第31話 遠征

 C&Dとの戦いに向かうべくティキタカ連邦への遠征に帯同した私は、試合前日に現地のコロシアムを視察したの。「試合当日に移動魔法で全員飛べばいいじゃない」って思うかもしれないけど、スポーツ協会の規定で魔法使用に関わる項目があって、試合前は移動魔法が使えないらしいのよ。


 で、このコロシアムは軍事施設を改良したもののせいか、非常に殺風景というか、冷たい感じがしたの。噂によると、観客もほとんどが軍部所属か軍経験者らしくて、体と体のぶつかり合いを求めているみたい。地域によってスポーツの見方も考え方も全然違うのね。ちなみにフィールドの芝の状況はノール・スタジアムよりも短くて、3cmくらいかな、足への負担はそれほどかからない良いフィールドに思えた。


 チームメンバーとティモニーズのみなさんは先に宿にチェックインし、グランドで練習に入ってた。私は彼らに合流し、マスターへの報告を終えると、練習メニューをチェックする。私はこれまで他の国に行くことなんて滅多になかったから少し緊張していたけど、選手のみんなはそれほど疲れもなく、順調そう。


 しばらくすると近寄ってきたメディア陣の取材にマスターが応じ始める。全国でスポーツ熱の機運が高まってきたせいか、大陸10か国各地域の大手メディアが試合前日にも関わらず集まっていたの。まあ今のところうちは1位だしね。


 マスターはジョークを交えながら取材に答えていたんだけど、選手個人個人の質問に対してはあまり真面目には答えないというか、チームプレーの重要さに話をすり替えていた。ジョンモンタナやデヴィッド、トミーについての質問も多いけれど、彼らに期待しつつも、あくまでチーム一丸となってやっていきたい、という模範解答を繰り返す。それでもしつこく「明日もっとも期待するプレーヤーは誰ですか?」と聞いてきたインタビュアーに対しては一言、


「俺だ!」


 と言って締めくくった。よくわからないけどかっこよかった(笑)。



 練習が終わって宿に戻り夕食の時間になると、私はティモニーズの皆さんと同じテーブルについたの。遠征の苦労もねぎらいたかったし、マリアさん、リリアさんを通して先日手伝ってもらった皆さんにお礼を言いたかったから。みなさん良い人たちで、ダンスに情熱を傾けながらも実際はいろいろな気苦労があることを聞けた。私はティモニーズあってのスポーツクラブだと思っていたから、やはり遠征費だけではなく、それなりの給料を支払える体制にしたい、とこの時強く感じたの。


 食事が終わってティモニーさんに呼ばれた私は、そのまま彼女の部屋に行くことに。ワインを頂きながら組織の話をしていると、自然とマスターの話になった。実はティモニーさん、本当にマスターに気があるみたいなのよ。これは是非マスターの良いところを伝えてあげなきゃ、と思った私は、彼のプロフェッショナルな姿勢や、過去に聞いた話など、いかに彼が素晴らしいかをとうとうと語りました。ティモニーさんは満足そうにそれを聞きながら、ふと、


「ミオちゃん、今はあなたがその彼の一番近くにいる女性なわけだけど、あなたは彼のことをどう思ってるの?」


 って聞かれたの。確かに私自身はマスターのことを人として慕ってはいるけれど、恋心はまったく抱いてないです、って言ったのね。で、それがなぜなのか、なぜあのお店で働くことになったのか、それまで私が人間ヒューマンに対して抱いていた気持ちがどう変化したのか、スポーツマンの精神に触れて自分が成長し、どういったことを考えるようになったのかも彼女に話したの。ティモニーさんは私のこれまでの人生の何倍もの経験をされている方だと感じていたし、それに比べれば自分の考えはとても青臭いものだとは思ったけれど、本音を伝えたのよ。するとティモニーさん、


「あなたに出会えて、よかったわ」


 って言ってくれて、彼女自身の生い立ちを話してくれたの。彼女はエルフの里の生まれではあるものの、若いうちに里を離れ、長いこと世界を渡り歩いてきたらしい。彼女の家は昔から裕福らしく、今はたまたまノールランドの復興のために何かできることがないかを探して、ダンス教室を開いたんだけど、それはこれまでの彼女自身の経験から生まれた哲学を若い女性に教える場でもあったの。そんなわけで彼女を慕う女性を中心にティモニーズが結成された、というわけ。


 で、これまでの人生経験で培われた能力というか、彼女は人を見る目が優れているらしいのね。そんな彼女がマスターを見て、ピンときたらしい。この男は本物だと。だけど別の事も感じたらしいの。この人はきっと、ここに長くはいないだろうって。


 エルフの女性は同じエルフや長寿の種族の男性と結婚しない限り、相手の男の最後まで看取ることが多い(そしてそれはとても名誉なことらしい。若くして戦争で死ぬ男も多いから)んだけど、ティモニーさんの考えでは、女にとって一番大事なことは、超一流の男のそばにいることなんだって。それは決してステイタスや自分のプライドを満たすためではなくて、互いに良い影響を与えて高めあえる存在として一緒に過ごすことが大事だって言ってた。


 私の短い人生、短い一生では到底辿り着けない境地だと思うけど、私は彼女に感銘を受けたの。なるほど、長く生きるってことはそういうものなのかもな、って思っちゃった。これまでの私は恋愛観というものが打算的というか、生きるために近視眼的になっていたと思い知らされたの。


 ティモニーさんみたいに達観するレベルにまでは到底至れないけれど、もし自分がこのまま仕事に生きて、経済的に不自由なく暮らせるのであれば相手に依存する必要はないわけだし、逆に伴侶と長く一緒に生きたい、という気持ちが強いのであれば、現在相手のいない私はその時点ですでに機会損失なんだよな~、とあくまで打算的に考えたの。結局私って何から何まで打算なのよ。本当に嫌になっちゃう(笑)。

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