第一章 旅の始まり編

旅の始まり① 〜最初の村にて〜

 レオとステラの2人の旅は順調に進んでいくはずだった。


「ねぇレオ」

「ん、なんだ?」


 ステラはとレオは背中合わせで立っていた。

 理由は簡単お互いの背中を周りを囲んでる奴らに見せないためだ。


「なんで私たち今魔獣に囲まれてるの?」


 2人を囲んでるのは魔獣。なぜ生まれたのかは一切不明のこの世界にいる生物の一種だ。

 魔獣は大体想像通り人を襲う習性がある。

 そして2人もその魔獣の習性のせいで今約10匹の犬型魔獣に囲まれていた。


「なんで? って言われもなー………まぁ予想できる理由は多数にあるが一番の理由はこんな場所で野宿しようとしたからじゃねぇか?」


「なるほどね確かにそれが一番の理由だと思うわ。だけどね1つ言わせて」


 ステラは1つ間を置き周りを見回しあいも変わらず魔獣に囲まれてる状況を確認しそしてレオナードを睨みつけ怒気を含めた声で


「レオが昼寝しようなんて言ってなかったら今頃ララバイの村に着いてたわよ!!」


 その声に背中を合わせていたレオだけではなく魔獣も思わず驚き後退りしていた。


「確かにそれに関しては悪いと思ってるよ。だけどなステラ、昼寝っていうのはすごく大「んなこと言ってないでさっさとこの囲んでる魔獣をやっつけるわよ!!」


 レオの言い訳を遮りステラは周りを囲んでいる魔獣を睨みつけ


祝福ギフト発動『剣召喚サモンズソード』!!」


 ステラがそう唱えるといつの間にかステラの両手には2本の細身の刀身の剣が握られていた。


 そして1本をレオナードに渡し何も言わずお互い目を合わせ行動の確認をし周りを囲んでいる魔獣に視線を戻した。


 魔獣たちもさすがに痺れを切らしていて2人を襲うタイミングを今か今かと待っていた。

 そんな魔獣達の様子を見て片方は冷たい視線でもう片方は2人を狙っている魔獣よりも獰猛な野獣の目をしてその場から魔獣たち向かって一歩踏み出した。


 そんな2人の行動を見て魔獣たちも2人に襲いかかるがまぁ相手が悪かった。

 片や“元”剣に愛された姫、片や“元”一騎当千と言われた傭兵。

 そんな2人を相手にただの魔獣が勝てるのだろうか。

 答えは否……勝てるわけがない。

 2人がその場から一歩踏み出し数秒、約10匹ほどいた魔物の8割は叩き斬られ残りの2割はそんな仲間の様子を見てその場から一目散に逃げていった。


「チッたいした力も無いくせに私たちを襲ってんじゃないわよ」


 元姫は尻尾巻いて逃げていった魔獣たちを眺めそう罵る。


「おいおい元姫さんそんな口の使い方していいのかよ。気品のカケラもねぇぞ。」


 傭兵は少々呆れ顔でステラに剣を返した。


「あら、ごめんあそばせレオ。男の人と2人きりで2年も過ごしていたら少し口が悪くなってしまったみたいですわ」


 ステラはわざと丁寧な口調で遠回しにレオナードのせいと言って返された剣を受け取った。


「それは悪かったなステラ。」


 レオは苦虫を噛み潰した顔をしていた。


「だがまぁ毎度思うが便利だよな。ステラの祝福ギフトは」


 ——祝福ギフト この世界における三大ブラックボックスの1つと言われなぜ存在するのか未解明なもの。

 諸説は色々とあるがどれも有力な手がかりが見つかっていないため未解明の扱いを受けている。

 祝福ギフトには様々な効果がありそれこそ世界を作り変えるほどの力を持つものもある。

 基本この世界で生まれた人間、獣人、妖精は何かしら1つはその身に祝福ギフトを取得している。

 基本先天的にも後天的にも取得可能であるが後天的な場合は何かしらの条件を満たさなければならずその条件などは個人によるものであり一切特定できていない——


「確かに私もそれは思うわ実際この祝福ギフト持っていなかったら私たちの国はあっという間に〈バルレーベン帝国〉に滅ぼされてたわね」


 ステラの持っていた剣は光の粒となりステラの手から消えた。


「確か〈ライナード王国〉の全員がその祝福ギフトを持っているんだっけか?」


「正確に言うとうちの国で生まれた人間がこの祝福ギフトを取得しているわ。それで軍の少佐以上は何かしらの名のある剣と契約を結ぶことで祝福ギフトが追加されるわ。」


「なるほどな。帝国がいくら戦の国とか言って戦力があろうと戦えば武器や人、兵糧なんかもどんどん消費していく。そのせいで持久戦になると武器不足の心配がないライナードの方が有利になる。そのせいで短期決戦に持ち込みたかったから俺を使うことにしたがその俺が姿をくらましたから帝国は持久戦をせざるを得ない状況になったわけだ。」


「そして王国側は侵略しようとしてきた帝国を追い返すつもりでの戦争だったからそこまで攻め入るつもりがなかった。だから私とレオがいなくなった時点で無駄に持久戦をするよりも終戦した方がいいと考えたからお父様は帝国に交渉を持ちかけたんだと思うわ」


「その甲斐もあって帝国側はライナードから買い取るって形で鉱山の採掘権をもらい当初の目的を果たしたから戦う意味もないだろうってことで終戦した訳だな。」


 レオナードはそう話を締めると歩き出した。


「あれ? レオ今夜はここで野宿じゃなかったの?」


 ステラは歩きだしたレオを追いかけた。


「あぁそのつもりだったんだがあと30キロ弱だし何よりもまた魔獣に囲まれんのが面倒だから進もうと思うがダメか?」


 ステラはそう聞かれ少し考え込んだ。


 そしてすぐに顔を上げ

「確かにそうねまた魔獣に囲まれるのは嫌だし村に着けば宿屋で寝れるのよね。それだったら30キロぐらい歩いても問題ないわ」

 と答えた。


 それから2人は雑談し時々魔獣の襲撃に対応しつつ夜明けの頃には村の入り口に着いた。


「やっと着いたわねレオ」


 ステラの顔は疲労でげっそりとしていた。


「あぁ着いたな」


 レオナードもステラほどではないにせよその顔には疲労の色が見えていた。


「確か私たちがあの家から出て何日ぐらいだったかしら?」


「ちょうど夜も明けたことだから1週間と1日ってところか?」


 レオナードの答えにステラはため息をつき

「あの家に行く時はそんなに日付もかからなかったから知らなかったけど意外と人里まで遠かったのね」

 ステラはそう言い残し倒れそうになるがレオナードがすぐにステラの体を抱きとめ


「せめて宿屋に着くまでもうちょっと頑張ってくれや。ステラ」


 そう言ってステラに肩を貸しそのまま宿屋に向かった。


───────────────────



「1部屋借りたいいくらだ?」


 結局宿屋に着く前に力尽きたステラをおぶっていたレオナードはカウンターの青年に確認した。


「ベッド1つの部屋ですと銅貨3枚、2つの部屋ですと銅貨5枚ですがいかがなさいますか?」


 そう青年に尋ねられおぶっているステラを一回見て

「そうだなベッド2つの部屋で頼む。」

 左手で腰につけた巾着から銅貨5枚出して青年に頼んだ。


「かしこまりました。お部屋は2階に上がってすぐ右に曲がってもらい1番奥の部屋でございます。今鍵をとりに行きますので少々お待ちください。」


 青年はそう言うと鍵をとりにカウンターの奥に入った。


 それからしばらくして奥から出てきた青年から鍵を受け取りステラをおぶったまま2階に上がって右側の1番奥の部屋に向かった。

 部屋につきすぐ片方のベッドにおぶっていたステラを寝かせた。


 ステラは穏やかな寝息を立て心地好さそうにベッドで丸まった。


 そんな様子をレオナードは苦笑しつつ眺めて

「まぁ出発してから8日間まともなベット寝てなかったからしょうがないか」

 とつぶやき自分もベッドに大の字で寝転がった。


 そしてしばらくしてレオナードも眠気に飲まれ意識を手放していた。



────────────────────



 そこはとある戦場だった。

「おいレオナード敵は約200だ。ここの防衛は私とお前の2人で受け持つ。覚悟はいいか?」


「覚悟? んなもんとっくに出来てる!! この戦場に出てきたんだ。暴れねえと治らねぇよ!!」


 あぁ懐かしいな確か7年くらい前か………


 レオナードは微睡みの中そんなことを思っていると場面は切り替わった。


 次は業火に焼かれた村の風景だった。


「レオ……くん…………あなたは幸せに生き…て……あと…………これはお願い……なんだけど…教会に………子供たちがいるから……どうか安全…な場所………ま…………で…………」


 レオナードに抱かれたシスター服の女性は言葉を言い切る前に力尽きた。


「おいシスター。シスター。起きろ頼むから起きてくれよ!! ガキどもはお前のことが大好きなんだぞお前がいなくなったら誰がガキどもの面倒をみるんだ!! おい!!」


 レオナードの呼びかけも虚しくぐったりとしたシスターの身体はなんの反応も示さなかった。


 そしてまた場面が切り替わろうとする中

「レオ。レオ。ほら起きてよレオ!!」

 そんな声とともにレオナードの意識は少しづつ覚醒していった。



「あれ?今のは夢か………」


 レオナードは周りをザッと見た。

 そこは昨日の夜明けにララバイの村で借りた宿屋だった。


「やっと起きたわねレオ。大丈夫だったの? すごくうなされてたみたいだけど」


 レオナードのことを起こしたステラはレオナードの顔を心配した様子で見る。


 レオナードはそんなステラの頭を撫で

「そんなに心配するな。少しだけ傭兵時代の失敗を思い出しただけだ」

 少し引きつってはいるものの笑みを浮かべていた。


「そうレオがそう言うなら大丈夫なのね」


 ステラは少し赤面させつつも嬉しそうに俯いた。


 2人がしばらくそうしてると突然外から叫び声が聞こえた。


「大変だー!! 大変だー!! 村の男どもは助けてくれ!! 男手が必要だー!! 誰かー手伝ってくれー!!」


 レオナードとステラはその声に反応し自分の荷物を手に取りすぐにその声の元に向かった。



「おいどうしたんだ?」


 レオナードは村の中心で叫んでいた男の周りに群がる人の1人にそうたずねると

「あんた旅のもんかい? だったら早く村を出た方がいいぜさっき守衛の人が見たらしいんだが近くにワームが出たらしいしかも5メートル級だってさ」

 村人はそれだけ言うとどこかへ歩いていった。


「レオ、ワームってなに?」


「ん?あーそっかステラは戦争以外で城の外に出ることが少なかったから知らないのか。ワームってのはな簡単に言うとミミズの頭に触手とデカイ口がついたような魔獣だ。主に今ぐらいの季節に出るんだが5メートル級はそうそういないぞ」


 レオナードは少し焦った様子で自分の手荷物を確認した。


「あーこんなことになるんだったら傭兵時代の時に使ってた大剣ぐらいは持ってくるんだったな。」


 レオナードがそうボヤくとステラが


「だったら召喚すればいいんじゃない?」


 至極当然のようにそう言った。


「確かにその手があったな。じゃあワームの討伐に行くかステラ!!」


 レオナードはそう宣言するや早く男手を欲しがっていた村人の元に行き話しかけた。


「なぁあんたワームが出たって聞いんだが本当か?」


 話しかけられた村人は突然見ず知らずの男に話しかけられ戸惑ってはいたがワームの話題が出たためその戸惑いをすぐに振り払った。


「あぁそうだ村を出て200メートルほどの場所に5メートル級のワームが出たんだ。今そいつを討伐するために男手を集めてるんだが正直足りないんだ」


 村人は切羽詰まった調子でレオナードに説明をする。


「じゃあ俺と俺の連れがそのワームの討伐に力を貸してやる。だからもし討伐したら少し頼まれごとをしてくれないか?」


 レオナードの物言いに村人は少し訝しみながら

「ものによるができる範囲だったらだ。」

 と了承してくれた。


「あぁ別に金とかじゃないこの村からグラム共和国の中央都市の入国許可証の発行ができたよな? だから俺と俺の連れの分の許可証2つを優先的に発行してもらえないか?」


 レオナードの頼みに村人は少し考え込み

「まぁそのぐらいなら村長に言えば大丈夫だがその程度でいいのか? 相手はワームとはいえ5メートル級だぞ」


 村人は少し心配した様子でそうたずねるが

「任せとけ!! こう見えてちょっと前まではいくつかの戦場を渡り歩いてたからな。」

 レオナードは自信たっぷりな様子でそう宣言した。


 そんなレオナードの様子を見て村人は頼むと一言言って他の人手を集めようと他の場所へ移動した。


「さてとステラ今の会話の通りだ。さっさと魔獣を倒してグラム共和国に行くぞ。」


「わかったわ。でも何でグラム共和国なの?」


 ステラは先ほどの会話でこの部分を疑問に思っていたみたいだった。


「あぁ理由は簡単だ。俺とステラがこの前まで生活してた場所がだいたい国境線付近の場所だな。その合わさった国ってのが帝国と王国とグラム共和国っていう三ヶ国なわけよ。で、まだ2年しか経ってないからお互いの顔見知りのいる帝国と王国は行かない方がいいってことで共和国に行くってところだ。しかも共和国は色々な人間が集まるし一応あそこでしか取れないものもあるからな。」


「あそこでしか取れないもの?」


「それに関してはまた後で教えてやるから今はさっさと討伐行くぞ。先を越されたら貰えるもんも貰えねぇからな。」


 レオナードはそう言うとワームの元へ向かった。

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