第16話 天の時 地の利 人の輪

「ごめん、あんたとは付き合えない」


 翌日、気持ちを切り替えた私はトミーにはっきり言ったんだ。


 するとあいつ、


「ミオは俺がまだまだガキだって思ってるんだろ?」


 まあ、確かにそれもあるな。


「どこまでやれば、俺の事認めてくれるんだ?」


 さすが勇者、簡単には引き下がらないわね。


「じゃああんたが累計10万ヤード獲得できたらね。私はそんな安い女じゃない」


 そんな安い女じゃない(笑)。自分で言っちゃう私も大概よね。


 だけどトミーは少し考えて、


「うん、わかった」


 って着替えに行った。まああいつが計算とかできないのはしょうがないんだけど、累計10万ヤードって、物理的にほぼ不可能だからね。フィールド換算で言ったら、最低6000点は取れる計算だから。あいつ前の試合では100ヤード獲得したんだけど、毎試合それだけ走ってゲットできたところで、1000試合必要だから最短50年くらいはかかるわけ。それまでにあいつは気がつくんだろうか?


 というのは実は半分冗談で、私には打算があったの。本当はこのお店にマオとナオが働きに来てくれることがすでに決まっていたのよ。だから今後このお店はホークル3人娘+勇者1匹で運営されることになるわけ。で、トミーがそのうち練習に集中するために抜けるから実質的に3人娘のうち2人が常時出勤することになるんだけど、2人が仕事に慣れるまではトミーが指導するのね。だからトミーは近いうちに、マオかナオとくっつくと思うんだ。え? お前は嫌な女だって? 言いたければ言え。私はチームのために鬼になる。


 そんなわけでこれまでの仕事に余裕ができた私は、マスターとゲームの戦略を練ることに。で、次戦に向けて相手チームのこれまでの戦いを見ていたんだけど、これがまた手ごわそうなのよ。


 というのもこの相手チーム、アポロ・ジャイアントカプリコーンズには身長10mクラスの巨人族が二人いるんだけど、彼らはサイクロプスっていう一つ目の巨人なのね。だから遠近感がつかめないせいか、ボールの扱いにはあまり向いていないものの、この守備をこじ開けるのは厄介、というか彼ら力の加減とかできない人たちみたいで、対戦相手は負傷者が続出してた。最後の方はQBをサックしようとして強引に進んで何人か踏み潰したらしく、ゲーム中に敵味方総出で回復魔法かけまくってたし……。


「こりゃ下手すると死人が出るぞ」


 マスターが渋い顔で言った。


「ババンガバンバンギダは出さないほうがいいかもしれません」


 私の言葉にマスターもうなずく。


 ところが、そこに吉報が入ってきたの。


 なんと巨人族の彼ら二人、危険行為で三試合の出場停止が決まったらしいのよ!


「これは運が向いてきたかも」

「いや……まだわからん。控え選手の資料はないか?」


「えーっと、巨人族の登録はあの二人だけで、あとは全員人間みたいです」

「そうか」


 マスターは私が渡した資料に目を通す。


「なるほど。大体わかった」


 そう言ってマスターはいくつかのプランをホワイトボードに書き込んだ。守備に関してはこれまで通り。だけど攻撃については、いくつかのオプションを用意して練習しておき、本番で点差がついたら後半試すつもりらしい。決して相手をあなどっているわけではないけれど、それぞれのタイミングで最善を尽くそうとするマスターって意外と戦略家なのよね。ほめたら「そんなの当たり前だ!」って言われそうだけど。


 というわけで、今週のチーム練習はワイルドキャットの戦術練習や座学を厚めに行うことになりました。これもマオとナオがお店に入ってくれたおかげね。余裕のない中、みんながなんとかギリギリ間に合わせてる感じ。でも連勝中で勢いに乗っている時って、歯車が上手いこと噛み合うというか、全ての意識がゴールに向かって行くというか、全員が全員、自分の能力以上の力を発揮できているというか、何とも言えない一体感に支配された雰囲気なのよね。もちろんあの勇者は座学中、ずっと寝てたけどね(笑)。


 まあ、普段飲んだくれている巨漢のモヒカン選手たちがおとなしく机に座って一生懸命ノートを取っている姿は私にとって、ある意味感動的だったわ。本当はセンターくんとかジョンモンタナとか、めちゃくちゃ真面目なことは知ってたけどね。居残り練習とか、パスを出すタイミングを計りながら真剣にやっている彼らの姿を私はずっと見ていたから。


 その日の帰り道、心地良い疲労を感じながら、私は考えたの。私たちってなんのために生きているのかなって。生きることに必死であることは今も昔も変わらないけれど、それでもそこに何か意味を見いだせないかなって。道端に咲くタンポポにふと目をとめて、それを思ったの。この街も私も、ようやくここまでこれたんだなって。そういったことを考える余裕が生まれてきたんだなって、思った。


 それからの私は、街の至る所で復興の勢いを感じながら、すべてが上手くいくよう神様に毎日祈った。お客さんの声援や、選手たちの前向きな姿勢、サポートしてくれている人たちの気持ちやティモニーズの応援、すべてが結実しますように、すべての努力がみんなを報いてくれますようにって、毎日祈ったの。ほんのちょっとの心がけ、ほんの少しの気遣いがこの街をもっと良くしてくれる、もっと楽しくしてくれる、って思ったから。



 そのみんなの思いが果たしてホームで実を結ぶのか? 次回、ジャイアントカプリコーンズ戦です!

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