映らない……


「仮にインスタントカメラ等で撮影し画像に残したとしても、姿を収めることはできません」


 そんな……証拠が何も残らないとこっちは記事にすることができないぞ。

 参ったな。まさかこんなことになるとは思わな……ん?


「あの、ってことは、トー君はどういうのか覚えてるの?」


「ええ。バッチリ覚えてますよ」


 「そ、そうなんだ」さも当然の素振りで答えられたので、俺は少し拍子抜けする。


「てことは、イチ君も?」


「はい。僕もイチも“妙奇ジン”なので例外なんです」


 「それは?」俺は新たに出てきたワードの意味を問う。


「妙奇を持っている、つまり怪異が視える、人のことです」


 てことは、妙奇人ということか。


「ちなみに、先程の“怪異”についてですが、妙奇人によって呼び名が多数、様々に存在します」


「様々?」


「ええ。例えば、ファンタジー感溢れる名前にしたり、小難しい漢字を並べたようなのにしたり、アメリカのハリケーンみたく外国人っぽい名前をつけるのもいれば、僕らみたいに個々の名前をつけずに全体を包括した名前をつけていたりも当然。十人十色、千差万別、多種多様。妙奇人同士でも、一度聞いただけじゃ分からないぐらい、色んな呼び方があるんです」


 「へえー……」俺にはそう応えるしかできない。だってそれが彼らの中での、妙奇人の中での決まりごとなのだから。郷に行っては郷に従えじゃないけど、そう決められてるのならそうだと思うしかない。とは言いつつも、なんとも変な話というか、他に類を見ない事柄ではあるが。

 まあ、兎にも角にも、“妙奇人”は記憶に残るというのは間違いないわけだ。

 俺はそれらのことをメモに残して、軌道修正。


「話は戻るんだけど、怪異の姿形を2人は覚えてるって言ってたよね?」


 「はい」コクリと縦に頷くトー君。

 「ならさ」俺はメモの上にペンを置き、くるりと180度回転させ、「ここに怪異の見た目の詳細を書いてくれないか?」と、トー君の方へ差し出した。


 「えっ?」まさか、みたいな目をするトー君。


「だって、覚えてるんだよね?」


「まぁ……そーなんですけど……」


 トー君は軽く俯き、何故か急に黙り込んでしまった。言おうか言うまいかで悩んでいるような、そんな表情を浮かべている。どうしたんだろう?


「お待たせ〜」


 声のした方を見ると、階段そばにイチ君が立っていた。表情は声同様、明るくにこやかで満足げ。トレーの上には、今にも崩れそうなくらい山積みになった大量のハンバーガーが。

 しかも、両手で、じゃない。ベテランウエイターのように片手ずつ、つまり2つのトレーを今イチ君は持っているのだ。


 ……いや、流石に多過ぎやしないか?


「よいしょっ、とぉーい〜」


 自分の座席であるソファに腰を落とすように座る。背もたれにくっつくほどの勢いだったため、トレーが少し斜めになった。積まれたハンバーガーがイチ君側へ少しずれる。一瞬落ちるのではないか、とひやりとしたが、大丈夫。


「こっちは、そこ置いといてくれるか」


 そこ、とは俺の隣でガランとした空席のことだろう。顎で指してもいるし、間違いない。俺は差し出された左手のトレーを両手で貰い受ける。乗った時、思っていたよりも重かったことに少し驚く。よく片手で持ってこれたな、と感心はしていない感想が頭をよぎりながら、隣にそっと置いた。


「実を言うとさ、1回階段でコケそうになったんだよね。だけど、持ち前の運動神経でギリ回避。いや〜危なかった危なかった」


 「そんでっと」イチ君はポケットに上着のポケットに手を突っ込み、何かを掴んで俺の前へ置く。


 「盗んでねぇからな〜」姿を現したのは、1700円とレシート。


「ず、随分買ったね……」


 苦笑いを浮かべて話すと、「だって、いくらまでとは言わなかったろ?」と返された。


 いや、確かにそうだけど……

 初めて見たよ、ファストフードで1万円近く食べる人。いや、さっきのも含めれば、それ以上か。


「んじゃ、2度目の……いっただっきまあ〜す!!」


 さっきと同じ、いやそれよりもデカいかもしれない大きな一口でハンバーガーを食す。半分がもうなくなってしまった。




「大丈夫ですか?」


 声がかかり、俺は遠くに行っていた意識を戻す。「遠くを見つめてましたけど?」心配そうに見ているトー君。声をかけたのも彼だろう。


「あ、あぁ……大丈夫」ぎこちない表情になってしまう。

 どうやら、昨日からの疲労と相まって知らず知らずのうちに寝に近い気絶をしていたみたいだ。


「思ったよりもダメージがデカかったんだな」


 えっ? イチ君の方に目をやる。もうバーガーは残り2個しかない。


「ダメージ?」


 「寿命吸われたダメージ」修飾語を付け加え、そのまま返してくるイチ君。


 そういえば。「あの路地裏で言ってたよね?」

 「何をだ?」イチ君は口についたケチャップを親指で拭う。そして、くわえて、舐めとった。


「その……5日後に死ぬって」


「言ったよ」


「別に疑ってるワケじゃないんだけどさ……そのー根拠っていうのはどこから?」


「そりゃーオレが“妙奇シ”だからだよ」


 ここにきて、また新たなワードが出てきた。

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