第26話スィートデコレーション

「・・・・女って自己中心的でワガママな生き物だよ」



一人で住むにはあまりに広すぎる家。



「・・・・行くか」


吸いかけの煙草を消すと、ソファーから立ち上がった。



1人目の嫁は子供を連れて蒸発。


2人目の嫁は

「こんな生活つまらない」と家を飛び出し、強制的に離婚。

「ごめんなさい。許してください」と言うから許してやり、もう1度結婚し一緒に住む事にしたのに、

「やっぱり貴方って嘘つきね。一緒に住めない」と再び出て行った。


そもそもこの女、ロクに仕事もした事がなければ、男を100人斬ったって話を自慢げに語ってたっけ。

そんなバカ女だから、俺の気持ちなんて考えずにポンと結婚してポンと離婚出来るんだろうな。




バツ3か。

・・・・ま、問題ないけど。



久しぶりにあの子が働いてる居酒屋へ向かった。



「ごめん。あの時は元嫁に騙されちゃって。また嫁に暴言を吐かれて捨てられたんだ」

って言えば、バカなあの子は許してくれる。



別れを告げた日。

俺を殴りに家まで乗り込んでくると思ったら、荷物さえ取りに来なかったお人よしだぜ?

きっとまた俺の 嘘 にまんまと引っかかるに決まってる。



あの女を捨てたとはいえ、失踪したロクでもない父。

娘を人間扱いしていないクズな母。

仕事をしていないバカ姉彼氏に、そんな彼氏にベタ惚れし貢いでるアホ姉。

バカでどうしようもない妹。


そんな救えない底辺一家にしてみたら、バツ3の俺なんて神様的な存在だろ。

やり直したいと土下座でもしたら、許してくれるさ。


そもそもあの一家に俺を否定する権利なんてなかったんだ。

何が「離婚歴がある人と結婚はダメ」だ。

お前たちの方が生きている資格さえないのに。


居酒屋に着くと、従業員が駐車場を清掃していた。


あいつにでも頼んで呼び出してもらうか。



適当な位置に車を駐車すると、従業員へ近づく。



「あの・・・・お仕事中申し訳ありません。

人を呼んで欲しいのですが、よろしいでしょうか?」


「はい、大丈夫ですよ」


流石接客業、従業員は俺と目が合うとニッコリ微笑んだ。



「大西舞子と話がしたいので、呼んでもらえますか?」


大西舞子 その名を口にした途端、従業員の顔から笑顔が消える。



「どうしました?もしかしてもう辞めちゃいましたか?」


チッ、めんどくせ。

何勝手に止めてんだよ。

クズな家庭に育った奴は、仕事もロクに続けれないってか。




「・・・・あの、大西さんはもう働いてないです」


やっぱりな。

あの女仕事辞めたんだ。

次はどこで働いてるんだ?コンビニか?ファーストフード店か?



「そうですか。次、何処で働いてるかわかりますか?」


「次は・・・・・どこも働いてないと思います」



働いてない?まさか、あの時出来た子供を産む事にして生活保護で生活してるとか?

それはチャンス!

俺が父親になると言えば、一発で全て話はうまくいく。



「そうですか、わかりました!じゃあ彼女の実家に真っ直ぐ行きますね」


笑顔で一礼し立ち去ろうとすると、



「あの!・・・実家に戻っても、もう大西さんとは会えません」


「え?何で?」


底辺一家で育った底辺女が、結婚なんて出来る訳ないだろ。

何言ってんだ?この底辺従業員は。







「大西さんは・・・・半年前に自殺しました」





The End

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る