平田オリザ「演劇入門」

平田オリザ「演劇入門」(講談社現代新書)を読み終える。落としがちな技術にも触れられていて参考になった。しかし、ハウツーものだけを読んでも……だが、鑑賞の指針にもなるので別にそれはそれで構わない。


例えば「説明セリフ」について触れられている。これは登場人物にとっては既知の情報をわざわざセリフで説明させることである。本来なら例えば家族内など、お互い知ってることは口にしないものだ。


これについては、「内」でカテゴライズされる登場人物に対し、「外」側の登場人物を配置すると会話が自然になりやすい、という技術が紹介されている。またダイレクトに言及するのでなく、遠いイメージから入っていくとよいとも。戯曲では舞台の演者を通してしか説明できないので、こういう配慮が必要なのだろう。小説などとは違った技法が必要ということか。


また「会話(conversation)」と「対話(dialogue)」の違いについて触れられていた。日本語はえてしてムラ社会で、暗黙の了解で話が進むので、演劇上での表現が問題となる。「日本人はこんなにしゃべらないよ」くらいのニュアンスだろうか。西洋から輸入された近代演劇の内包する課題として挙げられていた。これについては、明確な指針は示されてなかった様に思う。恐らく著者の大きな課題なのであろう。


途中、漱石の「三四郎」に触れていて文中で島村抱月の演劇を批判している場面があるそうだ。これは平田氏ご自身が近代演劇の黎明期に対し、何らかの批判的な視点があってのことであろう。僕は島村抱月の著作に触れたことはないが、早稲田文学を主催したりした同郷の人である。金城町の出身だが、旧制中学時代、浜田市に下宿していて、その下宿先が今でも商店街の片隅に残っている。

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