『通』りた~んず(お湯ラーメン外伝)

桜雪

第一夜

第1話 頭皮の話

 妹に米を頼まれた。

 私の友人、付き合いは28年ほどになるだろうか…実家が農家で食通気取りの友人だ。

 くわしくは『お湯ラーメン』シリーズを数話読んでいただければ、どういう人間か、御理解いただけるだろう。


 その友人に米を売ってもらいに行くのだ。

 隣の市まで…。


「久しぶりだ」

 彼は、老けた…なんだろう同じ歳とは思えないほど老けた。

「あぁ…最近…頭の調子が良く無くて」

(昔から故障中だと思うが…)

「髪が抜けてさー」

(そっちか…いや、それも昔からだ…)

「なんかフケが凄くてさ…」

 と帽子を取る…うん半年前より更に汚く剥げていた。

「皮膚科行ったんだ、そしたら塗り薬くれてさ、塗ってると調子いいんだ」

「そうか…よかったな」

「なんか油が足りないみたい…俺らも歳じゃん」

「そうだな…中年になると油っぽくなるんじゃないのか?」

「ん?そうなのか…いや俺、乾燥していると思うよ…唇とかカサカサだ」

「冬だからな…乾燥するのは年寄りなんじゃないか…」


「だから…今日、俺メシ奢ってやるけど…油を補給しに行くから…なっ」

「お前が金出すなら、文句は言わんが…美味いとこにしてくれ」

「最近、美味くなったんだーあの店」

「最近まで不味かったんだ…その店行きたくない」

「大丈夫、この間行ったら美味かったのラーメン、大丈夫だから、オムライスは食えたもんじゃなかったけど」

「オムライス?……あの店のこと?」

『通』の言う店とは、『お湯ラーメン』第2話で書いた店だ。

「オマエ…まだ通ってたのか…」

「いや…久しぶりに行ったの美味くなってたんだよ」

「ついでに教えとくが…オマエが食ったのはオムライスじゃねぇ…あんかけ炒飯だ」

「卵が乗って…ドロッとしたのが不味いんだオムライス」

「うん…オムライス、あの店メニューに無かったからな」

 10年経っても、『通』はオムライスと炒飯の区別が曖昧なようだ。


「なんだよ~じゃあ別のところにするか~」

「そうしてくれ」

「じゃあ、この店」

 背油系ラーメン…僕の嫌いな…ギトギト系。

「油…補充するんだもんな…付き合うよ…」

「おう!間違っても大盛り頼むなよ!」

 2つの意味があった…ひとつは食いきれないから、もうひとつは自分の奢りだから。

「じゃあチャーシューメン」

「おう…俺は炒飯にするか」

「えっ?オマエ、ラーメンじゃないの?油がどうとか…」

「ん?炒飯が食いたい」

(なぜ…この店にしたんだ…食いたくもないラーメンを食う羽目になったんだ、俺は…)


 運ばれてきたラーメンは、深夜に腹を刺激しそうな油系でした。

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