第三章 迷宮都市ラピュリス編

迷宮都市ラピュリス編① 〜迷宮都市と魔術都市〜

「ねえレオ、私思ったことがあるんだけどいいかしら?」


「ん? なんだよ変にかしこまって……てか、そうやってかしこまると絵になるな」


 俺がそう言ってしまうほど今のステラは絵になっていた。

 俺はふとこれが普段からやれていればと思ってしまいそれを察したのかステラに睨まられる。


「ねえ、何か失礼なことを考えていない? 場合によっては今すぐ何本か剣を出してもいいんだけど」


「悪い、悪かったって、だから剣を召喚しようとしないでくれ」


 俺が必死に謝ったことでステラは出そうとしていた剣をしまい改めて話を再開させた。


「で、思ったことがっていうのは……ねえ最近明らかに野宿の回数が増えてない? しかも町が案外近くにあるのに……」


 俺はその発言が出て遂にか……と天を仰いだ。

 そうステラの指摘通りここ最近……というかグラム共和国の中央都市を出てからというもの俺たちは最初の方は宿を取っていたがここ最近いくつかの町を通ったがたまに食料品を買う程度であとはもう先へ先へと歩みを進めていた。


 ステラの少し後ろにいるラピスに視線を向ける。

 ラピスはなんで俺がこんなにも先を急いでいたのかに気づいていたのか俺の視線から逃れるように顔を背ける。


 そんな俺とラピスのやりとりをステラはジト目で睨む。


「ねえ、なに私の知らないところで通じあってんのよあんたら」


 ステラはまた手を上に掲げ始める。


「ちょっ! おい! やめろ!! 星剣は流石にシャレにならない」


 俺は制止の声を挙げるがステラは聞く様子なく「我はこの大空に輝く……」と詠唱すらし始めた。


「待てってステラ! ちゃんと話すから! 理由話すから落ち着け」


 俺の必死の懇願でステラは落ち着いてくれたのか詠唱をやめてくれた。


「で、なんで最近野宿が続いてるのよ。仮にもまだ嫁入り前のうら若き乙女が2人もいるのよ」


 ステラの咎めるような視線に居心地の悪さを感じつつも俺は理由を答えることにした。


「…………金がない」


「え?」


「だーかーらー!! 金がねえって言ってんだ!」


「いや、聞こえてるわよ! けど中央都市出る前はそこそこあったわよね? 素材の換金もしてたみたいだし」


 ステラの言い分はもっともである。俺たちが中央都市を出た時はそれなりに金はあった。


 だがその金はこの道中で気づいたら消えていた……。

 理由は単純明快。


「この旅の道中にラピスが増えたことによってお前が宿を取る際に言ったあの言葉が原因だよ」


 俺は仕返しとばかりにステラにジト目を向ける。


「え、えーと……」


 ステラは露骨に目をそらす。


 その後ろにいるラピスも相変わらず視線を合わそうとせずそっぽを向いている。


「よし、あえて忘れたのかホントに忘れたのかは知らんが言ってやる。お前が1部屋で済むものをわざわざ女と男で部屋を分けるべきだとか言って2部屋借りることになったからだろうが!」


 俺の咎める視線から逃げる二人の顔から汗が流れる。


「で、さらには旅の醍醐味は美味しいものを食べ歩きしていくものだ! とか言って寄る村、寄る町で飯をバクバク食っていたのはどこのお姫様だっけな?」


 どこぞのお姫様はその言葉で観念したようで項垂れる。そして絞り出すようなか細い声で

「ごめんなさい……」

 と謝る。


 俺はため息をつき項垂れるステラの頭をくしゃくしゃと乱暴に撫でる。


「別にそこまで怒ってねえよ。ただ少しは気をつけてくれって話だ」


 俺がひとしきり撫でるとステラは顔を上げる。


「……どちらにせよこれからどうする?」


 次に口を開いたのは今までだんまりを決め込んでいたラピスだった。


「ん? お前なら理解してると思っていたけど案外わからないもんか?」


 ラピスは少し考え込むが結局分からなかった様子で首を振る。


「傭兵をやってるなら知ってると思ってたけど……お前は流れ者ドリフターだったな。なら仕方がないか……」


「1人で納得されても困る。早く言うべき」


 ラピスは少し怒気を孕んだ口調で俺を咎める。俺は肩をすくめ、説明することにした。


「俺たちは今、グラム共和国を出て帝国やライナードとは反対の方向に進んでいる。それは理解してるな?」


 2人は俺の問いかけに頷く。俺はそれを確認して話を続ける。


「でだ、俺たちの進路的にはこのまま行けば魔術都市国家〈ウェスタリア〉に着く」


「魔術都市国家?」


 ステラはやはりと言うべきか〈ウェスタリア〉のことは知らず首をかしげる。


「ああ、〈ウェスタリア〉は魔術と呼ばれる一種の現象を専門的に研究してる都市なんだ。確か5年ぐらい前か? 〈バルレーベン〉の属国になることによって国として成り立ったってのを聞いてるな」


「〈バルレーベン〉? ……て、ここからでもだいぶ距離あるのにさらに先にあるその〈ウェスタリア〉を属国にしてるの?」


「そうだ。まあ〈バルレーベン〉に関して言うなら物理的距離はさほど考えなくていいからな……」


 俺はそう言ってあの胡散臭い笑みをいつも浮かべてる青年を頭に浮かべる。ふと視線をラピスの方に向けると同じ青年を思い浮かべているのか苦虫を噛み潰した顔をしていた。


「で、話が脱線しかけてたけどその魔術都市? でどうやってお金を稼ぐのよ」


「ん? いや、金を稼ぐのは魔術都市でじゃないぞ」


「え?」


「まだ説明の途中だったから仕方ないな。〈ウェスタリア〉はこのまま進めば着くって話で金稼ぎはまた別の場所だ」


「別の場所?」


「……迷宮都市」


 俺とステラの会話を無言で聞いていたラピスは何かに気づいたみたいでつぶやいた。


「ああ、その通りだラピス。〈ウエストリア〉までの道中には迷宮都市〈ラピュリス〉っていう場所がある。そこは迷宮都市って名の通り大量の迷宮が付近にあるんだ」


「迷宮?」


 やはりというべきかステラは迷宮のことを知らないらしく首をかしげている。


「迷宮の詳しい説明は都市についてからしっかりしてやる。だから今はとりあえず宝の山だけど魔物がうじゃうじゃいる洞窟って感じで覚えとけ」


「なにそのてきとうな説明……」


 ステラが俺のてきとうな説明に呆れてジト目を向けるが俺は知らん顔で話を続ける。


「とりあえず迷宮都市で1週間から2週間ほど迷宮に籠もればグラムを出た時よりも多くの金が入るはずだ。場合によっては傭兵への依頼も受ければさらに入るからな」


 俺はそう言って歩を進める速度を速める。

 ステラとラピスもそれについて行くように速度を上げた。


────────────────────


 それから数時間後俺らは特に何かしらの問題が起きるわけでもなく目的地の迷宮都市〈ラピュリス〉が目視できる所まで着いた。

 目視できるとは言ったが内部がしっかり見えるというわけではなく、


「ねえレオ。あの高い壁はなんなの?」


 ステラが聞いた通り迷宮都市は高い壁に囲まれていた。そのため内部の都市の部分が見えず逆に見えるのはその高い壁と内部に通じる門だけであった。


「あの壁は迷宮の『氾濫』が起きた場合のために都市を守るための壁だ」


「氾濫?」


「ああ、迷宮は際限なく魔獣を生み出すんだがその生み出すシステムにも周期があったりするんだ。だがたまにそのシステムが狂って迷宮が大量に魔獣を生み出す時がある。そして迷宮内が飽和状態になると魔物は迷宮の外にでらようになる。それが『氾濫』と呼ばれる現象だ」


 俺が説明し終えるとステラは難しい顔してうんうんと唸っていた。対してラピスは理解できていたみたいで普段の顔とあまり区別はつかないが少し得意げな顔をしていた。


「とりあえず2人とももう見えるところまで来たから気を引き締めろよ。少なくともステラ、お前は俺と同様追われてる身なんだからまた、グラムみたいな問題はくれぐれも起こすなよ」


 俺はステラにそう言い含めて門に向かった。


 ラピュリスの門はグラム共和国とは違い身分証の提示だけで簡単に通れた。


「案外簡単に通れたものね。グラムみたいなめんどくさい入国審査があると思ってたわ」


「まあな、このラピュリスは迷宮から出る素材の売買で商人やそもそも迷宮に向かうためで都市の出入りが多いからな。わざわざ入国審査なんてやるのはそれこそバカらしいだろ」


「なるほど……」


 俺らはそんな会話をしながら都市内を歩いた。〈ラピュリス〉は迷宮都市というだけあって迷宮に潜る際必要となる武器や地図、食料品を取り扱う店が多い。その他にも宿屋とかがあり民家がほぼなくある建物はほとんどが何かしらの店であった。


「とりあえずどこに向かうのレオ?」


 キョロキョロと周りの景色を興味深く眺めていたステラが一旦それをやめ聞いてくる。


「とりあえずは酒場だ。まず、迷宮に潜るために必須の人材を揃える」


「人材?」


「ああ、俺やステラはまだいいがラピスを見ろ」


 俺がそういうとステラはラピスを見る。ラピスの手にはそこそこ大きめのトランクが握られていた。


「そういえば、ラピスは次元箱ディメンションボックスは使わないの?」


 ステラのこの質問にラピスは首を振る。


「もうすでに使っている。このトランクは次元箱に入らなかった分を入れてる」


「え? 入らないってことがあるの?」


 ステラは心底不思議そうな声をあげた。

 ラピスはステラに悪意があって言ったわけじゃないというのをわかってからハァと大きなため息を吐いたあとステラに諭すような口調で話し始めた。


「ステラの持ってる次元箱がどんなサイズのものかは知らないが普通の人間は大きくて1週間分の食料が入ればいいぐらいのサイズのものを使う。ちなみに私はそのサイズ」


 ラピスはそう言って腰につけている留め具から小さな箱を外した。


「オープン」


 ラピスが一言呟くと箱はひとりでに開いた。


「とりあえず箱の中身の閲覧」


 ラピスの次の一言で箱の真上の空間にいきなり映像が映し出される。

 俺とステラはその映像を見て驚いた。


「え? なによ! この中身」


 ステラがそう言ってしまうぐらいラピスの次元箱の中身は驚かされるものだった。


「なによって言われてもこれは私が仕事で使うための道具なんだけど」


 ラピスはそう言って次元箱を閉じた。


「どちらにせよ次元箱の中身が火薬と金属だけっていうのは初めて見たな」


 俺はそんな感想をこぼすとラピスは心外だという顔を見せる。


「まあとりあえず、そういうことも含めて迷宮採集者コレクターを探すからとりあえずそれっぽいやつ見つけたら俺に教えてくれ」


 俺はそういうと酒場の扉を開いて中に入っていった。

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