Scene.12 Aランク

「ん?」


 刈リ取ル者としての自分の活躍をまとめたブログ、「かりそく! 刈リ取ル者速報」に自分を呼んでいる書き込みがあることに気付いた。


「刈リ取ル者様へ

 私のメッセージが届いているでしょうか?私は手塩にかけて育てた愛娘をいじめで亡くしました。娘の敵討ちがしたいです。どうかご助力をお願いいたします。

 連絡先は090-XXXX-XXXXまで」


(手間はかかるが公衆電話を使うか…)

 乃亜は出来るだけ足がつかないよう公衆電話で男と連絡を取った。




 翌日、乃亜は書き込みをしたと思われる男と待ち合わせをしていた。もちろん正体をばらさないために≪超常者の怪力パラノマル・フォース≫で異形の怪物になり、≪光迂回ライト・ディトゥーアル≫で姿を隠しながら。

 予定の時刻10分前になって、頭の薄い男が重そうなバッグを持ってやって来た。乃亜は透明なまま男の記憶を≪魂読ソウル・リーティング≫で読む。




「真奈美!? 真奈美!!」


 警察車両や警察官をかき分けて進んでゆく。その先には、愛娘が頭から血を流して倒れていた。

 後の調べで遺されたスマホのアプリに暴言が書かれていた事、遺書からいじめがあったとはっきりと書かれていた。だが……


「私たちが確認する中ではいじめはありませんでした」

「ふざけるな! じゃあなんで真奈美は死んだんだ!? この人殺しめ!」

「実態を把握できていない現時点ではコメントは差し控えさせていただきます」


 学校側はまるで海の向こうの外国で起こった出来事のように淡々と処理・・していた。


 許せない。真奈美を殺した奴の事がどうしても許せない。そんな時とある正義のヒーローを思い出した。

 その日彼は助けを求めて書き込みをした。それらすべての記憶が彼の眼を通して見えた。どうやら書き込んだ本人のようだ。

 本人確認が取れたので乃亜は透明なまま声だけでやり取りを始めた。


「よお。俺の声が聞こえるか?」

「!? 誰だ!?」

「怯えなくていい。刈リ取ル者だ。訳があって姿は見せないがちゃんとお前の目の前にいるぞ。何も言わなくていい。記憶は読んだ。真奈美というお前の娘が自殺した、いや『殺された』らしいな」

「……何もかもお見通しなんですね。ならお願いします。あなただけが頼りなんです。どうかあいつらに、真奈美を殺した報いをお与えください」


 男はバッグを渡した。中には札束がギッシリと詰まっていた。


「前払いだ。1週間以内に殺すから待ってろ」


 そう言って飛び去ろうとした瞬間、乃亜の周囲に結界が張られる。


「何だ!?」


 見ると大斧を持った女に弓を構えた女、両手に盾を持った少女に杖を構える少女の4名が現れた。皆Dランクの天使たちより豪華な衣裳で特に大斧を持った女のものはきらびやかだった。乃亜は≪光迂回ライト・ディトゥーアル≫を解除し姿を見せる。ミストも実体化して迎えうつ。


「乃亜、気をつけろ。こいつら手ごわいよ。特に斧を持った奴は俺達とほぼ互角かもしれない」


 ミストが警告する。以前戦った2人組とは格が違う相手だろう。


「貴様がいわゆる真理お姉様とかいう奴か?」

「ええ。そうよ。そういうお前は刈リ取ル者ね? 覚悟しなさい」


 有無を言わさず女たちは襲い掛かって来た。



 先手必勝。刈リ取ル者とミストは真理に鋭い拳の一撃を食らわせる。真理は防御用結界でそれを防ぐ。まるで厚さが1メートルもある鋼鉄の壁を殴っているかのような感覚が拳に返ってくる。


「ちっ!」


 刈リ取ル者が舌打ちした瞬間、弓を持った女が自分の武器を引き絞る。直後、光り輝く矢が現れ、つがえられ、そしてそれを放った。

 放たれた矢は防御用結界で防げるには防げたが突き刺さり穴が空いた。

 そこへ大斧の一撃が加わる。結界は砕け散り斧の刃が右腕に深々と食い込んだ。


「ぐっ!」

「オイ、大丈夫か!?」


 刈リ取ル者は腕を抑えながら≪癒しの手トリート・ファクター≫で腕の傷をいやす。何とかなりそうだが時間がかかりそうだ。

 彼は下がり代わりにミストが迎えうつ。大斧で襲い掛かる女に蹴りで対抗する。が、やはり防御用結界の硬度は硬く一向にガードを割れる気配はない。

 逆に真理の一撃を喰らいミストの左腕が切断される! 切断された腕は紅い霧となってミストの元へと戻った。

 断面から血を噴きだしはしないもののかなり不利であることには変わりない。


「分かった! あの杖を持ったガキが結界の力を増幅させてるんだ!」


 ミストが指示する先には自分の背丈ほどはある大きな杖を持った幼い少女、4人の中で一番後ろで守られているように陣取っている少女がいた。

 アイツを倒せば結界の効果が薄れるかも。そう思い真理の事はミストに任せ、腕が治った刈リ取ル者は彼女の横をすり抜け、少女目がけて地面を蹴る。


「舞! アリアを護って!」

「言われなくても分かってます!」


 舞と呼ばれた両手に盾を持った少女が前に立ちはだかる。刈リ取ル者は全力で殴ったり蹴ったりするが両手に構えた盾のガードは硬い。それにかまけていると横から矢が飛んでくる。


(クソッ! このままじゃ!)


 劣勢に立たされた刈リ取ル者は何かないかと辺りを見回す。仕事を依頼した男と目があった。そう言えば一般市民がいたな……。

 その刹那、刈リ取ル者の頭にこの状況を打開するナイスアイディアが浮かんだ。




 刈リ取ル者は男に近づき、襟元を掴んで彼を真理目がけてぶん投げた。とっさの事だったが真理は両手で彼を受け止めた。


「やはり市民は守るよなぁ? 天使の加護を受けた正義の味方だもんなぁ?」


 それを見た刈リ取ル者がにやりと笑う。自称にしろ正義の味方たるもの一般市民をないがしろにするはずがない。

 彼に一切のけがをさせないために受け止めるだろう。弾き飛ばさないよう防御用の結界を解除して。全て計算ずくの事だった。

 彼女は罠に気付いた。が、間に合わない。


「守りがおろそかだぞ!」


 真理の顔面に鋭い一撃が入る。男を手放し崩れ落ちたところに続けてみぞおちに左フック、さらに回し蹴りを胸に食らわせた。吹き飛ばされ外を覆う結界をぶち破り、外に飛び出した。


「お姉さま!」

「真理さん!」

「姉ね!」


 残りのメンバーは吹き飛ばされた真理お姉様とやらの元へと駆け寄る。


「うう……」

「姉ね、大丈夫?」

「アリア、姉ねなら大丈夫よ」


 真理は心配してくる少女、アリアを優しく諭しながら立ち上がる。


「それにしても一般市民を巻き込むなんて、刈リ取ル者の奴も酷い事しますね。あの人は大丈夫でしょうか?」


舞と呼ばれた少女が巻き込まれた男を心配する。多分大丈夫だとは思うが怪我をしてないか少し不安だ。真理一行は男の元へと戻っていった。

メンバーが真理に気を取られている隙を見て脱出したのか刈リ取ル者はいなかった。真理はとりあえず残された男に聞いてみることにした。


「どうしてあんな悪魔に殺人を依頼したのですか?」

「……他にどうしろっていうんですか。

 真奈美が自殺した日に真奈美の……娘のスマホを見たんです。アプリには目を覆いたくなるような暴言が延々と並んでいたんです。

 それを問い詰めたら『ただの遊びだ』って言ったんです。真奈美は遊びのためにオモチャにされて死んだんですよ!それを我慢しろっていうんですか!?

 それじゃあ……それじゃあ真奈美は何のために産まれてきたっていうんですか!?オモチャにされて死ぬだけの人生だっていうんですか!?こうでもしないと天国にいる真奈美が報われないじゃないですか!」


 男は娘を失った怒りと悲しみを少女たちにぶつける。


「あなたのやってる事は人殺しと同じことです」

「偉そうなこと言うな! お前なんかに……お前らなんかに自分の子供を殺された私の気持ちが分かってたまるか!」


 口論しているところへ女がやって来た。人としては整い過ぎて不気味な程、端整な顔立ちにシミ一つない乳白色の身体に真理たちのような服をまとい、澄んだ金色の髪をした近寄る事すら恐れ難い神々しい雰囲気を漂わせる女であった。


「ザカリエル様……」

「何だお前は?」


 突然の来訪者に男は警戒しつつ問いかける。


「大丈夫です。貴方の悲しみも怒りもすべて忘れてしまえばいいのですから」


 そう言って、男の額に触れる。その直後、男は気を失って倒れた。


「ザカリエル様、いつもありがとうございます」

「心配しなくていいのよ。私にできる事と言えばこれくらいしか無いもの。さあ行きましょう」


 彼女らはその場を離れていった



◇◇◇



「……そうか。私には真奈美という娘がいたのか」

「もう! しっかりしてよ! 真奈美の事でしょ!?」


 男の妻が泣きそうになりながらアルバムを見せる。

 アルバムをいくら見ても彼は今一つ納得のいかない顔をしていた。彼には写真に写っている少女には一切の見覚えが無かった。


(ゲンドウさん娘が死んだショックで彼女の記憶が飛んじゃったらしいわよ)

(真奈美ちゃんの事を一切覚えてないらしいよ。可哀想に……)


 表向きには記憶が「飛んでしまった」とされている。が、実際には人ならざる女の手により「消されてしまった」事に気づいているものなど誰一人としていなかった。

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