第3話出会い 3

仕事を終えると何も用はないので、即着替えて真っ直ぐ家に帰る。

築20年超えのアパート。

これが私の住んでいる家だ。


時刻はAM0:34。

玄関には見慣れた女物の靴と、小汚い靴があった。

女物の靴は母と姉のものだろう。

そこに今帰ってきた私の靴が加わる。

小汚い靴は・・・・・、またあいつが来てるんだ。

電気は消えているものの、奥の部屋から下品な笑い声が玄関まで聞こえていた。

ガラガラに枯れたやや高めの声。

姉の彼氏の声だ。


一定の職業にはつかず、言い訳をしては点々と転職を繰り返す姉の彼は金がない。

だからうちに転がりこみ住み始めてから、すでに2年が経とうとしている。

「定職についていないから、結婚は出来ないんだ」

なんて、カッコつけてるけど、それがわかってるのなら定職につけよ!・・・なんて突っ込む気も起らず。

何故なら・・・・。




ガチャ。


私が帰宅すると、決まって奴は姉の部屋から出てくる。

30超えてるというのに、金髪の頭にはグラサン。

いつまでたっても、ヤンキー根性が抜けたいみたいだ。




「また仕事が終わって真っ直ぐ帰ってきたのか。

男の所にでも行って、抱かれてくればいいのに。

その年で彼氏も居ないなんて、もしかしてまだ処女とか?」



汚い風貌で、汚い笑顔を浮かべながら、汚い言葉を投げつけてくる。



私はいつも それ とは目を合わす事も返事する事もなく、その隣をすり抜け自分の部屋へと逃げ込む。



汚い・・・・・・・、汚い汚い汚い汚い汚いっ!!!!

汚い男だっ!




私はあの男が大嫌いだ。

男の癖に働く事もなく、女のスネをかじり、いつも小汚い格好をし、汚い声で大笑いをする。

そして私に汚い言葉を投げつける。

デリカシーの欠片もないこいつが大嫌いだ!


頭を掻き毟った。


気持ちが落ち着いてきた頃、ポケットからメモ帳を取り出す。

そのメモ帳は、今日私に告白してくれたあの人がアドレスを書いてくれた紙。


言葉使いが綺麗で、清潔感のある格好をした彼が、私にくれたアドレス。

そのメモ帳をギュっと握りしめる。



この汚い世界で、突然目の前に現れた綺麗な彼。

もしかして貴方が私を、この世界から引っ張り出してくれるのだろうか?



だが彼も所詮男。



先の事はわからない。

それでも希望を持ちたかった。

もうこんな汚い世界とはサヨナラしたかったから。


自分で抜け出す勇気がない。

だからきっかけにだけでもなればいい。


いや、本当は幸せになりたい。

辛い事がたくさんあって、今にも潰れてしまいそうだったから。



今日は早めにベッドに入る。

早く朝になって欲しい。

朝になれば、彼にメールが送れる。

メールを送らなければ、何も始まらない。




真っ暗な部屋の中。

隣から聞こえてくる卑猥な声。

姉と姉彼がヤってるんだろう。



あーーーーーーー、気持ち悪い。




結婚も出来ず、金も稼げない男とヤって何が楽しい?

私はそんな役立たずになんて、絶対に身体を開かない!

もし妊娠したらどうするの?

金がないのに生む?

中絶する?

そんな親の元に生まれた子供は、幸せになれるの?

子供が出来て、男に逃げられたらどうするの?


ヤり捨てされるなんてごめんだ!



両手で耳を塞ぐ。



気持ち悪い。

全てが気持ち悪い。



欲を抑える事が出来ない下品な奴らが大嫌いだ!

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