。

血が通っていない、温度がない冷たい手。


鉄屑の無表情な目と私の生気のない目が合う。



すると、鉄屑は私の首から自分の両手を離した。



「・・・・・・そのまま締めちゃっても良かったのに」



ボソっと私が言うと、



「目があくと中断です」


そう言い、少し離れた場所まで歩き、停止するとその場に座り私の方を見た。




やっぱりね。

コイツは私を殺すためにあの人が送り込んだんだ。




「目があいててもいいじゃない。殺してしまえば死人に口なし。

誰が犯人だなんてバレやしないよ」



私はこいつにそう言い笑った。

あの人が私の事を殺したいのなら別にそれでもいい。


私には将来の夢がない。


やりたい事はない。

ただ黙々と寿命まで働き、生き続ける事に何の希望も持てない。

誰かと付き合える訳がない。

私みたいな人間がまともな結婚生活をおくれるとは思えない。

マトモな子供の育て方なんてわからない。


何もない。

私は何も持ち合わせてもいない。

ヒエラルキーの最下層。



私が死んだって喜ぶ人間はいても、悲しむ人は誰もいない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る